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第43話 第八章 今際
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「ん、いい声いい声。エリヤちゃん、包丁なんて持ってたんだねえ。あたし、危ないところだったんだ」
柚子生先輩は机から降りると、教頭の机の端にある何かの操作盤のボタンを、カタカタと押した。配電盤が壊れていても予備のバッテリーがあるのか、操作盤の液晶パネルがチカチカと点滅した。
それが済むと、柚子生先輩は斯波方先輩の亡骸の脇にしゃがみこんだ。その手にあった包丁を、無骨な指を引き剥がすようにして取り上げる。
もう――駄目だ。
さっきまでは、勝ち目は確かにあった。けれど、もう。
「エリヤちゃん、ばいばい」
柚子生先輩が私の前に立ち、包丁の柄を両手で握り、切っ先を下に向けて振りかぶる。
ああ。
死ぬ。
人間として初めてまともになれた、ある種の誕生日とも言える今日、あんなに鋭い凶暴な金属を体に叩き込まれて、私は死んでしまう。
どこで間違えたのだろう。
どうすれば、間違えずに済んだのだろう。
一瞬の間にどんなに思考を巡らせても、そもそも、自分の人生は間違いしか選んで来なかったような気がしてならなかった。
だから、ここで死ぬのだ。死神の鎌は、すぐ頭上で輝いている。
柚子生先輩が、まさに凶刃を振り下ろさんと、短く吸気した。
そして――……
なぜか。
その刃が、包丁を持つ柚子生先輩自身の、白い喉元に当てられた。ちょうど、さっき斯波方先輩がそうしたように。
「んん?」
柚子生先輩が、首をかしげる。
刃は、ゆっくりと。
けれど、両手に一杯の力を込めて。
その傾いた首を、かき切って行った。
何が起きているのか自分でも分からないような、柚子生先輩の顔。
けれど、新たな血飛沫の中で私は、何が起きているのかを理解した。
私を生き残らせようとしている人が、まだいる。
ただ一人、目の前に。
気づくと同時に、私は絶叫した。
「柚子生先輩! やめて!」
今日の私は、今までに言ったことも無いこの言葉を、何度叫ぶのだろう。
でも、一度として、止められはしない。
一度として――……何一つ。
柚子生先輩は机から降りると、教頭の机の端にある何かの操作盤のボタンを、カタカタと押した。配電盤が壊れていても予備のバッテリーがあるのか、操作盤の液晶パネルがチカチカと点滅した。
それが済むと、柚子生先輩は斯波方先輩の亡骸の脇にしゃがみこんだ。その手にあった包丁を、無骨な指を引き剥がすようにして取り上げる。
もう――駄目だ。
さっきまでは、勝ち目は確かにあった。けれど、もう。
「エリヤちゃん、ばいばい」
柚子生先輩が私の前に立ち、包丁の柄を両手で握り、切っ先を下に向けて振りかぶる。
ああ。
死ぬ。
人間として初めてまともになれた、ある種の誕生日とも言える今日、あんなに鋭い凶暴な金属を体に叩き込まれて、私は死んでしまう。
どこで間違えたのだろう。
どうすれば、間違えずに済んだのだろう。
一瞬の間にどんなに思考を巡らせても、そもそも、自分の人生は間違いしか選んで来なかったような気がしてならなかった。
だから、ここで死ぬのだ。死神の鎌は、すぐ頭上で輝いている。
柚子生先輩が、まさに凶刃を振り下ろさんと、短く吸気した。
そして――……
なぜか。
その刃が、包丁を持つ柚子生先輩自身の、白い喉元に当てられた。ちょうど、さっき斯波方先輩がそうしたように。
「んん?」
柚子生先輩が、首をかしげる。
刃は、ゆっくりと。
けれど、両手に一杯の力を込めて。
その傾いた首を、かき切って行った。
何が起きているのか自分でも分からないような、柚子生先輩の顔。
けれど、新たな血飛沫の中で私は、何が起きているのかを理解した。
私を生き残らせようとしている人が、まだいる。
ただ一人、目の前に。
気づくと同時に、私は絶叫した。
「柚子生先輩! やめて!」
今日の私は、今までに言ったことも無いこの言葉を、何度叫ぶのだろう。
でも、一度として、止められはしない。
一度として――……何一つ。
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