レイヤー少女の魔界謳歌

七海かおる

文字の大きさ
7 / 13

7

しおりを挟む
 蝶の仮面を手にしたことで、ここの領主でこの夜会の主催者のアハトのところへ転送された、らしい。

「奇妙な魔力が突然現れたからな。とりあえず、ここに呼ぶよう配下の者に言っておいたのだ。驚かせたな」
「いえ!食事させていただいたので助かりました!」

 今まで年上の超絶美人なお兄さんの認識だった人が、実はここ一帯の領主だと知って内心テンパっている。 失礼なことはしてなかったよね……!?

「それで、もう一度聞くが、そなたは一体何者だ?」
「う、それは……」

 ここで自分の正体を言ってもいいものか悩んで、続く言葉が浮かばない。
 答えない私をどう思ったのか、アハトは今までの態度と変わらず、気怠そうに言葉を続けた。

「そなたを悪いようにするつもりはないよ。長く刺激もなく退屈していたところに、おかしな魔力をしたそなたが突然ここに現れたのを感じて、少し興味が湧いただけだ」

 この人からは敵意だとか、私を害そうとする気配が全く感じられない。そんな自分の直感を信じようと、口を開く。私は彼にここに来た経緯を全て話すことにした。


「ほう!……なるほど、そなたはこことは違う世界の人間で、その姿は衣装だとな!」
「はい、こういう格好をみんなでして楽しむイベントが私の世界にはありまして」
「そうだな、確かにこの世界の人間ならば我らを模した格好をして楽しむなどということはするまいよ。 奴らは我らを敵対視しているからな」

「そうなんですね」と相槌を打つ。思ったよりも好意的に受け止められているようだ。というより、面白いものを見つけたというふうにお兄さんのテンションが高い。青紫の瞳が爛々としている。

「アハト様は他に異世界から来た人とか知りませんか?できたら元の世界に戻りたいんです」
「異なる世界からの来訪者、か。この魔界ではわざわざ人を喚び出したりしないからな……。悪いが、私に心当たりはないな」
「そうですか……」

 この地の権力者であるアハトなら何か知っているかもと思い聞いてみたが、彼に心当たりはないらしい。

「しかし、そなたが人だというのはやはり少し信じがたいな。そなたからは我らに似た魔力を感じる」
「魔力のことはよく分からないんです。私がいた世界には魔力だとか魔法だとかはお話の中だけだったので」
「そうか。まあそれはそのうち分かるであろう」

 魔力があるということは、魔法なんかもそのうち使えたりするのだろうか。それは、ちょっとわくわくする。

「しかし、そうか、衣装ということは、その角や翼なども作り物か?」
「あ、はい、そうです。見ますか?」

 そう言って私が角をつけたカチューシャをとると、「お、おい!大丈夫か!!」とアハトはひどく慌ててこちらに身を乗り出した。彼らにとっては体の一部だ。それを外したので驚かれたのだろう。

「大丈夫ですよ。よく見てください、力作なんです」

 アハトにカチューシャを手渡す。「おお……」とまだアハトは戸惑っているようだったが、作り物であるということは確認出来たらしい。こちらに返してきたので再び頭に着ける。

「だがしかし、そのままではこちらで生きていく上で不便であろうな。ふぅむ、よし、こちらにおいで」

 手招きされるままに彼が寝転ぶソファーに近づく。アハトに対しての警戒心はもうなかった。
 額にアハトの指先が触れる。触れたところから光が溢れ、あたたかい何かが体中を巡っていくのを感じる。

「───そなたは我が同胞にして、我が眷属なり。そなたに我が加護を与えよう」

 光が弾けて消えて、アハトの手が私から離れた。
 しかし、自分の全身を見てみても何か変化があったようには見えない。

「何をしたんですか?」
「そなたを我が保護下に置いたのだ。何か困ったことがあれば我が力がそなたを守るだろう」
「……ありがとうございます」
「ああ、それと」
「?」

「もう一度角を外してごらん」と促されて、カチューシャを外そうとする。が、カチューシャがどんなに探っても触れない。角があるだろう場所に手を当ててみて驚愕する。

(角がそのまま頭からは、生えてる……!?)

「ええ!?」
「角だけではないぞ」

 そう言われて、まさか、と思いながらも腰に手を当ててみる。翼の根本を辿っていくと、ベルトではなく腰に手がついた。体をひねって腰を見てみると、腰から翼がそのまま生え、スカートの中からは尻尾がのぞいていた。

「ふふ、これでそなたは、正真正銘我が同胞だ」

 にこにことアハトは相好を崩し、満足そうに宣った。

「え、えええええ!?」
 衝撃が強すぎて、思わず大声が出る。混乱に合わせて翼もばさばさと動くし、尻尾も左右に揺れていた。

「……すごいですね、魔法って。こんなこともできるんですか……」

 なんだか凄すぎて力が抜ける。それに合わせてだらりと下がった翼と尻尾を横目に見る。自慢の出来だったが、まさか体の一部になってしまうなんて思ってもみなかった。

「我ら夢魔や吸血鬼などは他人から食事をするからな。体を操作する魔法が得意なのだ」
「!?……も、しかして私のこれからの食事もあなたたちと同じになったんですか!?困ります!そんな……」

 思わず顔が赤くなった。お腹が空くたびに他所様とあんあんしないとだめなんて私の精神がもたない!

「いや、体の造りまではいじっておらぬ。体につけただけだ。さすがに種族そのものを変えるならこんなに簡単にはできぬ」
「これも十分すごいですけどね……」

 ひとまずは安心して、笑みが浮かんだ。
 と、そのとき、

 ドオオオオーーーン────

 地面が激しく揺れた。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒騎士団の娼婦

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...