レイヤー少女の魔界謳歌

七海かおる

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 素敵な保護者様に出会えたと思ったら、食文化の違いでここには居住できそうにないことが判明してしまった。

「アハト様、一番お料理が美味しいところはどこですか?」
「そうだな……それなら獣人領に行くのが良かろう。そこでなら、そなたの食べ慣れた料理が多くあるはずだ」

「先ほどの甘味も獣人領のものだしな」と言われて、そういえばそんなようなことも言っていたな、と思い出す。あの絶品スイーツがあるなら、他の料理もさぞ美味しいことだろう。

「じゃあ、そこに行きたいです!どう行けばいいですか?」
「獣人領自体へはここから南に向かえばいい。……領主街が一番栄えているから、そこを目的地とするのが良かろう。それに、道ならそこの銀狼が知っておる」
「え、でも───」

 アルフレートは確かに私に良くしてくれるけど、付いて来てくれるかなんて分からない。それにそこまで頼ってしまっていいものだろうか。
 しかし、正直外に一人で出るのは怖い。それに、今このもふもふを手放すのはすごく惜しい。ううう……。
 高い位置にあるアルフレートの顔を見上げる。アルフレートは真っ直ぐにこちらを見つめていた。私の言葉を待ってくれているようなその態度に押されて言葉を紡ぐ。

「アルフ。一緒に、来てくれる……?」
「おまえがそう望むなら」

 アルフレートは真摯な眼差しで答えてくれた。ついでとばかりにすり、と頬を擦り寄せてくる。その温かさにふいに涙が出そうになるのをアルフレートに抱きついて誤魔化した。

「ん。ありがとう」



 私たちは会場を出て、大きな城門に立っていた。すでに空は白みはじめていてほんのりと明るい。

「街を通ると遠回りになるから、森を突っ切っていくのが一番近いよ。まあ、銀狼と一緒ならば問題ないだろう」

 アハト様の視線の先に目を凝らせば、遠くにうっすらと緑が見える。あそこかな。
 やっぱりビルが全然見えないな、と見慣れない景色を見渡していると、おいでおいで、とアハトに手招きされた。
 アハトの手前で立ち止まると、大きな手がぽんと頭に置かれる。私の耳元にアハトが顔を近づけて囁いた。

「異なる世界から来た者よ、今日からそなたは我が加護するサキュバスのラキアだ。私の力がいつも君を守っている」
「!」

 アハトの顔を見上げる。色気MAXなのは最早標準仕様だが、青紫色の瞳の色は穏やかだった。兄というのはこのような感じなのだろうか。

「はい、ありがとうございます!私、頑張ってきます!」

 元気よく笑顔を浮かべた私に、アハトも微笑みを返してくれる。
 
「そうだ、これを持ってお行き」

 アハトがこちらに拳大の布袋を差し出してきた。
 両手で受け取ると、ジャラッとした音が鳴り、ずっしりとした重量感を伝えてきた。恐る恐る革紐をほどき、中を見てみると大量の金貨が入っている。

「え、これ……!?」
「面白い話を聞かせてくれた礼と旅の餞別だ。持っていくといい」

(この国の相場は分からないけど、これはとんでもない大金なのでは……)
 無一文の身には嬉しいが、そこまでしてもらってもいいものだろうか。

「貰っておけばいい。そいつにとっては端金だ」
「アルフ……」
「銀狼の言うとおり。気にせず使うといい。礼は、今度また面白い話を聞かせてくれたらいい」
「……ありがとうございます」

 貰った布袋を胸元でぎゅっと抱き締める。私の保護者様はなんとも太っ腹で優しい。
 じーんと一人で感動に浸っていると、アハトがアルフレートに何やら耳打ちしていた。
 
「銀狼よ、その子は箱入りで常識に疎いところがあるからね。よくよく面倒を見ておくれ」
「ふん。……おまえに言われるまでもない」

 そんな会話が交わされているとも知らず、私は布袋はスカートのポケットに頑張って押し込んでいた。フリルで分かりづらいが、きちんとポケットも作ってあるのだ。
 布袋を無事に入れられて満足していると、アルフレートに鼻で背中を押されてたたらを踏む。

「わわっ」
「行くぞ」

 アルフレートは私が歩き出すのを待っている。散歩中に飼い主を待つワンちゃんみたいになっていた。
 最後に少し名残惜しくてアハトを振り返る。それに気付いたアハトは、ゆるゆると手を振って送ってくれた。

「ラキア、またおいで」

 気持ちを振り払うように私も手を振り返す。アハトの言葉を背にまだ見ぬ世界に踏み出した。

 こうして、私は一匹の大きな狼さんを旅のお供に、色気だだ漏れな保護者様のお城を後にした。

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