11 / 13
11
しおりを挟む
訳も分からないままアルフレートの背に乗って、顔を上げるとそこは神秘的な森だった。
「ここは安全だ。精霊たちの森だからな」
「精霊たちの、森……?」
アルフレートの言葉に驚く。この世界には精霊なるものも存在しているのか。
辺りを見渡す。詳しい木の種類なんて分からないが、青々と苔むした木々が頭上高く茂っている。それでいて木漏れ日が所々洩れているから、不思議と暗くない。
すると、顔の周りにふわふわと浮遊した物体がたくさん集まってきた。
「わっ……!なんかふわふわしたものがいっぱい!」
「それが精霊だ。それはまだ生まれたばかりの力小さな者たちだな」
「おお……!かわいいー」
これが精霊か……!
目の前のひとつを手にすくう。大きさも色も様々だが、ふわふわとして気持ちいい。それに彼らはうっすらと発光していた。
頬に精霊たちが擦り寄ってくる。くすぐったくて笑みが漏れた。
「……進むぞ」
「あ、うん!」
そういえば、まだアルフレートの背に乗ったままだった。急なことで堪能できなかったけど、今私の下半身はもふもふに沈んでいる……。
ボフッ。
「───!!」
そのまま目の前の鬣に沈む。
下からは、息を呑む様子が伝わってきたが、構わず全身をアルフレートの毛皮に埋めた。
露出しているお腹や腕に毛が当たる。アルフレートには悪いが、高級な毛布みたいだ。その感触を堪能しつつ、アルフレートの歩く振動を感じながらだらけた姿勢で顔を横に向けてみると、木の影に小さな人影が見えた。
「……っ!」
「なんだ」
「いっ、今、そこに人影が……」
とっさに体を起こして、指を指す。が、そこにはもうすでに影はなかった。
「いない……」
「おそらく、それも精霊だろう。力ある精霊は人型をとる」
「へえー」
私が指指した方に目を向けたアルフレートが教えてくれる。
周りにたくさんいる精霊たちを見る。相変わらずふよふよと浮いて付いてきている。
(すごいな、このふわふわが人型になるのか……)
両手に乗っている薄黄緑色の個体を見る。彼(?)はこの中で一際輝いていた。比喩ではなく物理的に。
感心しながら見ていると、目鼻立ちがないのに目が合っている気がしてきたから不思議だ。
「わわっ」
突然ポポポポンッ、と精霊の周りから花が咲いた。綺麗な桃色の小さな花だ。
「かわいい」
桜草のような花だ。家の近所で咲いていたのを思い出した。懐かしくて、微笑む。
すると、またポンポンと精霊の周りから花が咲き出てきた。
『……な……き……』
「え?」
どこからか声が聞こえてきた。聞いたことのない声だ。
「どうした?」
「今、声が聞こえなかった?」
『……お……好き?』
さっきよりもはっきりと聞こえた。まだあどけない、少年のような声音だ。頭に直接響いてきている……ような。
と、精霊が手にすりすりと擦り寄ってきたので、意識が手元に戻る。手の上でぽんっぽんっ、と精霊が跳び跳ねて、何だか存在を主張しているようだ。
『お花、好き?』
「……もしかして、君なの?」
そうだよ、というように精霊が点滅した。
「……うん、好きだよ。これ、知ってる花に似てるんだ。ありがとう」
お礼を言うと、今度はぶわわわっ、と大量の花が咲き乱れて降ってきた。 アルフレートの背が花でいっぱいになって溢れる。
「ぅおう……」
『好き、好き、お花好き』
何かのスイッチを押してしまったように、精霊が興奮して跳び跳ねている。周りに浮いている精霊たちもはしゃいでいるようで、彼らの勢いに圧倒される。
「おい、何をしている?」
「いや、なんか、精霊たちが興奮しちゃったみたいで……」
さすがに人の背中で騒ぎ過ぎたようで、アルフレートが訝しげに訊いてきた。
彼らの興奮が全く冷めやらず、だんだん収拾がつかなくなってきた。
(こういうときは───)
友人が言っていた、興奮したペットを落ち着けるにはこれが一番効くという方法を使ってみよう。
手に乗っている精霊を顔の高さまで持ち上げる。
───ちゅっ。
まだ興奮してうずうずしながら花を出している精霊に、ちょんとキスをした。これをするとすぐ大人しくなるんだよーと友人が太鼓判を押していたやり方だ。
すぐに、精霊がピシッと固まったのを目にして、成功したとほくそ笑んだ。
「……落ち着いた?」
精霊はぶるぶるっと身を震わせた。そのまま光が点滅し始める。……なんだか照れてるように見えてきて気持ちが和む。
「ふふっ。君の顔が見れたらもっとわかりやすくて良かったんだけど」
『───!』
パアアアア───。
突然、精霊の体が直視出来ないほど光が増した。咄嗟に目を瞑る。
次に目を開けたとき、なぜか目の前に男の子がちょこんと座っていた。お互い呆然と見つめ合う。
「おい、本当になにをしている!?」
さすがに痺れを切らしたのかアルフレートが振り向きながら、声を上げた。アルフレートは、自身の背にラキア以外の見知らぬ少年が乗っているという光景に目を見張った。
「どういうことだ、これは……」
「わかんない……」
『……』
周りでは相変わらず精霊たちがふよふよと浮いている中、三人はしばらく固まっていたのだった。
「ここは安全だ。精霊たちの森だからな」
「精霊たちの、森……?」
アルフレートの言葉に驚く。この世界には精霊なるものも存在しているのか。
辺りを見渡す。詳しい木の種類なんて分からないが、青々と苔むした木々が頭上高く茂っている。それでいて木漏れ日が所々洩れているから、不思議と暗くない。
すると、顔の周りにふわふわと浮遊した物体がたくさん集まってきた。
「わっ……!なんかふわふわしたものがいっぱい!」
「それが精霊だ。それはまだ生まれたばかりの力小さな者たちだな」
「おお……!かわいいー」
これが精霊か……!
目の前のひとつを手にすくう。大きさも色も様々だが、ふわふわとして気持ちいい。それに彼らはうっすらと発光していた。
頬に精霊たちが擦り寄ってくる。くすぐったくて笑みが漏れた。
「……進むぞ」
「あ、うん!」
そういえば、まだアルフレートの背に乗ったままだった。急なことで堪能できなかったけど、今私の下半身はもふもふに沈んでいる……。
ボフッ。
「───!!」
そのまま目の前の鬣に沈む。
下からは、息を呑む様子が伝わってきたが、構わず全身をアルフレートの毛皮に埋めた。
露出しているお腹や腕に毛が当たる。アルフレートには悪いが、高級な毛布みたいだ。その感触を堪能しつつ、アルフレートの歩く振動を感じながらだらけた姿勢で顔を横に向けてみると、木の影に小さな人影が見えた。
「……っ!」
「なんだ」
「いっ、今、そこに人影が……」
とっさに体を起こして、指を指す。が、そこにはもうすでに影はなかった。
「いない……」
「おそらく、それも精霊だろう。力ある精霊は人型をとる」
「へえー」
私が指指した方に目を向けたアルフレートが教えてくれる。
周りにたくさんいる精霊たちを見る。相変わらずふよふよと浮いて付いてきている。
(すごいな、このふわふわが人型になるのか……)
両手に乗っている薄黄緑色の個体を見る。彼(?)はこの中で一際輝いていた。比喩ではなく物理的に。
感心しながら見ていると、目鼻立ちがないのに目が合っている気がしてきたから不思議だ。
「わわっ」
突然ポポポポンッ、と精霊の周りから花が咲いた。綺麗な桃色の小さな花だ。
「かわいい」
桜草のような花だ。家の近所で咲いていたのを思い出した。懐かしくて、微笑む。
すると、またポンポンと精霊の周りから花が咲き出てきた。
『……な……き……』
「え?」
どこからか声が聞こえてきた。聞いたことのない声だ。
「どうした?」
「今、声が聞こえなかった?」
『……お……好き?』
さっきよりもはっきりと聞こえた。まだあどけない、少年のような声音だ。頭に直接響いてきている……ような。
と、精霊が手にすりすりと擦り寄ってきたので、意識が手元に戻る。手の上でぽんっぽんっ、と精霊が跳び跳ねて、何だか存在を主張しているようだ。
『お花、好き?』
「……もしかして、君なの?」
そうだよ、というように精霊が点滅した。
「……うん、好きだよ。これ、知ってる花に似てるんだ。ありがとう」
お礼を言うと、今度はぶわわわっ、と大量の花が咲き乱れて降ってきた。 アルフレートの背が花でいっぱいになって溢れる。
「ぅおう……」
『好き、好き、お花好き』
何かのスイッチを押してしまったように、精霊が興奮して跳び跳ねている。周りに浮いている精霊たちもはしゃいでいるようで、彼らの勢いに圧倒される。
「おい、何をしている?」
「いや、なんか、精霊たちが興奮しちゃったみたいで……」
さすがに人の背中で騒ぎ過ぎたようで、アルフレートが訝しげに訊いてきた。
彼らの興奮が全く冷めやらず、だんだん収拾がつかなくなってきた。
(こういうときは───)
友人が言っていた、興奮したペットを落ち着けるにはこれが一番効くという方法を使ってみよう。
手に乗っている精霊を顔の高さまで持ち上げる。
───ちゅっ。
まだ興奮してうずうずしながら花を出している精霊に、ちょんとキスをした。これをするとすぐ大人しくなるんだよーと友人が太鼓判を押していたやり方だ。
すぐに、精霊がピシッと固まったのを目にして、成功したとほくそ笑んだ。
「……落ち着いた?」
精霊はぶるぶるっと身を震わせた。そのまま光が点滅し始める。……なんだか照れてるように見えてきて気持ちが和む。
「ふふっ。君の顔が見れたらもっとわかりやすくて良かったんだけど」
『───!』
パアアアア───。
突然、精霊の体が直視出来ないほど光が増した。咄嗟に目を瞑る。
次に目を開けたとき、なぜか目の前に男の子がちょこんと座っていた。お互い呆然と見つめ合う。
「おい、本当になにをしている!?」
さすがに痺れを切らしたのかアルフレートが振り向きながら、声を上げた。アルフレートは、自身の背にラキア以外の見知らぬ少年が乗っているという光景に目を見張った。
「どういうことだ、これは……」
「わかんない……」
『……』
周りでは相変わらず精霊たちがふよふよと浮いている中、三人はしばらく固まっていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる