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第三部 天 獄
38自責④
しおりを挟むレストルは全体重をナシェルにかけるように躯を重ね合わせる。ゆっくりと唇を落とし、ナシェルのそれを奪った。
唇をこじ開け、舌をねじ込んで掻き回す。音が出そうな激しい口づけを受けて、ナシェルが控え目に、苦しげな吐息を洩らす。
「……ん、……んっ」
レストルは逃げかかるその舌を捕まえ、吸い、しゃぶった。
こちらを蔑み、挑発的な台詞を繰り返すこの虜囚が、憎らしい……。だがいま体の下で、空気を求めて切なく口を開く虜囚に、どうしようもなく惹かれているのも確かなのだ。
…唇を外すと、ナシェルは荒い呼吸とともに吐き捨てた。
「いいだろう……貴様の目的は最初から判っていた。あの弟とふたり、私を好きになぶるがいい。だが、条件がある」
「……条件?……また何か要求するつもりか? まったく……立場を弁えぬ奴、」
レストルは失笑する。こいつは、この期に及んでもまだ対等な立場を貫こうとしている……。
「第一に姫の身柄の安全だ。私を抱くなら姫には手を出すな。それから後で姫に会わせろ」
「あのチビなら天王が連れていった。伯父貴のところなら安全は大丈夫だろう」
上になっているレストルはやや気圧されつつ思わず頷く。
ナシェルは矢継ぎ早に言葉を繋いだ。
「それから、サリエルのことだ」
「サリエル?」
「…あの者の話を聞いてやれ。あの者の心が今どの方向を向いているのか判らぬが、あれの本当の想いを聞いてやってくれ。そしてできれば、あれを自由にさせてやってほしい……。もはや神族の一員でないならば、あれが何処へ行こうが、貴様らには関係ないはずだ」
「なぜ……お前があいつのことをそれほどまでに……」
「サリエルを攫い監禁した側である私が、このようなことを云える立場ではないのは判っている。
だがサリエルは、私の友だ。そしてあれは冥界で……あれの不遇の生においては短いひと時であったかもしれぬが、確かに穏やかな自分の居場所を、見つけていたのだ。地上界へ出たことも、仕組まれた結果に過ぎぬ。だからあれの本当の思いを…」
「もういい、判った」
レストルは鋭く遮った。
「異端の神……我らの敵であるはずのお前が、サリエルの自由を求めるとはな。おかしな話だ。
……要求は判ったが、それに応じてやるか否かは、これからのお前次第だぞ」
レストルはナシェルの肩を掴んで抱き寄せ、耳に吐息を流し込むように、ゆっくりと囁いた。
「お前が俺たちを満足させることができたら、サリエルの処遇については天王に頼んでやってもいい。
弟から聞いたぞ。お前、だいぶ慣れてるそうじゃないか?」
「…………」
群青色の瞳が、わずかに脇に逸らされた。
レストルは顎を掴んでぐいと己のほうへ向かせながらなおも言葉を浴びせる。
「そうだな……、まずは、尊大な口を二度とたたけないようにしてやる。ついでに教えてやろう、虜囚らしい口のきき方や、立ち居振る舞いをな」
呼吸で幽かに上下しているナシェルの喉元に、強く吸い付いた。口づけと甘噛みとを交互に繰り返しながら、唇を下へ下へと滑らせてゆく。
ん、と声を漏らし息を詰めたナシェルが、僅かに背を仰け反らせた。
「お前がちゃんと、虜囚らしい振る舞いができるようになるまで、これからたっぷり躾をしてやる。まず俺のことはこれから『レストル様』『ご主人様』と呼ぶんだ…生意気な口をきけば容赦はしない」
とうとうこの不遜にして秀麗な死神を欲しいままにできるのだと、レストルの心は歓喜に湧く。
(さあ抗ってみせろ。抗えば抗うほど、もう俺のモノになる以外に道はないと、思い知らせてやる……)
服を剥かれ、肌が露わになる。
ナシェルは覚悟を決めた。
おそらくこの男の神司を受ければただでは済むまい。
下級神たちの神司でさえ、己には毒であったのだ。
だが、体の内に吐いてくれるななどと懇願するのは、こちらとしても願い下げだ。
覚悟を決め耐えるしかあるまい。
それでサリエルとルゥの無事が保証されるなら……。
レストルの腕の中にその身を委ねて行きながら、ナシェルはせめて誇りは捨てまい、心だけは許すまいと双眸を閉じ、瞼の裏にあの紅い眼差しを、ひたすらに思い浮かべ始めた。
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