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第一章 愛証
1
過去編(4章構成)のうち最初のお話です。
冥王×王子で『はじめて』最後までするときのお話です。
愛はありますが少年への無理やりですので閲覧ご注意ください。
※この作品は、それぞれ違う時期に書いた4つの短編から成る短編集です。
①(少年期編)→②(思春期はじめ)→③(思春期後半)→④(青年期)
と成長順に並べ替えて公開します。
第四話のラストが『泉界のアリア』本編へと繋がっています。
この短編集のみでは父子の物語は完結しませんのでご注意ください。
****
オオオォォォォ………、オオオォォォォ………
獣の遠吠えとも紛う音を立てて、悲哀の風が崖壁に吹き付けていた。
風がこの地を過ぎ、冥府を抜けたのち、何処へ往くのか知る者はない。
ただひとつ明らかなこと、それはこの不気味な風の叫びが世の起こりから今に至るまで、一度たりと止んだことがないということ。
そして鎮寂を覚えることも永劫に渡り、ないのだろう。
その風に漆黒の外衣を翻らせながら、大小二つの影が黒天馬の背の上で寄り添い、溶け合っている。
ひとつの影は偉大なる闇の神。無限の闇を造り出す者。この泉界の主。
貴なる艶髪、白皙の美貌。黒一色のみを重々しく纏うも、その瞳の内にはどのような輝石よりも彼を彩る唯一の色彩がある――流れ始めたばかりの血の色。
紅玉の瞳を細めて、冥王は幽玄な暗黒界の景観を眺め下ろしている。
広大な洞窟世界の暗欝な眺望、それは彼らにとってはこの上ない興趣を抱かせるものだ。
そして彼に馬上で擁かれるもうひとつの影は、その静謐な闇神の気を受け継ぐ蒼き神聖――。
地上の生物に喩えるならば、いまだ舞うことを知らぬ若雛といったところか。
王と同種の神気を有しながら、その身姿はまことにその恐ろしき闇神の分身たるやを疑わせるほどに、稚い。
王の腕の中で、雛は震えていた。
オオオオオォオォォォォ………ゴオオオオォォォォ………
生まれて初めて聞くこの暗黒界の風の音に怖気づいたのか、その顔から一切の表情は失せている。配下の精霊たちが周りに集い、血の気のない主の顔を覗き込むも、まるで視界に入っておらぬ様子だ。
(この風は、なんて悲哀に満ちた声を上げているんだろう……。そう、まるで剣を喉元に突きたてられた魔物の、絶鳴のよう………)
王の馬……闇嶺が地面を前足で掻き、僅かに苛立ちを表現する。彼ら黒天馬の棲息地である幻獣界よりも、ここは風に混じる瘴気が濃く、敏感な彼らにとっては不快な環境なのであろう。
「大丈夫だよ、闇嶺」
瑞々しい唇が、自分をも落ち着かせるようにそう呟いた。
労わるように王馬の鬣を撫でたその手で、ナシェルは己の耳をも塞いでしまいたかった。
まだ夭いナシェルにとっては、その風音は恐怖と不安の対象でしかない。
父上、もう皆のところに戻りましょう。
臆していることを明らかにするのが嫌で、その言葉をなかなか口にすることができない。
指の震えを悟られぬように、マントの中で小さな手を握りしめた。
冥王はしかしナシェルのそうした感情をも知っての上なのか、
「降りて歩こうか」
と意地悪な提案をしてくる。ナシェルは慌ててかぶりを振った。肩の上で、束ねた黒髪の穂が揺れる。まだ肩甲骨の長さまでしかない。
王は微笑って、幼い御子を背中から抱いた。
王の大きな外衣が、すっぽりと温かくナシェルを包み込む。
「震えているな。風の音を怖がっているのか?」
「いいえ。怖くなどありません。少し寒いだけです」
「ふふ、そうか…寒いか」
父は、ナシェルの胸に廻した手に力を込めた。
「では、天幕へ戻るとしよう」
馬首を巡らすと、崖から離れた平坦な場所に、野営のための陣が張られている。
王旗が激しい風を受けて千切れそうに靡いていた。
皆平気なのかな、と思う。
本当にこんな場所で眠るの?…こんな不気味な風の音を聴きながら?
ナシェルは気後れして、溜息を洩らした。
冥王×王子で『はじめて』最後までするときのお話です。
愛はありますが少年への無理やりですので閲覧ご注意ください。
※この作品は、それぞれ違う時期に書いた4つの短編から成る短編集です。
①(少年期編)→②(思春期はじめ)→③(思春期後半)→④(青年期)
と成長順に並べ替えて公開します。
第四話のラストが『泉界のアリア』本編へと繋がっています。
この短編集のみでは父子の物語は完結しませんのでご注意ください。
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オオオォォォォ………、オオオォォォォ………
獣の遠吠えとも紛う音を立てて、悲哀の風が崖壁に吹き付けていた。
風がこの地を過ぎ、冥府を抜けたのち、何処へ往くのか知る者はない。
ただひとつ明らかなこと、それはこの不気味な風の叫びが世の起こりから今に至るまで、一度たりと止んだことがないということ。
そして鎮寂を覚えることも永劫に渡り、ないのだろう。
その風に漆黒の外衣を翻らせながら、大小二つの影が黒天馬の背の上で寄り添い、溶け合っている。
ひとつの影は偉大なる闇の神。無限の闇を造り出す者。この泉界の主。
貴なる艶髪、白皙の美貌。黒一色のみを重々しく纏うも、その瞳の内にはどのような輝石よりも彼を彩る唯一の色彩がある――流れ始めたばかりの血の色。
紅玉の瞳を細めて、冥王は幽玄な暗黒界の景観を眺め下ろしている。
広大な洞窟世界の暗欝な眺望、それは彼らにとってはこの上ない興趣を抱かせるものだ。
そして彼に馬上で擁かれるもうひとつの影は、その静謐な闇神の気を受け継ぐ蒼き神聖――。
地上の生物に喩えるならば、いまだ舞うことを知らぬ若雛といったところか。
王と同種の神気を有しながら、その身姿はまことにその恐ろしき闇神の分身たるやを疑わせるほどに、稚い。
王の腕の中で、雛は震えていた。
オオオオオォオォォォォ………ゴオオオオォォォォ………
生まれて初めて聞くこの暗黒界の風の音に怖気づいたのか、その顔から一切の表情は失せている。配下の精霊たちが周りに集い、血の気のない主の顔を覗き込むも、まるで視界に入っておらぬ様子だ。
(この風は、なんて悲哀に満ちた声を上げているんだろう……。そう、まるで剣を喉元に突きたてられた魔物の、絶鳴のよう………)
王の馬……闇嶺が地面を前足で掻き、僅かに苛立ちを表現する。彼ら黒天馬の棲息地である幻獣界よりも、ここは風に混じる瘴気が濃く、敏感な彼らにとっては不快な環境なのであろう。
「大丈夫だよ、闇嶺」
瑞々しい唇が、自分をも落ち着かせるようにそう呟いた。
労わるように王馬の鬣を撫でたその手で、ナシェルは己の耳をも塞いでしまいたかった。
まだ夭いナシェルにとっては、その風音は恐怖と不安の対象でしかない。
父上、もう皆のところに戻りましょう。
臆していることを明らかにするのが嫌で、その言葉をなかなか口にすることができない。
指の震えを悟られぬように、マントの中で小さな手を握りしめた。
冥王はしかしナシェルのそうした感情をも知っての上なのか、
「降りて歩こうか」
と意地悪な提案をしてくる。ナシェルは慌ててかぶりを振った。肩の上で、束ねた黒髪の穂が揺れる。まだ肩甲骨の長さまでしかない。
王は微笑って、幼い御子を背中から抱いた。
王の大きな外衣が、すっぽりと温かくナシェルを包み込む。
「震えているな。風の音を怖がっているのか?」
「いいえ。怖くなどありません。少し寒いだけです」
「ふふ、そうか…寒いか」
父は、ナシェルの胸に廻した手に力を込めた。
「では、天幕へ戻るとしよう」
馬首を巡らすと、崖から離れた平坦な場所に、野営のための陣が張られている。
王旗が激しい風を受けて千切れそうに靡いていた。
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ナシェルは気後れして、溜息を洩らした。
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