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第一章 愛証
8※
王子の喉から、この世の終わりが訪れたかのような叫喚が発された。
激甚な痛みがナシェルの全身を駆け抜けていた。下腹部から脳天までを、剣でひと思いに貫かれるような、あり得ない衝撃だった。
なぜ、どのようにしてその業苦が己の身に降り注いでいるのか、まったく訳が判らぬまま、ナシェルは躯を真っ二つに裂かれているような錯覚に陥って、苦痛にその身を強張らせたまま、続けざまに絶鳴を放った。
「あああ―……ッく――う―!! う――!!」
喉が焼け付くような、哀れな叫び声だった。
動かせぬようにぎっちりと抱え上げられた両の足のつま先が、びんと上に跳ね上がって、下肢に力が入っていることを物語る。
力を抜くなど、到底無理だった。
だが王子がいくら惨たらしい悲鳴を上げようと、いくら抵抗しようと、冥王には行為そのものを途中でやめるという意思は全く無い。王は今宵、断固たる決意を持ってその行為に及んだのだ。
無論王とて、可愛い王子にむやみに傷をつけるようなことはしたくない。それゆえに王は一息に奥まで貫くということはせず、ゆるゆると穿ち入れる中途で、王子の放つあまりの苦鳴に動きをとめていた。まだ屹立の半ばまでも、埋め込んでいない。
「静かにしなさい、誰か来てしまうよ」
王は優しい声色で窘めたが、視界を真っ白に染めて泣きわめくナシェルには全く聞こえていないようだ。そこで王はやむなくナシェルの細い脚を掴んでいた手を外して、ナシェルの口を塞いだ。
「ん―!! ん―!」
絶叫を妨げられたナシェルの両瞳からは涙が溢れ、顔の横へ幾筋も伝い落ちてゆく。呼吸の方法も忘れてしまったのか、苦しげに、びく、びく、と躯が痙攣する。全身からびっしりと脂汗を滴らせはじめ、壮絶な表情のまま凍りついたように固まっていた。
「ナシェル、落ち着いて……。鼻で息をしなさい、ゆっくり息を吐くんだ」
顔を近づけて呼吸を促してやる。
「ゆっくり……、そうだ。脚の力を抜いて……」
涙の海の底から群青色の双眸を泳がせたナシェルは、父王の囁きを辛うじて耳に入れると、その誘導のままに何とか鼻で息をし始めた。
小鳥のような胸が幽かに上下し、す、す、と鼻から貧弱な音が漏れるのを冥王は確認した。まだ瞼は瞬きをすることもなくぽっかりと見開いたまま、王の顔を凝視している。
下肢を繋げ合い、しばらくそのまま動かずに、同じ司を持つ双りの神は見つめ合っていた。
生まれてはじめて味わう壮絶な苦痛の中、ナシェルは自失した面持ちで父を見あげ、冥王は静かに、ナシェルの狂乱が去るまで待っていた。
ナシェルは口をふさがれたまま、ぼろぼろと大粒の涙を流して、ひたすら目で父に訴えかけた。
何……何故? なに? これは、いったい何?
どうしてこんなことをするの?
必死の、無言の問いかけに父からの応えは無論ない。
ただナシェルの内部に没入しているものだけが、言葉よりも深い愛を物語っているのだが、あまりの痛みに気を失わんばかりの彼には今、王の愛を斟酌するゆとりはなかった。
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