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第一章 愛証
9※
「陛下」
不意に天幕の入口の垂れ布がわずかばかり開いて、外の酒宴の喧騒が大きく漏れ聞こえてきた。
「どうかなさいましたか。ナシェル殿下の御声がしたような気がいたしましたが」
酒盛りのざわめきをかき消すように、誰かの……衛士の誰かであろうか……声がする。
ナシェルはびくりと身を竦ませ、首を捩じった。救いを求める眼差しで見るも、衝立に遮られて、天幕の入口まで視界に入らない。
おそらく向こう側からも、見えてはおるまい。
「大事ない。王子が眠り端に、怖い夢を見て起きてしまったのだよ」
ナシェルの口を塞いだまま、王が答えた。
「皆は愉しんでおるか」
「盛り上がっております。陛下も是非一献、」
「うむ」
冥王はナシェルの様子を見ながら応じ、ナシェルを試すように、ゆっくりと口から手を離した。
ナシェルはふたたび口で息を大きく吸った。
(助けて!)
その瞬間、叫び出すことができたはずだ。
……だが、ナシェルの唇はとうとう、最後まで言葉を発しようとはしなかった。彼は泣き濡れた目でただ、近衛とやりとりする父王を見つめていた。簡易寝台の寝具の端を、汗ばんだ手で握ったまま。
沈黙を保つ王子の瞠目のなかに、己の宿命を悟った者だけが帯びる達観と服従の色が浮かんでいることを冥王は察し、唇の端に微笑を浮かべた。
「……そうだな。王子を寝かしつけてから、余も参ろう」
ではお待ちしております、という言葉に続き、ばさりと音を立てて外気が遠ざかった。
「いい子だね……」
静かになると、再び王は抗うことを許さぬ力強さで、ナシェルの後孔への侵入を再開した。
いや、外では相変わらずあの『魔獣の遠吠えのような』風唸りと、風の音など気にする様子もない魔族たちの宴の喧噪が入り乱れているのだが、二人の耳にはもはや入らない。
王の美しい、見事なまでに長大な屹立が収まりきるには、ナシェルの秘部はまだあまりにか弱く、壊れやすいものであった。
途中でぷつりと何かが弾けるような感覚があり、秘部が少々裂けたのだと王が悟るのとほぼ同時に、再び王子の口からあえかな絶鳴が漏れる。
「ひぃ………うぅ―、うぅ―、うぅ―………!」
激烈な痛みに頭を仰け反らせながらも、声をなんとか殺そうと、両手の指を何本も自らの口のなかに押し込み、涙を流して我慢するナシェルの姿は何ともいじらしく、王の嗜虐心と慈愛をそそるのだった。
王はたっぷりと長い時間をかけてナシェルの内側に己の全てを埋め込んだ。入口付近から最奥に至るまで、王のそれによって内壁は押しひろげられ、裂傷を起こすまでに伸びきっていた。
それが限界であることは疑うまでもないほど、寸分の余裕なくぎっちりと張りつめている。
王子の器官の中はそのように凄まじく狭く、下腹に力を込めて締めることを教えなくともすでに盤石の緊めつけだったが、それだけで王を満たすことはできない。
苦しみのあまりぶるぶると激しく痙攣し、自分の指々を噛みながらめそめそ泣いているナシェルに向かって、王はこれからすることを優しく説明してやった。
王子がきちんと聞き取れるかは別にして、何も云わずに突き上げ始めるよりはましであろう。
「いい子だ。少し動いてみるからね、そなたは、ただじっとしていればいい」
ナシェルは更なる痛みへの恐怖で竦み上がりながらも、小刻みに縦に首を振った。もうこの痛苦から逃れる方法がなにもなく、ただ云われたことに慎み従うことのみが今できる全てであると、完全に理解していた。
彼の前で微笑みを浮かべる父が――今までは限りなく傍にあって自分を慈しんでくれていたものが、躯の深い部分で繋がってしまった今は逆に、途方もなく遠く感じられていた。
尊厳を貶められて、信じていたものを見失い、魂が虚空に放り投げられたように………世界が自分を遮断しているようにさえ感じた。
父の微笑みが信じられず、もう何も聞きたくなかった。
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