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第二章 幻獣の野にて
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幻獣界の原野に、夥しい数の天幕が張られている。
冥界のうちの小世界の一つであるそこには、数百種類の魔獣幻獣が棲息し、王と魔族らにとって格好の狩猟場だった。
時おり狩りをすることで増えすぎた魔獣たちを間引きし、彼らが棲み処を求めて冥界のほかの小世界に害を及ぼすのを防ぐ目的もある。
陣を移動させながら狩りを続けるため、こうした狩りはちょっとした長旅になる。
その間は毎晩のように野宴が催されるのが恒例だ。
***
円陣になった家臣たちの間で、わっと歓声が上がった。
ヴァニオンが、また勝ったのだ。
剣を納め対戦相手を立たせると、ヴェルキウス公家の嫡男は、王に対して胸に手を当て一礼してみせた。いつの間にやら、もう充分『青年』といってよい伸びやかな長身に育っている彼に、冥王は拍手で応えた。
今、冥王の陣では、御前試合とまで立派なものではないが、宴の余興に若者たちによる剣の模擬試合が行われていた。
「また腕を上げたな」
歓声と拍手が鳴り止まぬ中、冥王は、右隣にいるヴァニオンの父・ヴェルキウス公に話しかけた。
ヴェルキウス公ジェニウスは面映い様子で頭を下げる。
「お褒めに預かり光栄です、陛下。ですが殿下がお出ましになれば、うちの愚息など到底敵いますまい」
「と、ジェニウスは云っておるが、どうだナシェル、討って出るというのは」
王の左隣で地べたにあぐらをかき、頬杖をついていたナシェルは即答する。
「結構です、面倒くさいし。それに精霊とか余計な神司を使わなくても、ヴァニオンとなら十本のうち九本は私が取るんですから、だいたい結果は目に見えています」
絶句する父たちをよそに、ナシェルの視線は、歓声を受けるヴァニオンの溌溂とした姿に注がれている。
ヴァニオンは視線に気づき、少し照れたように笑った。挑んで来いよ……というように指で招いてみせる。
「だめだめ、酔っ払ってるから」
ナシェルは唇の動きでそう伝え、手を振って固辞した。
冥王は二人の仲のよさそうな様子を黙って見ていたが、突然
「ジェニウス、王子に暗黒界を任せるという話だが」
と腹心の部下に耳打ちする。
「は、いよいよ殿下も独り立ちでございますな」
「そなたの息子をつけておけば大丈夫であろうと思っておったが……本当に大丈夫か」
『大丈夫』の真意が測れず、ジェニウスは眼を瞬かせて冥王を見返した。
「ええ、それは…父親の私が申すのも何ですが、腕も立ち、殿下の側仕えとしても一番長くその任にありますので、適任と存じます」
「うむ……」
冥王セダルの心配の矛先を、無論ジェニウスは知るよしもない。
王子ナシェルは片肘をついたまま微笑んで、円陣の中心にいるヴァニオンに視線を送っていた。
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