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第二章 幻獣の野にて
7※
しおりを挟む……これで良かったのだと、ナシェルは思う。
冥王の怒りの矛先を逸らすには、こうするしかない。
そもそもは自分の招いたことだったのだ……。
ひやりとした風が、頬を撫でていった。
慌てて出てきたので、外套の下は薄物一枚だ。
身震いし、襟を掻き合わせる。
王をこれ以上、待たせるわけにはいかない。
天幕に戻ると、冥王がローブを一枚羽織っただけの姿で、立ち上がり出迎えた。
「お帰り。……泣いていたのか? 可愛いね」
優しく指で頬を撫でられる。
収まらぬであろう父の怒りと、罰を予期して、体が震える。
「さあ、こちらへおいで」
冥王は表面上はにこやかに、屈んでナシェルの髪に口づける。
怒りの深さと反比例するようなその態度。
ナシェルは震えあがり、従順なふりをして王にその身を委ねた……。
服を脱ぐよう命じられ、獣脂の燃える燈台の弱々しい灯りの下に、まだ成神と呼ぶにはあまりに心許ない細い裸体が晒された。
拒絶は許されない。云うとおりにしなければ、きっとヴァニオンは殺されるだろう。
父王は脇卓の抽斗の中から膏油を出してきて、指でたっぷりすくい採った。ナシェルの躯を四つ這いにさせ、すっかり乾いてしまった秘部を大きな指輪の嵌った指で寛げ始める。
ナシェルの躯はびくんと正直に反応し、息を殺して声を我慢しても、きつく噛み合わせた歯の間から、声にならない声が漏れてしまう。
「……んん……ん、あ……」
王の中指に嵌った指輪の感触が、穴の中にまで押し入ってくる。濡れていなければ苦痛なはずのその大きさも硬さも、膏油によってくちゃくちゃと淫らな音を立てて今はナシェルの躯を悦ばせる。
「あん……はぅ、あ……ん」
硬くしこる奥庭を指先で弄ばれて、もはや快感に耐えられずナシェルが嬌声をあげ始めると、王は途中で中指を引き抜いてしまった。
「あっ……父上」
「もっと欲しいか?」
「はい……欲しい……です」
震える声で愛撫をせがんだ。冥王は焦らすようにただ笑んでナシェルを見下ろしていたが、
「気持ちよくなりたいのなら、まずは自分で慰めてみよ」
と傲慢に宣告する。
「そんな……どう……やって、」
性愛に興味を持つより以前から父王の相手ばかりしていたので、自慰をしたことなどない。
「いつも余がしてやるように手を添えて……自分で導くのだ。ちゃんと達しなければ続きはしてやらぬぞ」
「そんな…」
そんな恥ずかしいことを。ナシェルは泣きそうになりながら許しを請うたが、冥王は頭を振って、「さあ、してみせよ」とにべもない。
ナシェルはしぶしぶ四つ這いのまま、戦慄く指で自分の一物に触れ……たどたどしく、恥ずかしそうに愛撫を始める。
「……ッ」
「そんな手つきで達けるのか?ちゃんと座って、余を見ながら、両の手でしてみせよ」
云われるまま、寝台の上で胡坐をかいた。ごろりと寝そべって傍観する構えの王の、紅玉の瞳を見つめる。
狂気に満ちた宝石のような眼が、冷ややかにナシェルの拙い自慰行為を見つめている。
吸い込まれそうな冷たいその瞳に、ナシェルは昂ぶった。
王の手や口で、自分のものをしつこく愛されているときのことを考えた。特にぐちゅぐちゅと音を立てながら口でされるときは、良すぎて……、まだ未熟な躯はすぐに達してしまう。
「あ……ふあ、父上……父上」
苦悦の表情を浮かべながら自分のものを慰めている王子を、セダルは冷笑を浮かべて眺めている。父上……と自分を絶え間なく呼ぶ声が、何とも云えず耳に心地いい。
「あ……い、い………イッちゃ、う」
王子はやがてぶるぶると全身を震わせ、とうとう精を放った。
ぐったりと生気を失ったナシェルは、王がくつくつと嗤っているのをどこか遠くの出来事のように聞いていた。
「さあ、次は余の番だ。こちらに来なさい……余は一切動かぬから、そなたが動くのだ」
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