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第三章 蝶の行方
2※
「ああ、可愛いよ、ナシェル」
頬にかかる父王の熱い、靜かな吐息。ナシェルは戦慄く唇で接吻を受け入れる。
王子の透き通った桃色の乳首が、前戯の余韻そのままにぷっくりとふくれて自分の体を擦るのを、冥王は慈愛に満ちた眸で見下ろし、片手でそっとその莟を撫で、指先で軽く揉んだ。
「あ、……ん」
おおきな指の腹の、吸いつくような感触。
ひくり、と胸をひくつかせるナシェルの体を、冥王は抱き直し、再び下から強く突き上げた。
「ひ! あ……っ……苦し、あぁ」
ずうん、と、最奥に灯る杭の灼熱。逃るる術なく躯をしならせ、ナシェルは息遣いの合間に声にならない悲鳴をあげる。
「父……う、え……! お、願、もう」
「愛しているよ、ナシェル。辛いなら、今度は姿勢を変えて挿れてあげようね……」
哀願に覆いかぶさる父の声。いくら請うても王が満ち足りるまで赦しは出ない。
高波に揺れる小舟のようにただただ翻弄される。
ナシェルのあげる絶え絶えの喘鳴と、繋がり部分の卑猥な音と、手枷の発する金属音、それだけが一層大きく響き渡る。
視界がずんずんと揺れていた。船酔いにも似た感覚が押し寄せる。思わず目蓋を閉じたが、そうすると結合部の抽挿感がいやでも研ぎ澄まされてしまう。
ああ。
まだ、気を失ったままでいればよかった……。
――永久とも紛うような苦しみの時間は過ぎ去り、次に気がついたときには父神の気配は何処かへ消えていた。ナシェルはいつしかひとり寝具にくるまって、寝入っていたようだ。
彼は室内に父の姿がないことを確かめ、ほっと息をついて高い寝台の上に、疲れ果てた体を起こした。
つらくてきつくて、あれだけ流した涙は頬の上でとうの昔に乾いており、睫毛がごわつく感じだけが残っている。
腰から下の感覚もない。
視線の先に姿見があった。
うすぼんやりとした表情をしたものが、こちらを、翳りのある蒼い瞳で見つめている。髪はぐしゃぐしゃに乱れていた。
どんよりと虚ろな表情をしたそれが、自分だと気づくまでに、たっぷり数十秒かかった。
ナシェルは意識が冴えてくるまでしばらく、寝台の上から、姿見の向こうの、疲れた自分の顔を凝視していた。
近ごろ、昨夜のような辛い伽が続いている。
あの幻獣界での一件以来、王はナシェルを再調教するかのように手ひどく抱く。何か口に出して咎めてくれた方が、よほどすっきりするのに――。
多くを語らぬ父王の、秀麗な口元が却って不気味だった。優しさを繕う父が閨の中でだけ仕置きのようにぶつける、無言の怒りや、狂おしい独占欲が恐ろしかった。
ナシェルは鏡を眺めていてふと気付いた。
鏡の向こうの自分の乱れた髪の合間に、きらりと光る宝石のような耀きがある。
ナシェルはおそるおそる己の髪に手をやった。こめかみの上に指を這わせると、己の黒髪を彩っていたものに辿りつく。
外して手にとってみると、それは蝶をかたどった瑠璃石の飾りのついた、長い金属のピンだった。
……父があのあと戯れに、眠る自分の髪に挿していったのだろうか。
先っぽが少し丸くなっている。
途端、王にされた加虐的な行為が思い出される。
「……っ」
ナシェルは思わず、その蝶のピンを床に投げ捨てていた。
『欲しいと云っていただろう。挿してあげる――さあ、力を抜いて、脚を、拡げなさい……』
父は、閨の中ではとても意地悪だ……。
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