君を想う

朝海

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第四章

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 男――ボスは思いっきり机を叩いた。山積みになっていた書類が床に散らかっていく。

「まだ、桜井夏樹は見つかっていないのか!?」
「申し訳ありません……ボス」
 
 ボスと呼ばれた男は、報告に来た青年――矢野秋を睨みつけた。鋭い視線に怯むことなく、ボスを見る。秋の淡々とした表情が憎く感じる。

 バカにされたような気がする。
 
 焦りさえ感じられず、余裕さえ見えていた。
 
 ボスは近くにあったペットボトルを手に取り、秋に水をかけた。秋はバックステップでそれを避けた。
 
 床が水浸しになる。
 
 今回は避けられたものの――秋は戦いができるほうではない。詳しい方ではない。どちらかといえば、心理戦を得意としていた。
 
 ボスは乱暴に空になったペットボトルを置く。ボスの苛立ちはそれだけでかない。組織の人数は千人以上いたはずが、半分までに減っていた。任務前に使っている高揚感をあげる「薬」を打つ前に誰かが逃がしたらしい。
 
 もしくは、「薬」が効かないほどの精神的――肉体的にも強い人物がいるのか――。
 
 内通者がいるのか。
 
 内通者を特定するように情報班に指示したが、未だに犯人が分かっていない。どちらにしろ、このままだと組織が危うくなってしまう。

 存続できなくなってしまう。
 
 今の組織を維持できなければ、築き上げてきてものが一瞬で崩れてしまう。
 
 簡単に警察に逮捕されてしまうだろう。
 
 それだけは、許されない。
 
 ボスとしては屈辱だった。
 
 何としても、面子を保たなければいけなかった。
 
 それに、夏樹のこともある。
 
 
 今のところ夏樹の姿を見た者はいない。
 
 薬の投与や任務には出てくるものの――それ以外に、姿を見せようとはしない。
 
 あまり、アジトに顔を出そうとはしない。
 
 生きているという気配さえ感じさせなかった。
 
 どこで、何をしているのか――。
 
 実態を掴めたくても掴めない。
 
 捕まえたくても捕まえられない。
 
 まるで、蜃気楼のように消えたり姿を見せたりする。
 
 うまく、姿を隠し――奥深くに潜っているようだった。
 
 暗殺者としての手本――見本のようだった。
 
 そんな夏樹を見つけて殺す――もしくは、自分の手の中に入ることができれば、高い報酬が支払われ――贅沢三昧の暮らしが出来るだろう。

 評価もあがるだろう。
 
 他の組織も含めて、狙っている同業者も多いと聞く。同業者よりも早く夏樹を見つけなければいけない。
 
 取り戻さなければいけない。
 
 夏樹はこの組織に所属する者――ならば、自分たちの手で殺すことが妥当である。
 
 もう一度、組織一員として教育をやり直すか――飼い慣らすことが必要だろう。

(見つけたら、がんじがらめにして逃げられなくしてやるよ。誰が主なのか思い出させてやる)



「その変わりなのですが――」
「――何だ?」
「この娘を利用してみてはどうでしょうか?」
 
 秋はボスに写真を見せる。
 
 明らかに隠し撮りだろう。
 
 おそらく、夏樹と同年代ぐらいか――。
 
 制服姿のせいか、幼く見える。

「この娘は誰だ?」
「木本和葉。桜井夏樹の幼馴染です」
「利用できるものは利用しないといけないな。この娘を捕らえてこい」
「やり方は任せてもらってもよろしいでしょうか?」
「大丈夫だ。好きにすればいい」
 
 好きなだけ調教して自分好みの女にするのもいいかもしれない。身体に教え込むのもいい。無理矢理抱かれ――泣き叫ぶ姿を見てみたい。

 観察しておきたかった。
 
 抱いて気に入れば自分専属の性処理班――愛玩ドールとして傍におけばいい。飼い慣らせばいい。この和葉という女性が妊娠した時には、組織の跡継ぎとして使えるだろう。
 
 今は和葉が絶望に染まる姿を見てみたかった。
 
 自ら足を開き――喘ぐ姿を目に焼き付けておきたかった。
 
 きっと、その姿を見るのは快感だろう。
 
 気持ちがいいだろう。
 
 洗脳していくのが楽しみでもあった。
 
 ボスはニヤリと笑う。
 
 秋は一礼をして部屋を出る。

(おもしろくなりそうだ)
 
 ボスはグラスに入っているワインを一口飲んだ。



(ボスかなり苛立っているな。その分、隙ができる。まさか、僕が裏切っているとは思っていないだろう。今更、焦っても遅い)
 
 秋はボールペンで遊ぶ。
 
 半分以上の組織員を逃したのは秋だった。夏樹が逃がそうとしていることの気がつき――秋が裏から手を回したのである。
 
 もちろん、逃がした組織員は名前も――顔も変えて、全国に散っているため追跡は不可能だろう。今は秋の駒――情報員として働いている者の数多くいる。
 
 そこには、ボスの手下――部下ではなく、潜入捜査員として――警察官の秋がいた。
 
 
 ここに残っているのも、できる限り昴や仲間たちに情報を送り続けるためでもあった。

(ボスにはもう少しだけ踊ってもらおう)
 
 秋は投げっぱなしになっている書類に目を通した。
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