虹の向こうの少年たち

十龍

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《1》 序

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 北の超大国、アウロラ王国。
 国鳥は純白の白鳥。
 夜空は星々で満たされ、オーロラのカーテンがたなびく。
 この氷に閉ざされた国の国民は、相反するように絢爛豪華な色彩を好み、永きに渡って国を統治する王族たちを愛し、また王や王子、王女が美しく着飾ることを我が身の誇りのように思っていた。

 アウロラ王国には四人の王がいる。

 ビスマス国王。
 グロウ王。
 ダン王。
 ネイプルス王。

 国王は一人。
 けれど王は四人だ。

 建国の祖となった王は、英雄であり侵略者であった。
 祖王が最初に配下に加えた一族は、氷の世界へと追放された者たちからなる《呪いの民》だった。

 呪いの民と呼ばれる彼らには、不思議な力があった。予言の力や人に災いを与える力。
 呪いをかける力。
 彼らは、人でありながら悪魔の魂を持つと忌み嫌われていた。一年のほとんどが氷となる湖のほとりで、ひっそりと暮らしてた。

 そこに、どこからともなくやってきた粗暴な男が一人。

 その男は呪いの民を襲い、民人を殺し、族長を殺し、四人の若い娘を妻にした。
 殺した族長になりかわって長となった男は、やがてこの大地の覇者になると言った。
 粗暴な長は生き残った呪いの民に言った。
 力を貸せば、お前たちの子供は王族として、誰からも虐げられることなく自由に生きられる。
 
 呪いの民の不思議な力を味方にした粗暴な男は、次々と集落を配下に収め、国を作り、他国と戦争しては勝利をし、やがては大陸の半分を手にする大王となったのだった。

 己の予言通り、大地の覇者となった男は四人の妻を王妃とした。

 王妃たちはそれぞれ子供を身ごもっていた。

 それぞれが、我が身に宿る子を次の王にと目論んだ。

 呪いの民であった王妃たちは、それぞれに呪いをかけあった。

 生まれてくる子供たちに、三つの呪いがかけられた。

 
 四人の王子たちはほぼ同時期に生まれた。

 その王子たちが、今につながる四人の王の祖となったのだ。

 ビスマス。
 グロウ。
 ダン。
 ネイプルス。

 
 _______
 ______
 ____
 __



 ネイプルス城は新雪に包まれて朝を迎えた。
 ジャロリーノは頬に当たる冷たい空気で目を開けた。
 ベッドの天蓋幕は上げられ、窓のカーテンも開けられている。いや、窓が開けられてる。
「ジャロリーノ。起きたかい」
 朝日を雪が反射していている。まぶし過ぎて、窓際に立つ人物を見ていられない。ジャロリーノは糸のように目を細くした。
「誰?」
「ひどいな。わざわざ起こしにやってきてやったのに。最近、また不眠気味なんだろう? 眠れたかい?」
「シェパイか」
「そうさ。誰だと思ったんだよ」
 背の高い青年が白い息を吐きながらベッドにやってくる。コツコツという足音。仕立てのいいスーツ。首元でスカーフをふんわり膨らませていた。
「シェパイこそ、俺は兄上じゃない。わざわざ朝に顔を出さなくたっていいんだ」
 ジャロリーノは寒さから逃れるためにベッドにもぐりこんだ。
「お前はジャロリーノだ。死んだライアだとは思ってないよ」
「俺は兄上のようではないからな。金髪も、黒ずんでいるし」
「ブラックブロンドはセクシーだと人気だ」
「瞳も緑じゃない」
「緑だろ。アウロラ人は皆、緑の目さ。ジャロリーノ、お前の目はオリーブの緑。れっきとした純アウロランだ」
 シェパイの手は、ジャロリーノのブラックブロンドを撫でてから、そっと毛布をよけた。
 ジャロリーノの目の前に、新雪のようなプラチナブロンドと冴え渡るアイス・グリーンの瞳があった。
 息を飲んだ。
 そして目元をなぞってくる指を払いのける。
「触るなよ。今日は大学じゃないの?」
「大学生は中等部生とは違うんだ。今日は午後から。お前はもう学校に遅刻している時間」
「兄上だったら俺みたいに手がかからないし、今ごろ一緒に街にでも繰り出しているんだろうけど、残念ながら俺はベッドの中にいたいんだ」
「ライアが居たってこの時間には街には行かないね。今日は雪が積もっていて、車も馬車も動きやしない。俺も、ワイト城からここまで来るのにいつもの倍かかった。良かったな、学校も今日は開始を遅らせるそうだ」
「じゃあ起こさなくたってよかっただじゃないか。やっと、朝方眠れたばかりなのに」
「ベッドに入る前にコーヒーなんて飲むからだ。だから不眠症なんだよ」
「……飲んだって飲まなくたって、寝れないんだ。眠いのに寝れないより、眠くないのに寝れないほうがましだろ」
 そう言ってジャロリーノは再びベッドに深くもぐりこんだ。
「仕方ないな。あと三十分だけだぞ」
 掛け布団の向こうから聞こえる声に、ジャロリーノはぞくりとした。


 三十分だけ、そう言って、シェパイが部屋から出て行った。
 ジャロリーノは布団の中で強く股間を握った。
 三十分だけ。
 声を出さないように唇をかんで、強張り立ち上がっているモノをパジャマの上から刺激する。
 揉みしだき、固い棒を掴むんで上下に動かす。
「……、……、……っ」
 ジャロリーノは不眠症だった。
 眠れない、眠っても変な夢を見る、夢から覚めると、変な気分になっている。
 眠るのが嫌なのだ。
 だから眠れない。
 眠れば見てしまう夢。
 それは男に抱かれている夢だ。
 しかもジャロリーノは喜んでいる。いや、悦んでいる。尻の穴をなめられ、指を入れられ、挙句の果てには性器をねじ込まれ、しかしジャロリーノはそれを悦んでいるのだ。
 あられもない声をあげながら腰を振って、自分の性器からアリエナイモノを吹き出している。
「……あ、ん、……っ、くぅ」
 目が覚めると、ジャロリーノは興奮している。興奮のまま、こうやって自慰にふける。あの夢の中を再現しようと、夢の中で抱いてくれた男を想像して。
 たまらなくなってパジャマのズボンを膝まで下げた。
 直に性器を扱いてから、ぬるぬるに汚れた指で、尻の割れ目を撫でた。
 布団の中で大きく足を広げると、目をきつくつぶり、夢の中で体重をかけてきてくれた男の姿を思い浮かべた。
「はあ、ああ、ああ、」
 声が出てしまった。きゅっと唇を閉じた。
 そして指の先を尻の穴に入れた。
「んんんんーっ!」
 我慢していても声が漏れ出てしまう。涙もこぼれた。
 夢を見るようになってからほどなくして始まったアナルオナニーは、すっかりとジャロリーノの肛門を性器に変えていた。
 指もジャロリーノの意思ではなく勝手に動いていて、出し入れされ、開発したイイ部分を執拗にひっかく。
「んんん、ああ、はあ、ああ、はぁ、いい……」
 指は夢の中のあの人のペニス。
「ああもっと、もっと、もっと深く、」
 ジャロリーノは腰を大きく振った。
 限界を迎えていた性器が、ぴゅっぴゅっと精液を漏らしている。
「あ、だめ触ったら出ちゃう」
 けれど手は意地悪に性器を掴み、激しく上下し始めた。
「駄目です、ダメ、ダメです」
 尻を思い切り突かれ、中で動かされ、ジャロリーノは妄想する。
 中に出して。
 なにを考えているんだ。
 不意に冷静になった。
 そして自分の有様に愕然とし、けれど止まらない快感に手を指と腰は止まらない。
「ああ、ああ、あああああ、いくうっ」
 腸がジャロリーノの指にねっとりとまとわりつき、しっかと銜え込んだ。
 中に出して!
 ジャロリーノは極まった。
 自分の性器から何度も吹き出される精液。そして一向に指を放そうとしない、後ろの性器。
「……、……」
 さーっと興奮が冷めてゆく。
 ネイプルス家の王子なのに。
 なんでこんな風になってしまったんだろう。
 ネイプルス家の王子なのに。
 尻から指を抜くとき、再び快感があった。
「あっ」
 力を失っていたペニスがピクリと動いたのが分かって、涙が堪えきれなかった。
 けれど三十分経つ。
 もう経っているかもしれない。
 こんな姿を、しかも肛門を使っていた様をシェパイに見られたら、もう生きてゆけない。
 ジャロリーノは急いでパジャマを上げて、汚れた手をパジャマの内側にこすりつけた。
「ジャロリーノ、起きたか?」
 その直後に声がして、ゾッとした。
 ジャロリーノは硬直し、息を飲んでからそっと顔を出す。
 シェパイは部屋の入り口に立っていた。ほっとしたけれど、心臓は破裂しそうなくらいドキドキしている。
「……起きた」
「そ。じゃあ、下に食事ができている。着替えたら来い。ちゃんと顔も洗って、……寝癖がひどいな、いっそシャワーを浴びちゃえよ」
「あ、……うん」
「アフタも学校には遅れるそうだ」
「分かった」
 シェパイが部屋からいなくなると、急いでベッドから抜け出し、バスルームに駆け込んだ。
 ネイプルス城には温泉がひかれた大浴場があるが、そこまで行く気は起きない。
 外は相当冷え込んでいたのだろう、カランをひねってもなかなかシャワーが出てこない。やっと出てきたものの、それは水だった。
 水でもいい、ジャロリーノは頭から水をかぶった。
 そして必死に尻の割れ目を洗った。
 指が肛門の縁に当たるたび、前で性器がひくひく反応する。
 こんなんじゃなかったのに。
「もうやだぁ」
 シャワー音に紛れて、ジャロリーノは声を出して泣いた。
 


 続く。
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