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政略見合い
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お見合いは、政財界の大物がお忍びで訪れる一見さんお断りの高級料亭で執り行われた。
リムジンからばあやに手を引かれて降りた薫子は、両脇の美しい日本庭園のある石畳の道を小さな歩幅で必要以上にゆっくりと歩いていた。そうすることで、薫子はなるべくその場所へと向かう時間を稼いでいた。自分でも意味のない行動だと分かってはいたが、気持ち的にそうせずにはいられなかった。
ばあやがしずしずと引き戸を開けると、玄関には既に案内係の仲居が待機していた。
「ようこそお越し下さいました。こちらへ、どうぞ」
仲居の後ろをばあやと共について歩く。
磨きあげられた長い廊下を左手に曲がると、縁側へ繋がっていた。縁側から望む日本庭園は、門から玄関へと続く両脇の日本庭園と同じ雰囲気を醸し出しているものの、広大な敷地に合わせてより大きく、よりダイナミックに配置されていた。目の前には立派な池があり、たくさんの錦鯉が優美に泳いでいて、それらの模様が日本庭園の彩りに華を添えていた。
薫子はその道中、ただ黙って歩いていた。まるで死刑宣告を受け、死刑場へと向かうような気持ちだった。
「こちらのお部屋になります」
仲居が美しい所作で膝を曲げ、両手を障子に掛けた。
「失礼致します。お待ちのお客様がお見えになりました」
緊張して、喉が鳴った。
スッと障子が開き、仲居が薫子とばあやを中に入るように軽く促した。
左手に薫子の両親、奥には世話人夫妻、右手にお見合い相手とその両親が座っていた。お見合い相手の顔は彼の両親に隠れてよく見えないが、がっしりとした体躯の良い、座っていても背が高そうなのが見てとれた。
「おお、来たか」
薫子の父、龍太郎は薫子が入ってきたのを認めると、満足そうに笑った。
お父様がこんな風に笑顔を見せるなんて……
薫子の記憶にある父は、いつも無口でしかめっ面をしている印象しかなかった。きっと、仕事の場では笑顔を見せることもあるのだと思うと、悲しい気持ちになった。
「薫子さんは、ご両親の隣にお座り下さい」
世話人の指示に従い、母の華子の隣にそっと腰を下ろした。ばあやは世話人の真向かいの下座に座る。
華子は薫子の着姿を見つめると、何も言わずにただ優美に微笑んで頷いた。
象牙色を背景に紅葉に染まる楓や銀杏の赤から橙、黄、黄緑への美しい階調が描かれた加賀友禅の着物は、年齢を重ねた美しさを滲ませた華子にとてもよく似合っていた。
斜め向かいに座るお見合いの相手とその隣に座る両親に向き直り、薫子は遅れた詫びを告げた。
「お待たせしてしまい、申し訳……!!!」
男が顔を上げた途端、薫子は継ぐ言葉を止めてしまった。
代わりに薫子の口から出たのは……
「りょう、ちゃん……?」
どうして、ここに遼ちゃんがいるの……?
薫子の目の前には、幼稚舎から小等部までことあるごとに彼女にちょっかいを出していた遼が、躰はがっしりとして大きくなっているものの、あの時の悪戯っ子の面影をしっかりと残したまま座っていた。
小等部を卒業した後、確かご家族と共にアメリカへ移住したはず……
リムジンからばあやに手を引かれて降りた薫子は、両脇の美しい日本庭園のある石畳の道を小さな歩幅で必要以上にゆっくりと歩いていた。そうすることで、薫子はなるべくその場所へと向かう時間を稼いでいた。自分でも意味のない行動だと分かってはいたが、気持ち的にそうせずにはいられなかった。
ばあやがしずしずと引き戸を開けると、玄関には既に案内係の仲居が待機していた。
「ようこそお越し下さいました。こちらへ、どうぞ」
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「こちらのお部屋になります」
仲居が美しい所作で膝を曲げ、両手を障子に掛けた。
「失礼致します。お待ちのお客様がお見えになりました」
緊張して、喉が鳴った。
スッと障子が開き、仲居が薫子とばあやを中に入るように軽く促した。
左手に薫子の両親、奥には世話人夫妻、右手にお見合い相手とその両親が座っていた。お見合い相手の顔は彼の両親に隠れてよく見えないが、がっしりとした体躯の良い、座っていても背が高そうなのが見てとれた。
「おお、来たか」
薫子の父、龍太郎は薫子が入ってきたのを認めると、満足そうに笑った。
お父様がこんな風に笑顔を見せるなんて……
薫子の記憶にある父は、いつも無口でしかめっ面をしている印象しかなかった。きっと、仕事の場では笑顔を見せることもあるのだと思うと、悲しい気持ちになった。
「薫子さんは、ご両親の隣にお座り下さい」
世話人の指示に従い、母の華子の隣にそっと腰を下ろした。ばあやは世話人の真向かいの下座に座る。
華子は薫子の着姿を見つめると、何も言わずにただ優美に微笑んで頷いた。
象牙色を背景に紅葉に染まる楓や銀杏の赤から橙、黄、黄緑への美しい階調が描かれた加賀友禅の着物は、年齢を重ねた美しさを滲ませた華子にとてもよく似合っていた。
斜め向かいに座るお見合いの相手とその隣に座る両親に向き直り、薫子は遅れた詫びを告げた。
「お待たせしてしまい、申し訳……!!!」
男が顔を上げた途端、薫子は継ぐ言葉を止めてしまった。
代わりに薫子の口から出たのは……
「りょう、ちゃん……?」
どうして、ここに遼ちゃんがいるの……?
薫子の目の前には、幼稚舎から小等部までことあるごとに彼女にちょっかいを出していた遼が、躰はがっしりとして大きくなっているものの、あの時の悪戯っ子の面影をしっかりと残したまま座っていた。
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