【R18】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

奏音 美都

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絶望 ー悠回想ー

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 そんな酷い言葉を掛けた俺に、それでも薫子は言い募った。

『確、かに......私には、覚悟が足りなかった。駆け落ちすることになって、怖くなって......足が動かなくて。向こうでの生活も、何もかもが不安で仕方なかった。
 それでも、本当に......悠と一緒に、いたいと思ったの。一緒に生きていきたいって。

 悠を、愛しているから』

 ック...かお、るこ......お願いだ。それ以上、言わないで......
 君を、これ以上傷つけたくないのに。

 視界を失った両瞳の奥が熱く潤み、喉が締め付けられたように苦しくなる。

 俺は、心を鬼にするしかなかった。
 薫子の、ために......

『事故に遭い......俺たちの関係が、双方の親に知られてしまった』

 本当は、言いたくなかった......

『ぇ......』

 薫子の、絶望に満ちた声が聞こえて来る。

『その時俺は、意識不明だったので知らなかったけど。君の父親が俺の父に電話を掛けてきたらしい。話では、凄い剣幕だったって。
 父さんは、母さんには話してないって言ってた。これ以上......心配かけたくないからって』

 俺は、こうすることが一番いいのだと正当性を主張するように、両親の顔を思い浮かべた。

 そうだ......もう、これ以上ふたりを悲しませてはいけない。
 俺を咎めることのなかった父さんのためにも。心配をかけてしまった母さんのためにも。

 これからは、風間家の人間として生きていくんだ......
 
 心を、凍らせるんだ。
 感情を、捨てなくては。

『俺たちの関係が露呈してしまった今、君には関係を続けていく自信はあるの?』
『そ、それ、は......』

 まるで尋問のような俺の言い方に、薫子が戸惑い、動揺しているのが声からも伝わってきた。

『君は、俺と君が恋人であることを父親に知られるのを最も恐れていた。知られてしまったら、別れさせられると怯えていた。
 それは、立ち向かう勇気がなかったからだ。君の俺に対しての想いなんて、それだけのものだったんだ』

 分かってる。君がどれほど俺のことを愛してくれていたのか。
 親同士が対立する関係にありながらも、それを乗り越えようとしてくれていたことも。

 薫子が傷ついていることは分かっていた。

 けれど、そんな彼女を知りながらも、俺は更に刃を立てた。

『駆け落ちすることも出来ない。親に刃向かうことも出来ない。
 そんな君を、もう俺は守ってやることは出来ない』
『ッッ......』

 薫子の嗚咽を抑える声が漏れ、彼女が深く傷ついていることを訴えているようだった。

 自ら放った言葉の刃は、彼女だけでなく、俺自身をも深く切りつけた。込み上げてくる嗚咽を飲み下すのに、必死だった。

 だが、彼女に動揺を、知られてはいけない。俺は、震えそうになる声をグッと止め、肩で息を吐いた。

『事故に遭ったのは、薫子のせいじゃない』

 薫子、どうか自分を責めないで......

『でも、もう俺は君には会えない。
 君の顔を見るのが、辛いんだ......』

 俺には、君を見ることが出来ない。
 君を......守ることが、出来ない。

 ---だから、こうするしかないんだ。

『俺たちは、出会うべきじゃなかったんだ。
 別れて、欲しい』

 俺たちが、対立する財閥同士でなければ良かったのにと、今ほど思ったことはない。
 
 絶対に乗り越えられると思ってた。
 薫子と幸せな未来を築けると信じてた。

 ごめん、約束を守ってやれなくて。

『ッグ......ゆ、ぅ......ごめ、ごめ...なさ.......ッ、ウッ、ウッ......』

 背中から聞こえる薫子の嗚咽が、胸を引き裂く。

 薫子......!!!薫子......!!!かお、るこ......!!!

 胸の中で何度も叫んだ。

 抑えろ。
 抑えるんだ......

 左手の拳を痛いほど強く握り締め、必死に感情を抑えつける。ここに立っているのは薫子ではない、自分が愛している女性ではないと必死に言い聞かせ、冷たい抑揚のない言葉で薫子を突き放した。

『悪いけど、もうすぐ検査の時間なんだ。
 出て行ってくれないか』

 一瞬で空気が凍りつき、氷がバリンと割れた。

『ウゥッ......』

 薫子が飛び出し、扉が閉まる音が病室内に響く。

 薫子......ごめん。
 ごめ、ん......

『ウッ......ッグ......ウゥッ......』

 一人残された病室で、声を押し殺して涙を流した。

 泣いたのは......
 妹が死んで以来だった。
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