【R18】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

奏音 美都

文字の大きさ
287 / 355
転機

しおりを挟む
 薫子は覚悟を決めた。

「私、は......婚約破棄後、家を出ました。現在は、ばあやと一緒に暮らしています」
「ばあや、さんとですか?」

 染子は、ばあやのこともよく知っている。安堵したように、笑みを見せた。

「そうですか。ばあやさんと一緒だと聞き、安堵いたしました」

 それは、純粋に薫子を心配していたのだと分かる笑みだった。薫子は、自分の知らないところでも人に心配を掛けていたのだと知り、申し訳なく思った。

 染子は、婚約破棄した理由や、なぜ家を出ることにしたのか、聞くことはなかった。そんな彼女に対して、薫子は自分の心の内を打ち明けたくなった。

「先生。私、家を出てみて、自分が今までいかに世間知らずだったのか思い知らされました。
 掃除の仕方や洗い物、洗濯、料理......生活するのに必要な知識を、何ひとつ知らずに過ごしてきていました。私がこれまで『花嫁修業』と称して習っていたものは、どれひとつ現実の生活に役立つものはありませんでした。今まで、私はいったい何をやってきたんだろう、って考えてしまいました。
 それに、今でも私はばあやに頼ってばかりで。住むところも、生活に必要な知識も教えてもらって、生活費を全て負担してもらって。こんなの、本当の自立とは言えないですよね......」

 染子が包み込むような優しい目線で語りかける。

「薫子さん。あなたは少しずつ自立への道を歩んでいますよ。今まで世間知らずだったって知ったことだって、大きな一歩だと思いませんか?
 人に頼らずに生きてこられた人なんて、誰もいませんよ。焦ることは、ありません」

 染子の言葉に救いを感じつつも、やはり焦る気持ちもあった。

「でも......それじゃ、やっぱり駄目なんです。私は、精神的にも経済的にも早く自立しないと......」

 そうしないと、悠に会いに行けない......

 薫子は、苦しそうに美しい眉を寄せた。

「その為に、働く決心をして仕事を探したんですが、現実は上手くいかなくて。
 当然、ですよね。仕事がいったいどんなものなのかも、時給の相場も知らず、人と接することが苦手な私が簡単に仕事なんて見つかるはず、ありませんでした。今までにいくつかの場所に電話をしたり、面接を受けたりしたんですけど、どれも駄目でした。
 それで......無理して、体調を崩してしまって、仕事を探すのを諦めました。そうしたら、何もかもやる気をなくして、投げ出したくなってしまって......

 このままじゃいけないってことは分かってるんです。お医者さんにはストレスを溜めず、人と話したり、外に出て体を動かしたほうがいいって言われたんですけど、どうしていいのか分からなくて」

 あれほど内気で自分の意見など口にすることのなかった薫子が今、自ら道を切り拓こうとしていることに、染子は内心驚いていた。

 だが、薫子は世間という厳しい壁に突き当たり、それを超えられずにいる。

 長年見守ってきた師として、彼女の背中の後押しをして差し上げたい......

 残りのコーヒーを口にし、優雅な所作でカップを置いた。

「先ほど薫子さんは、今まで自分がしてきたことは現実の生活ではなんの役にも立たなかった......と仰っていたけど。
 あなただからこそ、出来ることがありますよ」

 薫子は、目を丸くした。

「私だからこそ、ですか?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】 その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。 片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。 でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。 なのに、この呼び出しは一体、なんですか……? 笹岡花重 24歳、食品卸会社営業部勤務。 真面目で頑張り屋さん。 嫌と言えない性格。 あとは平凡な女子。 × 片桐樹馬 29歳、食品卸会社勤務。 3課課長兼部長代理 高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。 もちろん、仕事できる。 ただし、俺様。 俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

処理中です...