【R18】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

奏音 美都

文字の大きさ
317 / 355
After Story1 ー新しい命の誕生ー

しおりを挟む
 陣痛がきている間は苦しくきついが、まだ耐えられない程ではないと薫子は感じていた。陣痛が続くのは長くても1分程度なので、それさえ乗りきればまた緩い痛みへと変化する。

 私は、すごく恵まれてるんだろうな。こうして早い段階からベッドに横にさせてもらって、皆がサポートしてくれて。
 仕事を抱えていたり、子供がいたりする人は出産ギリギリまで忙しくしているだろうし。中には旦那さんや家族のサポートを受けられない人もいるだろうし、未婚のまま子供を産む人もいるよね。

 もし、私があの時悠の元へと戻る勇気のないままになっていたら......私はひとりで、出産を迎えることになってたのかな。

 そう思うと、恐くなった。

 産科病棟に移ったら詳しい話をすると言われていたが、看護師は時々様子を見に来るものの、薫子を内診した医師は一向に現れることはなかった。

 どうして、来てくれないの......
 破水したら、早く出産しないといけないと言ってたのに。

 何度も陣痛の波を乗り越え、不安と焦燥に駆られながらベッドの上でただジリジリと待っているのは苦痛以外のなにものでもなかった。

 それから3時間程経ち、ようやく医師が姿を見せた。

「今、陣痛の間隔はどれぐらいですか」

 詫びるでもなく飄々と尋ねる医師に、いつもは大人しく、人に対して怒りなど感じない薫子が珍しく苛立ちを感じた。それを抑え、少し考えてから答えた。

「えっと......10分間隔ぐらいです」
「分かりました。では、子宮口がどれぐらい開いてるか、確認しましょう」

 その場で足を開かされ、薫子は死にそうなほどの恥ずかしさを覚えた。

 悠人は気を遣って外に出てくれたものの、悠は傍にいる。いくら悠が見えないからといって、カーテンを引かれることもなく無様な格好をしていることは、薫子にとって恥辱だった。

「うーん、まだ2センチちょっとか。指1本分程度ですね」

 薫子は母親学級でのことを思い出し、愕然とした。

 2センチといえば、準備期の段階だ。これから活動期を経て分娩が出来る移行期になるまでは、まだまだ道のりは遠い。何しろ、分娩の許可が下りるには子宮口が10センチまで開かないといけないのだ。
 
 医師が腕時計に視線を落とし、薫子を見つめた。

「では、また暫くしたら様子を見にきます」

 医師は来てから5分も経たないうちに、さっさと帰ってしまった。その後ろ姿を不安げに見つめつつ、待つしかないのだと薫子は覚悟を決めた。

 看護師が二人分の食事と悠の薬を運んできた。
 
「これから出産に向けて長いですから、食べられるうちに食べて、眠れる時に眠って、体力を温存しておかないと駄目ですよ」

 婦長であるベテラン看護師に諭され、薫子は素直に頷いた。

 悠人は眉を下げて薫子を見つめた。

「申し訳ないが、僕はこの後会社に戻らなければならない。静音から出産の連絡を受けたら、すぐに戻ってくるから。すまないね」
「いえ、とんでもないです。色々とありがとうございました」

 薫子が頭を下げると、悠人は次にばあやに声を掛けた。

「ばあやさん、静音と外食をしてきてもいいかな。その後彼女はここに戻るから、交代でお昼ご飯を取るといい」
「はい、私のことはどうぞお構いなく。ここで適当にお食事しますので」

 だが、静音は出て行くことを躊躇った。

「でも......薫子さんは陣痛が来てますし、悠もひとりでは食事が困難なんですよ」

 心配する静音に、ばあやが安心させるように力強く答えた。

「私がちゃんとおふたりのお世話をしますから、任せて下さい」
「でも......」
「ささ! お二人がお食事に行かないと薫子様も悠様も食事を始められませんよ!」

 同意するように頷く薫子と悠を見て歩き出すものの、その足取りにはまだ迷いがあった。ようやく扉の前まで来ると、静音はばあやに深々と頭を下げた。

「すみません、ばあやさん。すぐに戻りますから」
「はいはい、ごゆっくりどうぞ」

 悠人にエスコートされ、静音は病室を出て行った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】 その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。 片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。 でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。 なのに、この呼び出しは一体、なんですか……? 笹岡花重 24歳、食品卸会社営業部勤務。 真面目で頑張り屋さん。 嫌と言えない性格。 あとは平凡な女子。 × 片桐樹馬 29歳、食品卸会社勤務。 3課課長兼部長代理 高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。 もちろん、仕事できる。 ただし、俺様。 俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

処理中です...