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SS2 告白

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 1時間ほど眠っただろうか。

 薫子は微睡みから目覚め、ゆっくりと瞼を開いた。気持ち悪さは無くなり、落ち着いていた。

 早く、会場に戻らなくては......

 一刻も早く戻って、父の機嫌を少しでも取り戻さなくてはならないと薫子は考えた。父の顔色を常に窺い、少しでも機嫌を損ねることのないように生きてきた、いわば身についた習慣のようなものだった。

 幼い頃から華道、茶道、琴など様々な稽古をつけられている薫子は、着付けも習わされた。普段はばあやが着付けることが多いので自分で着ることは滅多にないが、着物を着る所作はまるで洋服を着る時のように自然で迷いがなかった。

 洗面所で乱れてしまった髪の毛を整えていると、まだ少し顔色が白い。

 それでも、行かなくては......

 強迫観念に迫られるように、薫子は部屋を出た。


 エレベーターを降り、扉が開いた途端、そこに見えたのは......

「ゆ、悠...!?」

 どうして、ここに?

 悠は薫子の顔を見て、安心したように息を吐いた。

「薫子の姿が見えないから、心配になって......探してた」

 その言葉に、薫子の胸が掴まれたように苦しくなる。

 すごく、嬉しい...けど

 薫子の脳裏にはどうしても父の姿が浮かび上がり、背徳感が押し寄せる。

「こ...こんなところ、誰かに見られたら......私は大丈夫、だから...悠、会場に戻って......」

 本当は、一緒にいたい。けれど、それは許されないことだから......

 薫子の胸は張り裂けそうだった。

 すると、悠がエレベーターに乗り込んだ。

「え...」

 驚く間もなく、扉が閉まる。

「人が滅多に来ない場所、どこ?」

 そう言われ、先程まで休んでいた部屋を考えたが

 い、言えない......部屋に、来て...だなんて。

「あ...あの、16階なら多分、誰も来ないと思う......」

 そこは会議室があるが、使用されるのは平日が多いため、日曜に使われることは滅多になかった。

 悠は16と書かれたボタンを押すと、壁に凭れた。

「気分、悪かったの?」
「う、ん...でも、だいぶ休んだから...もう、大丈夫」

 そう言いながらも、薫子の鼓動がどんどん速まり、全身に響いているのを感じた。

 エレベーターが16階に到着し、扉が開くと、そこはパーティーの喧騒とは全く対照的な静かな空間が広がっていた。目の前には大きな窓があり、東京の高層ビルが一望出来る。

 悠は薫子の手を取り、「来て...」と言うと、窓へとエスコートする。

 悠に手を取られ、高鳴る胸を覚えつつも、薫子には後ろめたい気持ちを拭うことが出来ない。

「悠...やっぱり、こんなこと......駄目だよ。悠のことをお父様が探してるかもしれない」

 薫子は思いを振り切り、悠の手を握り締めると、エレベーターへと戻ろうとした。

 だがその瞬間、薫子の躰は悠の腕の中に閉じ込められていた。
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