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再会
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「最近お前達が始めた阿片の密輸ルート、王室騎士団に情報売ったらどういうことになるだろうな」
「なっ…」
図体の大きい男の背中がピクリと震えた。
「あと……今マージンとってる売春宿、あそこでも阿片捌いてるらしいじゃねぇか。騎士団の調査が入ったら、潰されんな」
図体の大きい男は、額からダラダラと汗を流して訴える。
「や、やめてくれぇっ!そんなことされたらおまんまの食い上げだ。第一、ボスが知ったら、殺されちまう」
何かを思い出したのかブルブルッと身体を震わせた。
「知るか」
リアムが吐き捨てるように言う。
図体の大きい男がリアムに掴み掛かり、大声を上げる。
「リアムぅ!お前だってボスの怖さは知ってるだろが! 敵に回したらどうなるか分かってんのか!?」
リアムはクッと笑った。
「だったら……商談成立、だな。俺は今のところはこの情報は売らねぇ。
代わりに、コイツをもらってく」
図体の大きい男はジュリアンを切り裂くような鋭い目で見た。
「わかった……おい、お前!リアムの気まぐれか知らねーが命拾いしたな。
お前ら、帰るぞ!」
どうやら、ジュリアンがリアムの恋人だということは信じていないようだ。男達はドカドカと酒場を引き揚げて行った。
た、助かった……
安堵すると同時に、ジュリアンの躰から緊張が抜けて膝がカクンとなった。
すると、リアムがグイッとジュリアンの腕を引き上げて、顔の近くまで寄せて来た。
「リアム、痛いよっ……!」
それでもリアムは掴んだ腕の力を緩めることなく、ジュリアンを怒鳴りつけた。
「お前、いったい何のつもりだっ!! ここがどういう場所か、わかってんのか!?」
リアムの迫力に押され、ジュリアンは思わず後ずさりしそうになるが、掴んだ腕の力が強くて動けない。
「ここは、お前みたいなお坊ちゃん、ましてやプリンスが来ていいとこじゃねぇっ!」
その言葉に、ジュリアンはリアムのいる世界から弾き出されたような気分になった。
分かってる。国を背負って立つ王子である僕が城を抜け出して、欲望と暴力で溢れるこの場所にいていいはずがない、ってこと。
僕の軽はずみな行動が、エレンザードという国をも揺るがす事態へと発展しないとも限らない……僕の後ろには、何百、何千、何万もの人々の命が、暮らしがかかっている、ってこと。
それ、でも……僕は……リアムに会いたかった。
ただ、逢いたかった。
ひたすら、リアムに……逢いたくて、たまらなかったんだ……
ジュリアンの瞳の奥が熱くなり、鼻がキューンと痛みを伴い、玉のような涙がポロポロと目の縁から次々と零れ落ちる。
「クッ…だっ…だって……ウックッ…リアム、…グッ…に…逢い、たくって…ウッ……ぼ、く……ヒッ……リアム…がァ……ぜんっ、ぜん…ヴッ……顔、見せないっ…ウグッ…から……ふ…あんっ…ウッ…でェッ…………」
先ほどの恐怖から解放された安堵もあって、ジュリアンは子供のように泣きじゃくった。
リアムは溜息を吐き、ジュリアンの腕を緩めると床に座らせた。
自分も腰を下ろし、ジュリアンの目線の高さに合わせるように顔を覗きこむと、逞しくて骨張った親指でジュリアンの涙を優しく拭った。
「もう、泣くな」
そっけなく聞こえるたった一言だったが、その声音にはリアムの精一杯の優しさと気遣いが感じられた。
それでも泣き止まないジュリアンの頬に手を添えると一瞬眉を寄せ、切ない表情でリアムがジュリアンを見つめる。
「お前に泣かれると……どうしていいかわかんねぇ」
僕だって、こんなところで泣いていたくない、けど……
感情が溢れ出し、涙は留まることなく流れ続ける。
すると、リアムがジュリアンの外套のフードをすっぽりと頭に被せ、華奢な躰をひょいっと持ち上げると肩に乗せ歩き出した。
「ちょっ、ちょっとリアム!!」
突然のことに涙が出ていたことも忘れ、足をばたつかせ、降りようとするジュリアンだったが、リアムはしっかりとジュリアンの躰を押さえつけた。
「暴れんな。少しの間だけだ……これが、一番安全な運搬方法だからな」
リアムはジュリアンを軽々と肩に担いだまま、悠々と人混みを掻き分け進んで行く。フードのおかげでジュリアンは誰にも顔を見られることなく、そして誰も見ることなく、リアムに運ばれた。
持ち上げられた時と同様、下ろされる時も何の前触れもなく、ドサッと木箱の上に座らされ、すっぽりと顔を覆っていたフードを持ち上げられた。
ジュリアンが文句をいう隙を与えず、
「店のバックヤードだ、少し待ってろ。絶対動くなよ」
そう言って、リアムはさっさと店内のカウンターへと戻って行った。
「なっ…」
図体の大きい男の背中がピクリと震えた。
「あと……今マージンとってる売春宿、あそこでも阿片捌いてるらしいじゃねぇか。騎士団の調査が入ったら、潰されんな」
図体の大きい男は、額からダラダラと汗を流して訴える。
「や、やめてくれぇっ!そんなことされたらおまんまの食い上げだ。第一、ボスが知ったら、殺されちまう」
何かを思い出したのかブルブルッと身体を震わせた。
「知るか」
リアムが吐き捨てるように言う。
図体の大きい男がリアムに掴み掛かり、大声を上げる。
「リアムぅ!お前だってボスの怖さは知ってるだろが! 敵に回したらどうなるか分かってんのか!?」
リアムはクッと笑った。
「だったら……商談成立、だな。俺は今のところはこの情報は売らねぇ。
代わりに、コイツをもらってく」
図体の大きい男はジュリアンを切り裂くような鋭い目で見た。
「わかった……おい、お前!リアムの気まぐれか知らねーが命拾いしたな。
お前ら、帰るぞ!」
どうやら、ジュリアンがリアムの恋人だということは信じていないようだ。男達はドカドカと酒場を引き揚げて行った。
た、助かった……
安堵すると同時に、ジュリアンの躰から緊張が抜けて膝がカクンとなった。
すると、リアムがグイッとジュリアンの腕を引き上げて、顔の近くまで寄せて来た。
「リアム、痛いよっ……!」
それでもリアムは掴んだ腕の力を緩めることなく、ジュリアンを怒鳴りつけた。
「お前、いったい何のつもりだっ!! ここがどういう場所か、わかってんのか!?」
リアムの迫力に押され、ジュリアンは思わず後ずさりしそうになるが、掴んだ腕の力が強くて動けない。
「ここは、お前みたいなお坊ちゃん、ましてやプリンスが来ていいとこじゃねぇっ!」
その言葉に、ジュリアンはリアムのいる世界から弾き出されたような気分になった。
分かってる。国を背負って立つ王子である僕が城を抜け出して、欲望と暴力で溢れるこの場所にいていいはずがない、ってこと。
僕の軽はずみな行動が、エレンザードという国をも揺るがす事態へと発展しないとも限らない……僕の後ろには、何百、何千、何万もの人々の命が、暮らしがかかっている、ってこと。
それ、でも……僕は……リアムに会いたかった。
ただ、逢いたかった。
ひたすら、リアムに……逢いたくて、たまらなかったんだ……
ジュリアンの瞳の奥が熱くなり、鼻がキューンと痛みを伴い、玉のような涙がポロポロと目の縁から次々と零れ落ちる。
「クッ…だっ…だって……ウックッ…リアム、…グッ…に…逢い、たくって…ウッ……ぼ、く……ヒッ……リアム…がァ……ぜんっ、ぜん…ヴッ……顔、見せないっ…ウグッ…から……ふ…あんっ…ウッ…でェッ…………」
先ほどの恐怖から解放された安堵もあって、ジュリアンは子供のように泣きじゃくった。
リアムは溜息を吐き、ジュリアンの腕を緩めると床に座らせた。
自分も腰を下ろし、ジュリアンの目線の高さに合わせるように顔を覗きこむと、逞しくて骨張った親指でジュリアンの涙を優しく拭った。
「もう、泣くな」
そっけなく聞こえるたった一言だったが、その声音にはリアムの精一杯の優しさと気遣いが感じられた。
それでも泣き止まないジュリアンの頬に手を添えると一瞬眉を寄せ、切ない表情でリアムがジュリアンを見つめる。
「お前に泣かれると……どうしていいかわかんねぇ」
僕だって、こんなところで泣いていたくない、けど……
感情が溢れ出し、涙は留まることなく流れ続ける。
すると、リアムがジュリアンの外套のフードをすっぽりと頭に被せ、華奢な躰をひょいっと持ち上げると肩に乗せ歩き出した。
「ちょっ、ちょっとリアム!!」
突然のことに涙が出ていたことも忘れ、足をばたつかせ、降りようとするジュリアンだったが、リアムはしっかりとジュリアンの躰を押さえつけた。
「暴れんな。少しの間だけだ……これが、一番安全な運搬方法だからな」
リアムはジュリアンを軽々と肩に担いだまま、悠々と人混みを掻き分け進んで行く。フードのおかげでジュリアンは誰にも顔を見られることなく、そして誰も見ることなく、リアムに運ばれた。
持ち上げられた時と同様、下ろされる時も何の前触れもなく、ドサッと木箱の上に座らされ、すっぽりと顔を覆っていたフードを持ち上げられた。
ジュリアンが文句をいう隙を与えず、
「店のバックヤードだ、少し待ってろ。絶対動くなよ」
そう言って、リアムはさっさと店内のカウンターへと戻って行った。
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