17 / 65
ワンコと2軒目
2
しおりを挟む
まさか、柚木くんがまたその話をしてくるとは思っていなかった私は、突然の質問にたじろいだ。
「えっ!? あ、う、うん。もしかして、年上好き、とか?」
あぁ、なんで私はいつも余計なこと言っちゃうんだろう。そんなつもり、ないのに。
「え、原田先輩。そんな風に思ってたんですか?」
柚木くんが瞳を揺らし、悲しそうな表情で私を見つめる。
そんな目で、見ないで……
「そ、んなこと……思ってない」
柚木くんは私の言葉を受けて、ホッとしたように安堵の息を洩らした。
「僕、先輩には誤解されたくないんです。
僕は本当に……原田先輩のことが好きだから」
そう言って真っ直ぐに私を見つめる柚木くんが、なんだかいつもよりもかっこよく見えて……正視、できない。
私の気持ちを見透かされそうだから。ズルい私の本心を知って、愛想つかされちゃうんじゃないかってこわいから。
でも、なんでこわいって思うんだろう……
「最初は、綺麗だし、すごく頼りになる先輩だな、って思ってました。それにいつも明るくて笑顔で、失敗しても優しく励ましてくれて……それから原田先輩のことをお姉さんのように慕うようになりました」
柚木くんが柔らかい笑みを向けた。
お姉さん、か……
言葉を発しようとする私を目で遮り、一口カクテルを口にした後、柚木くんが話を続ける。
「でも、いつからかそれとは違う感情が芽生えてきて……先輩に頭撫でられるのが嬉しかったりするのと同時に切なくなったり、抱き締められると胸が苦しくなったり……」
柚木、くん……
「あ、実は……欲情、したりもしてたんですけど……」
そう言うと、柚木くんは顔を真っ赤にして俯いた。
ど、どうして欲しいのこの子は……ここで襲えと言ってるんですか!?
「原田先輩に近づく男の人とか嫉妬したりして。仕事なのに……
今朝もそれで、先輩にたまらず聞いちゃうし……」
あぁ、あれね……
私は給湯室から帰ってきたときのことを思い出した。
「原田先輩は……こんな僕でも好き、ですか?」
柚木くんの痛くなるほどの視線と想いに圧倒される。
「わ、たしは……」
柚木くんに告白されて舞い上がっていた気持ちが、『お付き合いする』となると、急に現実的な考えが渦巻き始めた。
「柚木くんの『好き』とは違う、かも……」
「え……」
「柚木くんのこと、好きだし、可愛いと思ってる……」
し、エッチなことしたいと思ってる……
「けど……付き合う、とか恋愛に踏み出せない自分もいて……
柚木くん、まだ入社1年目で若いし、私はもう6年目でしょ。これから付き合う人とは結婚も視野に入れられるような人じゃないと、なんて……今までそんなこと考えたことなかったのに、いざとなると考えたりして。
……柚木くん、まだ結婚なんて考えられないでしょ?」
柚木くんは無言になった。
暫くの沈黙の後、小さい声が響いた。
「はい、今はまだ……」
そりゃ、そうだよね。社会人1年生の男の子に結婚とか考えられるわけないよね。
私は小さく溜息をついた。
せっかく気持ちを盛り上げる為にバーに来たのに、逆効果になっちゃった……
柚木くん、襲うつもりだったのになぁ。
柚木くんは切ない表情で俯いたまま。
「ご、めんね。柚木、くん……」
そう言って、柚木くんの肩に手を置いた。すると、柚木くんが私の手を肩から払いのけた。
え、怒った!?
と思ったら、払いのけた私の手をテーブルの上に乗せ、自分の手を重ねた。
「僕……諦められません」
「ゆ、ずき……くん?」
柚木くんは頬を赤く染めながらも、潤んだ瞳で私を切なく見つめて訴えた。
「僕、原田先輩の可愛い後輩ワンコでいいから……傍においてください。
もし、原田先輩に好きな人ができたら……その時は諦めるんで」
一瞬辛そうに眉を顰めた後、唇をキュッと結んで、私を見つめ直した。
「原田先輩が……好き、なんです」
「えっ!? あ、う、うん。もしかして、年上好き、とか?」
あぁ、なんで私はいつも余計なこと言っちゃうんだろう。そんなつもり、ないのに。
「え、原田先輩。そんな風に思ってたんですか?」
柚木くんが瞳を揺らし、悲しそうな表情で私を見つめる。
そんな目で、見ないで……
「そ、んなこと……思ってない」
柚木くんは私の言葉を受けて、ホッとしたように安堵の息を洩らした。
「僕、先輩には誤解されたくないんです。
僕は本当に……原田先輩のことが好きだから」
そう言って真っ直ぐに私を見つめる柚木くんが、なんだかいつもよりもかっこよく見えて……正視、できない。
私の気持ちを見透かされそうだから。ズルい私の本心を知って、愛想つかされちゃうんじゃないかってこわいから。
でも、なんでこわいって思うんだろう……
「最初は、綺麗だし、すごく頼りになる先輩だな、って思ってました。それにいつも明るくて笑顔で、失敗しても優しく励ましてくれて……それから原田先輩のことをお姉さんのように慕うようになりました」
柚木くんが柔らかい笑みを向けた。
お姉さん、か……
言葉を発しようとする私を目で遮り、一口カクテルを口にした後、柚木くんが話を続ける。
「でも、いつからかそれとは違う感情が芽生えてきて……先輩に頭撫でられるのが嬉しかったりするのと同時に切なくなったり、抱き締められると胸が苦しくなったり……」
柚木、くん……
「あ、実は……欲情、したりもしてたんですけど……」
そう言うと、柚木くんは顔を真っ赤にして俯いた。
ど、どうして欲しいのこの子は……ここで襲えと言ってるんですか!?
「原田先輩に近づく男の人とか嫉妬したりして。仕事なのに……
今朝もそれで、先輩にたまらず聞いちゃうし……」
あぁ、あれね……
私は給湯室から帰ってきたときのことを思い出した。
「原田先輩は……こんな僕でも好き、ですか?」
柚木くんの痛くなるほどの視線と想いに圧倒される。
「わ、たしは……」
柚木くんに告白されて舞い上がっていた気持ちが、『お付き合いする』となると、急に現実的な考えが渦巻き始めた。
「柚木くんの『好き』とは違う、かも……」
「え……」
「柚木くんのこと、好きだし、可愛いと思ってる……」
し、エッチなことしたいと思ってる……
「けど……付き合う、とか恋愛に踏み出せない自分もいて……
柚木くん、まだ入社1年目で若いし、私はもう6年目でしょ。これから付き合う人とは結婚も視野に入れられるような人じゃないと、なんて……今までそんなこと考えたことなかったのに、いざとなると考えたりして。
……柚木くん、まだ結婚なんて考えられないでしょ?」
柚木くんは無言になった。
暫くの沈黙の後、小さい声が響いた。
「はい、今はまだ……」
そりゃ、そうだよね。社会人1年生の男の子に結婚とか考えられるわけないよね。
私は小さく溜息をついた。
せっかく気持ちを盛り上げる為にバーに来たのに、逆効果になっちゃった……
柚木くん、襲うつもりだったのになぁ。
柚木くんは切ない表情で俯いたまま。
「ご、めんね。柚木、くん……」
そう言って、柚木くんの肩に手を置いた。すると、柚木くんが私の手を肩から払いのけた。
え、怒った!?
と思ったら、払いのけた私の手をテーブルの上に乗せ、自分の手を重ねた。
「僕……諦められません」
「ゆ、ずき……くん?」
柚木くんは頬を赤く染めながらも、潤んだ瞳で私を切なく見つめて訴えた。
「僕、原田先輩の可愛い後輩ワンコでいいから……傍においてください。
もし、原田先輩に好きな人ができたら……その時は諦めるんで」
一瞬辛そうに眉を顰めた後、唇をキュッと結んで、私を見つめ直した。
「原田先輩が……好き、なんです」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
独占欲全開の肉食ドクターに溺愛されて極甘懐妊しました
せいとも
恋愛
旧題:ドクターと救急救命士は天敵⁈~最悪の出会いは最高の出逢い~
救急救命士として働く雫石月は、勤務明けに乗っていたバスで事故に遭う。
どうやら、バスの運転手が体調不良になったようだ。
乗客にAEDを探してきてもらうように頼み、救助活動をしているとボサボサ頭のマスク姿の男がAEDを持ってバスに乗り込んできた。
受け取ろうとすると邪魔だと言われる。
そして、月のことを『チビ団子』と呼んだのだ。
医療従事者と思われるボサボサマスク男は運転手の処置をして、月が文句を言う間もなく、救急車に同乗して去ってしまった。
最悪の出会いをし、二度と会いたくない相手の正体は⁇
作品はフィクションです。
本来の仕事内容とは異なる描写があると思います。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる