3 / 498
3.突然の手紙
しおりを挟む
目覚ましの音が、頭の遠くで鳴っている。美羽は手を伸ばし、アラームを消した。躰の向きを変えようとして違和感を覚え、別の手を伸ばす。
触れたのは、昨夜自慰で使った電気マッサージ器だった。カーテン越しに明るい陽光を浴びながら感じるそれは、美羽の罪の意識を余計に増大させた。
のろのろと起き上がり、シーツの皺を伸ばしてベッドメイキングしてから浴室に行き、洗面所で玩具を綺麗に洗う。更に専用のスプレーをシュッと吹きかけて消毒すると、ラベンダーの香りが鼻を掠めた。ペーパータオルで拭き取ると部屋に戻り、素早くサイドテーブルの定位置へと戻した。
熱めのシャワーを滝のように浴び、昨夜の欲情を罪悪感と共に全て洗い流していく。ぼんやりと頭にかかった靄が次第にクリアになっていくにつれ、朝の準備に向けて脳が活動し始めた。
シャワーを浴び終えると厚手のバスタオルで丹念に水気を拭き取り、薔薇の香りのボディローションを全身にたっぷりと塗りこむ。
類が好きだった香り。
もう誰もこの匂いを気にする人なんていないのに、未だにこだわっている自分が可笑しくなる。
シルク製の繊細なブラジャーとパンティーを丁寧に身につけ、姿見で全身をチェックする。
胸もお尻も張りがあり、くびれも綺麗だ。この躰を活かすことができずに年老いていくことを想像すると、堪らなく悲しくなる。
ドレッサーの前に座り、ドライヤーで髪を乾かしてから丹念にヘアブラシで梳かしていく。類は、美羽の髪を指で梳かすのが好きだった。
化粧水を惜しげもなくたっぷりとつけて肌に浸透するまで待ち、美容液、乳液で保湿したら、さっと薄化粧をほどこしていく。
どこにも出かける用事がなくても、義昭はすっぴんでいるのを良しとしないし、完璧なメイクも好まない。
薄づきのファンデーションに自然なカーブを描く眉ライン、見えるか見えないかギリギリのラインで引かれたアイライナー、適度なボリュームと長さの睫毛、ほんのり赤みを帯びたチーク、唇の色に合わせた控えめな口紅は、それでも美羽を美しく華やかに見せるには十分だった。
鎖骨が綺麗に見えつつも上品に見える黒のカットソーに、動きやすいカーキのフレアワイドパンツを合わせる。邪魔にならないように緩く後ろに髪を纏め、黒革のシンプルなバブーシュを履いた。
バブーシュとはモロッコの伝統的な履物で、踵を踏みつぶしたようなデザインが特徴だ。履き心地の良さと機能性に美羽は気に入っているが、義昭は「みっともない」と顔を顰めた。
そう言われながらもこれを履いているのは、ささやかな反抗心からかもしれない。
義昭を起こさないよう静かに階段を下り、玄関を出ると、朝の冷たい空気がシン……と澄み渡り、清々しい気持ちになって胸いっぱいに吸い込んだ。小さなポーチに植えられたクレマチスが可愛らしい花を咲かせている。下向きで控えめな咲き方に愛しい気持ちが込み上げてきて、自然と笑みが零れた。
新聞を取り出そうとシルバーの郵便受けに伸ばした手が、止まる。そこに書かれた『朝野』の文字に、未だ違和感を覚えてしまう。
ここが私の家。ずっと暮らしていく、私の居場所……
あの頃には戻れないと分かっているのに、気を抜くと昔の生活を懐かしんでしまう自分がいる。思い出の渦に、飲み込まれそうになる。
斜めがけ鞄を背負った高校生が家の前を自転車で通り過ぎ、現実に戻った美羽は新聞を取り出した。だが、そこにはもう一通、白い封筒が入っていた。美羽はもう一度手を伸ばし、封筒を手にした。日本語でタイプされた住所の下に『Air mail to Japan』と赤い文字で斜めに手書きされている。
誰からだろう?
不審に思いながら封筒を裏返す。
そこにある名前を見た途端、
「ッッ!!」
美羽の手から、封筒がヒラリと舞い落ちた。
触れたのは、昨夜自慰で使った電気マッサージ器だった。カーテン越しに明るい陽光を浴びながら感じるそれは、美羽の罪の意識を余計に増大させた。
のろのろと起き上がり、シーツの皺を伸ばしてベッドメイキングしてから浴室に行き、洗面所で玩具を綺麗に洗う。更に専用のスプレーをシュッと吹きかけて消毒すると、ラベンダーの香りが鼻を掠めた。ペーパータオルで拭き取ると部屋に戻り、素早くサイドテーブルの定位置へと戻した。
熱めのシャワーを滝のように浴び、昨夜の欲情を罪悪感と共に全て洗い流していく。ぼんやりと頭にかかった靄が次第にクリアになっていくにつれ、朝の準備に向けて脳が活動し始めた。
シャワーを浴び終えると厚手のバスタオルで丹念に水気を拭き取り、薔薇の香りのボディローションを全身にたっぷりと塗りこむ。
類が好きだった香り。
もう誰もこの匂いを気にする人なんていないのに、未だにこだわっている自分が可笑しくなる。
シルク製の繊細なブラジャーとパンティーを丁寧に身につけ、姿見で全身をチェックする。
胸もお尻も張りがあり、くびれも綺麗だ。この躰を活かすことができずに年老いていくことを想像すると、堪らなく悲しくなる。
ドレッサーの前に座り、ドライヤーで髪を乾かしてから丹念にヘアブラシで梳かしていく。類は、美羽の髪を指で梳かすのが好きだった。
化粧水を惜しげもなくたっぷりとつけて肌に浸透するまで待ち、美容液、乳液で保湿したら、さっと薄化粧をほどこしていく。
どこにも出かける用事がなくても、義昭はすっぴんでいるのを良しとしないし、完璧なメイクも好まない。
薄づきのファンデーションに自然なカーブを描く眉ライン、見えるか見えないかギリギリのラインで引かれたアイライナー、適度なボリュームと長さの睫毛、ほんのり赤みを帯びたチーク、唇の色に合わせた控えめな口紅は、それでも美羽を美しく華やかに見せるには十分だった。
鎖骨が綺麗に見えつつも上品に見える黒のカットソーに、動きやすいカーキのフレアワイドパンツを合わせる。邪魔にならないように緩く後ろに髪を纏め、黒革のシンプルなバブーシュを履いた。
バブーシュとはモロッコの伝統的な履物で、踵を踏みつぶしたようなデザインが特徴だ。履き心地の良さと機能性に美羽は気に入っているが、義昭は「みっともない」と顔を顰めた。
そう言われながらもこれを履いているのは、ささやかな反抗心からかもしれない。
義昭を起こさないよう静かに階段を下り、玄関を出ると、朝の冷たい空気がシン……と澄み渡り、清々しい気持ちになって胸いっぱいに吸い込んだ。小さなポーチに植えられたクレマチスが可愛らしい花を咲かせている。下向きで控えめな咲き方に愛しい気持ちが込み上げてきて、自然と笑みが零れた。
新聞を取り出そうとシルバーの郵便受けに伸ばした手が、止まる。そこに書かれた『朝野』の文字に、未だ違和感を覚えてしまう。
ここが私の家。ずっと暮らしていく、私の居場所……
あの頃には戻れないと分かっているのに、気を抜くと昔の生活を懐かしんでしまう自分がいる。思い出の渦に、飲み込まれそうになる。
斜めがけ鞄を背負った高校生が家の前を自転車で通り過ぎ、現実に戻った美羽は新聞を取り出した。だが、そこにはもう一通、白い封筒が入っていた。美羽はもう一度手を伸ばし、封筒を手にした。日本語でタイプされた住所の下に『Air mail to Japan』と赤い文字で斜めに手書きされている。
誰からだろう?
不審に思いながら封筒を裏返す。
そこにある名前を見た途端、
「ッッ!!」
美羽の手から、封筒がヒラリと舞い落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる