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71.ガラス窓の向こうに見えるのは
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『Lieu de detente 』の店内にはボサノバが耳に心地いいボリュームで流れ、緑鮮やかな観葉植物が点在し、天然の木材で作られたセンスのきいたテーブルと椅子は訪れた客に居心地の良いリラックスした空間を提供し、新鮮な食材を使った本格的でしかもリーズナブルなランチにきめ細やかなサービスは訪れたゲストに幸せなひと時を齎していた。
だが、その裏では真逆のような慌ただしさが展開されていた。
「すみません、ランチAとレディースランチお願いします!」
「ねぇ、1卓の人たち急いでるから早めに出して欲しいって言われてるんだけど」
「よっしー、3卓もう食べ終わってるから下げて、コーヒー出して!」
「うそー、今から5卓のオーダー取りに行くのに」
「分かった。じゃ、そっちは私いくから!!」
様々な声が飛び交い、厨房から色んな音が響き、匂いが漂い、接客担当はトレーを手にそれぞれが忙しなく店内を動き回る。
カフェのランチタイムは忙しい。近くに会社が幾つかあり、そこから流れてくるサラリーマンやOLで店内は賑わっていた。それに加えて近所のおばさま方や大学生らしきカップルなんかもいて、店内に収まりきれないウェイティングの客が外にまでズラッと列を作り、溢れかえっていた。
夏にはオープンカフェスペースを開放できるので、もう少し収容客を増やせるのだが、さすがに11月後半では厳しいし、今日は雨も降っていて色とりどりの傘が花を咲かせていた。
オーダーが一通り入って落ち着くと、今度はオープンキッチンから隼斗が美羽に声を掛ける。
「悪いけど、洗い物入って」
「はい!」
厨房に入るとソムリエエプロンからロングエプロンに替え、溜まりに溜まった皿やコップをどんどん食洗機に入れていく。
『カフェ店員』と聞くとお洒落な店で可愛いユニフォームを着て華やかなイメージがあるが、実際は立ちっぱなしだし、力仕事もあるし、手も荒れるし、たまに煩わしい客がいたり、クレームをつけられたりと大変な面もある。
それでも、美羽は体力を使って働く充実感と客との会話を楽しめるこの仕事が好きだった。
1時半を過ぎるとぐっと客足が減り、それからだんだんと緩やかになり、2時半近くになると今度はティータイムの客が訪れるものの、ランチタイムの賑やかさとは打って変わって客だけでなく店員側にも穏やかな空気が流れ始める。
タイミングを見計らい、隼斗が皆に声を掛けた。
「それじゃ、芳子さんお疲れ様。トイレ掃除したら、あがっていいよ。香織さんと浩平は今のうちにランチ休憩入って。で、美羽はまた表出てくれるか?」
ニックネームで呼ぶのが苦手な隼斗はよっしーを芳子さん、かおりんを香織さん、もえたんを萌ちゃんと呼んでいた。本当は苗字で呼びたいぐらいだが、それは浩平が許さないので、これが隼斗の精一杯だった。
美羽はシンクを拭きながら頷いた。ちょうど食洗機が止まって、食器を全て戻し終えたところだった。
再びエプロンを替えて表に戻ると、1時間は店内を美羽が、厨房は隼斗がそれぞれ1人で切り盛りすることになる。
ランチタイムは相変わらず混雑していたものの、ティータイムは雨のせいか客がいつもより少なく、落ち着いていた。
お腹空いたなぁ。今日のまかない、なんだろう……
隼斗が作るまかないもまた、ここで働く楽しみのひとつだった。メニューにはない、特製のまかないは時には客に出すよりも豪華なものが出されたり、意外な組み合わせの食材があったりと、驚かせてくれる。そのアイデアをもらって、自宅で料理することもあった。
このごろはどんな料理を出しても義昭は反応してくれないが、昔はその都度「おいしい、おいしい」と言って食べてくれたものだった。
そんなことを思い出しつつ、テーブルの紙ナフキンを補充しながら店内を見回していると、ガラス張りの窓の向こう側に見知った顔を認めて、美羽の顔が一気に青褪めた。
あれは……っっ!!
だが、その裏では真逆のような慌ただしさが展開されていた。
「すみません、ランチAとレディースランチお願いします!」
「ねぇ、1卓の人たち急いでるから早めに出して欲しいって言われてるんだけど」
「よっしー、3卓もう食べ終わってるから下げて、コーヒー出して!」
「うそー、今から5卓のオーダー取りに行くのに」
「分かった。じゃ、そっちは私いくから!!」
様々な声が飛び交い、厨房から色んな音が響き、匂いが漂い、接客担当はトレーを手にそれぞれが忙しなく店内を動き回る。
カフェのランチタイムは忙しい。近くに会社が幾つかあり、そこから流れてくるサラリーマンやOLで店内は賑わっていた。それに加えて近所のおばさま方や大学生らしきカップルなんかもいて、店内に収まりきれないウェイティングの客が外にまでズラッと列を作り、溢れかえっていた。
夏にはオープンカフェスペースを開放できるので、もう少し収容客を増やせるのだが、さすがに11月後半では厳しいし、今日は雨も降っていて色とりどりの傘が花を咲かせていた。
オーダーが一通り入って落ち着くと、今度はオープンキッチンから隼斗が美羽に声を掛ける。
「悪いけど、洗い物入って」
「はい!」
厨房に入るとソムリエエプロンからロングエプロンに替え、溜まりに溜まった皿やコップをどんどん食洗機に入れていく。
『カフェ店員』と聞くとお洒落な店で可愛いユニフォームを着て華やかなイメージがあるが、実際は立ちっぱなしだし、力仕事もあるし、手も荒れるし、たまに煩わしい客がいたり、クレームをつけられたりと大変な面もある。
それでも、美羽は体力を使って働く充実感と客との会話を楽しめるこの仕事が好きだった。
1時半を過ぎるとぐっと客足が減り、それからだんだんと緩やかになり、2時半近くになると今度はティータイムの客が訪れるものの、ランチタイムの賑やかさとは打って変わって客だけでなく店員側にも穏やかな空気が流れ始める。
タイミングを見計らい、隼斗が皆に声を掛けた。
「それじゃ、芳子さんお疲れ様。トイレ掃除したら、あがっていいよ。香織さんと浩平は今のうちにランチ休憩入って。で、美羽はまた表出てくれるか?」
ニックネームで呼ぶのが苦手な隼斗はよっしーを芳子さん、かおりんを香織さん、もえたんを萌ちゃんと呼んでいた。本当は苗字で呼びたいぐらいだが、それは浩平が許さないので、これが隼斗の精一杯だった。
美羽はシンクを拭きながら頷いた。ちょうど食洗機が止まって、食器を全て戻し終えたところだった。
再びエプロンを替えて表に戻ると、1時間は店内を美羽が、厨房は隼斗がそれぞれ1人で切り盛りすることになる。
ランチタイムは相変わらず混雑していたものの、ティータイムは雨のせいか客がいつもより少なく、落ち着いていた。
お腹空いたなぁ。今日のまかない、なんだろう……
隼斗が作るまかないもまた、ここで働く楽しみのひとつだった。メニューにはない、特製のまかないは時には客に出すよりも豪華なものが出されたり、意外な組み合わせの食材があったりと、驚かせてくれる。そのアイデアをもらって、自宅で料理することもあった。
このごろはどんな料理を出しても義昭は反応してくれないが、昔はその都度「おいしい、おいしい」と言って食べてくれたものだった。
そんなことを思い出しつつ、テーブルの紙ナフキンを補充しながら店内を見回していると、ガラス張りの窓の向こう側に見知った顔を認めて、美羽の顔が一気に青褪めた。
あれは……っっ!!
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