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104.類の仕事
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リビングルームに入って来た類を見上げると、大きな紙袋をふたつ肩から下げていた。
「えっ、類……また洋服買ったの?」
「だって、冬用のブーツがないなぁと思ってさぁ。色々探してたら遅くなっちゃったぁ!」
紙袋を下ろした類は、いつものように箱から出して買ってきたものを美羽に見せる。
「ほら、シープスキンブーツ! LAは冬でもそんな寒くなんないし、サーフィンとかやんないから履くことなかったけど、日本だったら履けると思ってさ」
シープスキンブーツ?
美羽が疑問に思っていると、箱からメタリックゴールドのショートムートンブーツが出てきた。そこで、シープスキンがSheepskinの意味だと気付いた。
メンズものとは思えない色合いだが、オシャレな類らしい選択だと思った。
「凄く素敵だね」
「でしょ? ミューのも買ったんだぁ!」
もう一つの紙袋を手に取り、箱から取り出す。類と同色同デザインだが、ゴールドのスパンコールが煌めくサイドリボンがつけられていた。
うわっ、可愛い……
思わずテンションが上がりそうになって、慌てて抑えた。
類との同居生活において、類の物が増えて彼の生活がどっぷりとここに根を張り出していることも不安要素のひとつだったが、もう一つは類が買い物に行く度に何かしら美羽に買ってくることにあった。
最初はデパ地下の惣菜だったり、有名洋菓子店のケーキだったりと、皆で食べられるものだし滅多に食べられないものもあって美羽もわりと喜んで受け取っていたのだが、最近では自分のものを買うついでに美羽の洋服やアクセサリーも買ってきたりする。類は驚くほどに美羽の好みを熟知していて、どれも見た瞬間に心ときめくようなものばかりだった。
それでも、受け取るわけにはいかないと断るのだが、いつも類に押し切られていた。
「いいの、いいの。だって、僕はお世話になってる立場だしさ。いつも掃除や洗濯、美味しいご飯を作ってくれるミューに何かしたいんだよねー。
それに、ミューが綺麗にしてくれてると僕も嬉しいし」
義昭では絶対に言わない歯の浮くような言葉を掛けられてしまうと、美羽の胸が詰まり、言い返せなくなってしまう。貰う物よりも、自分のことを思って選んでくれた類の気持ちに甘い痛みが疼いてしまうし、泣きたくなる。
もし類が弟ではなく夫で、こんな風に夫婦生活を送れたらどんなに幸せだろうと、つい考えてしまいそうになる。
でも、今日こそはちゃんと断らないと……
「類、せっかく買ってくれたのは嬉しいけど、受け取れないよ。ねぇ、お金は大事に使って。私の物まで、買わなくても大丈夫だから……」
これは、美羽の本心でもあった。
同居を始めてから1ヶ月半が過ぎたが、類は買い物の為に外出はするものの、仕事を探している様子は見られない。いくら父からの遺産が手に入ったといっても、こんな調子ではいつかお金は底をつくはずだ。
類には仕事を見つけてもらい、自分の生活を確立し、いつかは恋人もつくり……ここから巣立っていってほしい。
これ以上、心を乱されないためにも。
「僕のこと、心配してくれてるの?」
類に大きな黒曜石の瞳で覗き込まれる。
美羽はコクリと喉を鳴らした。
「弟のこと……心配、するのは……姉として、当然……でしょ?」
次第に速くなっていく鼓動を感じながら、美羽は類から目を逸らした。
類の面倒を見たり、心配したり、気にかけたりする度に、『私は類の姉だから』『類は大切な弟だから』と心の中で必死に言い訳をしている。言葉にすると陳腐なぐらいそらぞらしくて、嫌気がさした。
そんな美羽に、類が抱きついた。
「ふふっ、やっぱミューは優しいね」
「ンッ、類!」
フワッと芳しい匂いに包み込まれ、耳に吐息がかかり、全身の熱が火照らされそうになり、美羽は不機嫌なフリをして類の胸を押した。
「もうっ、類が遊んでばっかりだからでしょ!」
類はクスリと笑みを浮かべて両手を頭の後ろで組んだ。
「そうだねー。そろそろこっち来て1ヶ月になるし、考えないとね。
でもこの買い物したお金は、遺産の分じゃないよ。ちゃんと自分で稼いだものだから」
「えっ、類……仕事してたの?」
父親に軟禁あるいは監禁されていた類は、大学卒業後は仕事などしていないものと思っていた。
「えっ、類……また洋服買ったの?」
「だって、冬用のブーツがないなぁと思ってさぁ。色々探してたら遅くなっちゃったぁ!」
紙袋を下ろした類は、いつものように箱から出して買ってきたものを美羽に見せる。
「ほら、シープスキンブーツ! LAは冬でもそんな寒くなんないし、サーフィンとかやんないから履くことなかったけど、日本だったら履けると思ってさ」
シープスキンブーツ?
美羽が疑問に思っていると、箱からメタリックゴールドのショートムートンブーツが出てきた。そこで、シープスキンがSheepskinの意味だと気付いた。
メンズものとは思えない色合いだが、オシャレな類らしい選択だと思った。
「凄く素敵だね」
「でしょ? ミューのも買ったんだぁ!」
もう一つの紙袋を手に取り、箱から取り出す。類と同色同デザインだが、ゴールドのスパンコールが煌めくサイドリボンがつけられていた。
うわっ、可愛い……
思わずテンションが上がりそうになって、慌てて抑えた。
類との同居生活において、類の物が増えて彼の生活がどっぷりとここに根を張り出していることも不安要素のひとつだったが、もう一つは類が買い物に行く度に何かしら美羽に買ってくることにあった。
最初はデパ地下の惣菜だったり、有名洋菓子店のケーキだったりと、皆で食べられるものだし滅多に食べられないものもあって美羽もわりと喜んで受け取っていたのだが、最近では自分のものを買うついでに美羽の洋服やアクセサリーも買ってきたりする。類は驚くほどに美羽の好みを熟知していて、どれも見た瞬間に心ときめくようなものばかりだった。
それでも、受け取るわけにはいかないと断るのだが、いつも類に押し切られていた。
「いいの、いいの。だって、僕はお世話になってる立場だしさ。いつも掃除や洗濯、美味しいご飯を作ってくれるミューに何かしたいんだよねー。
それに、ミューが綺麗にしてくれてると僕も嬉しいし」
義昭では絶対に言わない歯の浮くような言葉を掛けられてしまうと、美羽の胸が詰まり、言い返せなくなってしまう。貰う物よりも、自分のことを思って選んでくれた類の気持ちに甘い痛みが疼いてしまうし、泣きたくなる。
もし類が弟ではなく夫で、こんな風に夫婦生活を送れたらどんなに幸せだろうと、つい考えてしまいそうになる。
でも、今日こそはちゃんと断らないと……
「類、せっかく買ってくれたのは嬉しいけど、受け取れないよ。ねぇ、お金は大事に使って。私の物まで、買わなくても大丈夫だから……」
これは、美羽の本心でもあった。
同居を始めてから1ヶ月半が過ぎたが、類は買い物の為に外出はするものの、仕事を探している様子は見られない。いくら父からの遺産が手に入ったといっても、こんな調子ではいつかお金は底をつくはずだ。
類には仕事を見つけてもらい、自分の生活を確立し、いつかは恋人もつくり……ここから巣立っていってほしい。
これ以上、心を乱されないためにも。
「僕のこと、心配してくれてるの?」
類に大きな黒曜石の瞳で覗き込まれる。
美羽はコクリと喉を鳴らした。
「弟のこと……心配、するのは……姉として、当然……でしょ?」
次第に速くなっていく鼓動を感じながら、美羽は類から目を逸らした。
類の面倒を見たり、心配したり、気にかけたりする度に、『私は類の姉だから』『類は大切な弟だから』と心の中で必死に言い訳をしている。言葉にすると陳腐なぐらいそらぞらしくて、嫌気がさした。
そんな美羽に、類が抱きついた。
「ふふっ、やっぱミューは優しいね」
「ンッ、類!」
フワッと芳しい匂いに包み込まれ、耳に吐息がかかり、全身の熱が火照らされそうになり、美羽は不機嫌なフリをして類の胸を押した。
「もうっ、類が遊んでばっかりだからでしょ!」
類はクスリと笑みを浮かべて両手を頭の後ろで組んだ。
「そうだねー。そろそろこっち来て1ヶ月になるし、考えないとね。
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