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131.Trap
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面倒見がいい智之は、リョウと交流がなかったと言いつつも、思い出せる限りの情報を義昭に話した。
「リョウは親の海外転勤に伴って高校からアメリカに住んでた帰国子女組だったから、俺たち短期留学生とは取るプログラムも違ってたしな。
そういや、あいつとは日本人交流会で会ったんだよな。俺は日本人と群れるの好きじゃないから、あんま行かなかったけど。
ヨシは人嫌いな割には結構行ってたよなぁ?」
「あぁ……」
『日本人交流会』と聞き、嫌な汗が義昭の背中を伝い、震えが躰の内奥から湧き上がってくる。なんとか普通に振舞おうと、目の前の枝豆に手を伸ばした。
「日本人交流会って言っても、殆どの奴が男も女もルイ目当てだったよなぁ」
智之が類の話を持ち出し、義昭の緊張は限界に達し、思わず手にした枝豆を落としてしまった。
「あれっ、もしかしてヨシも、その口か?」
「ば、バカ言うな!!」
智之のからかいに慌てて大きく手を振ってから、そのリアクションの大きさに、かえって疑われるのではないかと焦りが募る。
「ハハッ、冗談だって!
お前は結婚して嫁さんとうまくいってんだもんな。まさか内気で女の子と話すことすら出来なかったお前に先越されて、しかも俺は離婚とかありえねーよな。羨ましいよ」
「ま、まぁな」
義昭は口角を上げて笑い返した。
智之のビールは既に半分以下になっている。今夜の酒代は驕りではなく、割り勘にしようと考えた。
「ルイは、俺たち留学生にとっちゃ高嶺の花だったよな。近寄りがたくて秘密主義で、Faice bookどころかあいつの連絡先すら、誰も知らなくてさ。そういうのがまたミステリアスでそそられるんだよなー。
なんだったっけな、ルイのニックネーム……えーっと。ダメだな、思い出せねぇ」
「『アイスビューティー』、だろ?」
義昭はあの頃の美しく気高かった類を思い出し、思わず背筋がゾクリと震えた。
「あぁ、それそれ! 男と思えねーぐらい美人でさ。初めて見た時、顎ぐらいまで髪の毛あったし、服もやたらシャレてたから、マジで女かと思った。
俺、一度ルイと同じテーブルで食べたことあるんだけど、めちゃめちゃいい匂いすんだよなぁ、あいつ。なんかクラクラして、俺こいつなら男でもヤレるとか思ったし、ヤバかったわ。すげー色気あるんだよなぁ。まさに『trap』だな」
「trap?」
怪訝な顔をした義昭に、智之が説明する。
「女みたいにみえる男とか女装男子とか男の娘のことをスラングで『trap』って言うんだよ。『可愛い女の子だと思ってたら実は男だったー! 罠だったー!!』って感じだろ?
ハハッ……あん時、罠に嵌らなくて良かったぜ」
豪快に笑う智之を前に、義昭は手にした枝豆をグチャッと親指と人差し指で握り潰した。
じゃあ僕は、罠にかかったってことか。
僕がルイとそっくりな美羽と結婚して、しかも美羽がルイの双子の姉だったなんて、こいつに言えるはずがない……
「お待たせしましたー」
義昭が来る前に智之が注文しておいた食べ物が次々にテーブルに並べられ、その量にぎょっとした。
「お前、頼みすぎだ。僕は自分が飲み食いした分しか払わないからな」
「おいおい、しがないフリーのカメラマン捕まえてそれはねーだろ! 金ねーのに、わざわざ電車乗り継いで来てやったんだぞ」
「お前が暇だからこっちに来るって言い出したんだろうが」
智之は義昭の目の前に置かれた焼き鳥を手にしながら、ふと思い出したように顔を上げた。
「そういや、リョウもルイの信奉者だったんだよな」
「え?」
「いや、ルイの取り巻きでもなかったし、一緒に行動したりはしてなかったけど、俺さぁ一度ふたりが会話してるの遠くから見かけたことあったんだよなぁ」
「それって、いつの話だ?」
義昭は喉を鳴らし、興奮を悟られないようグッと身を固くした。
「んなの、覚えてないけどよ。んー、お前が帰国して暫く経ってからだったかなぁ。
声までは聞こえなかったけど、ルイの話を聞いてるリョウの表情がいつもの根暗な感じと違って印象的でさ。それで、あぁこいつもルイのこと好きなのかって思ったんだよな」
「そ、そうか……」
義昭は力なく席から立ち上がった。
「ちょっと……トイレ行ってくる」
「はいはいっ、いっトイレー!」
智之は陽気に手を振ると同時に店員を呼び止めていた。
「リョウは親の海外転勤に伴って高校からアメリカに住んでた帰国子女組だったから、俺たち短期留学生とは取るプログラムも違ってたしな。
そういや、あいつとは日本人交流会で会ったんだよな。俺は日本人と群れるの好きじゃないから、あんま行かなかったけど。
ヨシは人嫌いな割には結構行ってたよなぁ?」
「あぁ……」
『日本人交流会』と聞き、嫌な汗が義昭の背中を伝い、震えが躰の内奥から湧き上がってくる。なんとか普通に振舞おうと、目の前の枝豆に手を伸ばした。
「日本人交流会って言っても、殆どの奴が男も女もルイ目当てだったよなぁ」
智之が類の話を持ち出し、義昭の緊張は限界に達し、思わず手にした枝豆を落としてしまった。
「あれっ、もしかしてヨシも、その口か?」
「ば、バカ言うな!!」
智之のからかいに慌てて大きく手を振ってから、そのリアクションの大きさに、かえって疑われるのではないかと焦りが募る。
「ハハッ、冗談だって!
お前は結婚して嫁さんとうまくいってんだもんな。まさか内気で女の子と話すことすら出来なかったお前に先越されて、しかも俺は離婚とかありえねーよな。羨ましいよ」
「ま、まぁな」
義昭は口角を上げて笑い返した。
智之のビールは既に半分以下になっている。今夜の酒代は驕りではなく、割り勘にしようと考えた。
「ルイは、俺たち留学生にとっちゃ高嶺の花だったよな。近寄りがたくて秘密主義で、Faice bookどころかあいつの連絡先すら、誰も知らなくてさ。そういうのがまたミステリアスでそそられるんだよなー。
なんだったっけな、ルイのニックネーム……えーっと。ダメだな、思い出せねぇ」
「『アイスビューティー』、だろ?」
義昭はあの頃の美しく気高かった類を思い出し、思わず背筋がゾクリと震えた。
「あぁ、それそれ! 男と思えねーぐらい美人でさ。初めて見た時、顎ぐらいまで髪の毛あったし、服もやたらシャレてたから、マジで女かと思った。
俺、一度ルイと同じテーブルで食べたことあるんだけど、めちゃめちゃいい匂いすんだよなぁ、あいつ。なんかクラクラして、俺こいつなら男でもヤレるとか思ったし、ヤバかったわ。すげー色気あるんだよなぁ。まさに『trap』だな」
「trap?」
怪訝な顔をした義昭に、智之が説明する。
「女みたいにみえる男とか女装男子とか男の娘のことをスラングで『trap』って言うんだよ。『可愛い女の子だと思ってたら実は男だったー! 罠だったー!!』って感じだろ?
ハハッ……あん時、罠に嵌らなくて良かったぜ」
豪快に笑う智之を前に、義昭は手にした枝豆をグチャッと親指と人差し指で握り潰した。
じゃあ僕は、罠にかかったってことか。
僕がルイとそっくりな美羽と結婚して、しかも美羽がルイの双子の姉だったなんて、こいつに言えるはずがない……
「お待たせしましたー」
義昭が来る前に智之が注文しておいた食べ物が次々にテーブルに並べられ、その量にぎょっとした。
「お前、頼みすぎだ。僕は自分が飲み食いした分しか払わないからな」
「おいおい、しがないフリーのカメラマン捕まえてそれはねーだろ! 金ねーのに、わざわざ電車乗り継いで来てやったんだぞ」
「お前が暇だからこっちに来るって言い出したんだろうが」
智之は義昭の目の前に置かれた焼き鳥を手にしながら、ふと思い出したように顔を上げた。
「そういや、リョウもルイの信奉者だったんだよな」
「え?」
「いや、ルイの取り巻きでもなかったし、一緒に行動したりはしてなかったけど、俺さぁ一度ふたりが会話してるの遠くから見かけたことあったんだよなぁ」
「それって、いつの話だ?」
義昭は喉を鳴らし、興奮を悟られないようグッと身を固くした。
「んなの、覚えてないけどよ。んー、お前が帰国して暫く経ってからだったかなぁ。
声までは聞こえなかったけど、ルイの話を聞いてるリョウの表情がいつもの根暗な感じと違って印象的でさ。それで、あぁこいつもルイのこと好きなのかって思ったんだよな」
「そ、そうか……」
義昭は力なく席から立ち上がった。
「ちょっと……トイレ行ってくる」
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