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132.美羽とルイへの疑い
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義昭は男子トイレに入ると洗面所へと向かい、眼鏡を置いた。蛇口を捻ってジャバジャバと勢いよく顔を洗い、濡れたままの顔を上げる。その顔は蒼白だった。
『リョウもルイの信奉者だったんだよな』
智之の言葉が頭の中でこだまのように響き渡る。
落ち、着け……
まだそうと、決まったわけじゃない。
心臓がバクバクと大きく鳴り響き、指先が震えてくる。
まさか……トモまで、ぐるってことはないよな。
そう考えて、頭を横に振った。
いや、それはないな。あいつに嘘をつくなんて器用なことは出来ない。
だったら尚更、義昭は動揺した顔を智之に見せない為にも、頭の整理をする必要があった。
先日、類が美羽の頬にキスする現場を目撃した時、義昭の脳裏にふと浮かんだ疑問。
なぁルイ……
お前と美羽って……10年も離れていた姉弟にしては、親しすぎないか?
その思いは、日を追う毎に色濃くなっていった。
類の美羽への異常なまでの優しさや気遣い、彼女を見つめる視線、仕草、言葉……全てに深い愛情が感じられる。
美羽の家事を手伝い、冷蔵庫に入れておいた食材で料理までする。
出かける時には必ず美羽に何か買ってきて、アクセサリーや服や靴で着飾らせようとする。
アメリカで義昭が出会った、『アイスビューティー』と呼ばれていた類とはまるで別人のようだ。
そして、クリスマスツリーがリビングに飾られたあの日、義昭の心を揺さぶる出来事が起こった。
帰宅してリビングに入ると、類は不自然に膝立ちになっており、美羽は少し離れた場所で震えていた。ふたりの間に、何かあったのだという明白な空気が流れていた。
その状況に動揺した義昭は、夕飯はコンビニで適当に済ませたと嘘を吐き、早々に部屋に引っ込んだのだった。
義昭に姉はいないが、これは普通の姉……ましてや10年も離れていた姉に対してする行動ではないことは分かる。
ルイは、美羽のことをひとりの女として好きなのか?
そう考えると、自分の中にあったこれまでの違和感がストンとパズルのピースが埋め込まれるように、ぴったりとはまった気がした。
おそらくルイは美羽のことがずっと好きで、美羽はそんな彼の気持ちに気づいていたのかもしれない。いや、もしかしたらルイは美羽に告白し、当然それを受け入れられるはずがない彼女に拒絶された過去があるのかもしれない。
そして高校生になり、両親の離婚によりルイは父親と共に渡米し、ふたりは会うことはなかった。
美羽は、ルイに会いたくなかったに違いない。
美羽が父親の葬儀に行くのを躊躇っていたのは、そこに弟であるルイがいるのを知っていたからだったんだ。
ルイの家に泊まることを拒絶したり、彼のことを心配しながらも、同居をあれほど嫌がった美羽のいつもとは違うおかしな態度も全て納得できる。
そうか。
美羽はルイがまた自分に恋心を持ち、苦しむことがないようにと姉として不安に思いながら心配しているのか。
ルイがどんな相手にも興味を持たなかったのは、彼の心にずっと美羽がいたから、なのか?
大学で誰に誘われても冷たくあしらっていた類が、美羽と再会した時にはしがみつくように抱きついていたことを思い出した。
10年も離れていたのに……双子の姉である美羽を愛し続けていたというのか、ルイ?
そうなると、美羽の夫である自分のことを類がどう思っているのか、気になって仕方ない。
ルイは僕のことを、愛する姉を奪った憎き男だと思っているのだろうか。
再会した当初は、そんな様子は微塵も感じられなかった。笑顔で義昭を美羽の夫として受け入れてくれたように見えた。
ルイが僕を知っていたから、受け入れてもらえたのか?
だが、友人ならまだしも、留学中に言葉すら交わしていない知り合い以下のような存在の自分に対してそんな風に思えるだろうか。
正直、類と再会した時、彼が6年も前に会った短期留学生である自分のことを覚えていたことに驚いた。類は高嶺の花よりももっと遠い、雲の上のような存在で、決して手が届くことがない、目に留まることすらないと思っていたからだ。
そんな類と会話し、酒を酌み交わし、ひとつ屋根の下で生活するなんて、あの頃は想像すら出来なかった。そんな状況に浮かれ、幸せな気分だった。
だが、それも少しずつ変化してきている。類は明らかに美羽を特別扱いし、義昭を疎んでいるように感じることがたびたびあった。
類と再会してから、義昭がずっと考え続けていたことがある。
ルイは、僕の思いに気づいているのだろうか。
留学中、言葉を交わしたことのない義昭は、もちろんその想いを類に打ち明けることはなかった。
だが、類を知っていた上で美羽と付き合って結婚したという事実そのものが、類に告白したも同然なのではないかと思えた。
それは、自分だけではない。美羽も同じように感じたため、日本に帰る機内で問い詰められたのだ。
『義昭さん……私と初めて出会った時、類に似てるって思った?』
あの時は、肝が冷える思いがした。
美羽に会った時にはルイのことを忘れていたなんて、嘘だ。だって僕は、ルイに良く似ているという女性を見たいがために、美羽の働くカフェに行ったのだから。
『リョウもルイの信奉者だったんだよな』
智之の言葉が頭の中でこだまのように響き渡る。
落ち、着け……
まだそうと、決まったわけじゃない。
心臓がバクバクと大きく鳴り響き、指先が震えてくる。
まさか……トモまで、ぐるってことはないよな。
そう考えて、頭を横に振った。
いや、それはないな。あいつに嘘をつくなんて器用なことは出来ない。
だったら尚更、義昭は動揺した顔を智之に見せない為にも、頭の整理をする必要があった。
先日、類が美羽の頬にキスする現場を目撃した時、義昭の脳裏にふと浮かんだ疑問。
なぁルイ……
お前と美羽って……10年も離れていた姉弟にしては、親しすぎないか?
その思いは、日を追う毎に色濃くなっていった。
類の美羽への異常なまでの優しさや気遣い、彼女を見つめる視線、仕草、言葉……全てに深い愛情が感じられる。
美羽の家事を手伝い、冷蔵庫に入れておいた食材で料理までする。
出かける時には必ず美羽に何か買ってきて、アクセサリーや服や靴で着飾らせようとする。
アメリカで義昭が出会った、『アイスビューティー』と呼ばれていた類とはまるで別人のようだ。
そして、クリスマスツリーがリビングに飾られたあの日、義昭の心を揺さぶる出来事が起こった。
帰宅してリビングに入ると、類は不自然に膝立ちになっており、美羽は少し離れた場所で震えていた。ふたりの間に、何かあったのだという明白な空気が流れていた。
その状況に動揺した義昭は、夕飯はコンビニで適当に済ませたと嘘を吐き、早々に部屋に引っ込んだのだった。
義昭に姉はいないが、これは普通の姉……ましてや10年も離れていた姉に対してする行動ではないことは分かる。
ルイは、美羽のことをひとりの女として好きなのか?
そう考えると、自分の中にあったこれまでの違和感がストンとパズルのピースが埋め込まれるように、ぴったりとはまった気がした。
おそらくルイは美羽のことがずっと好きで、美羽はそんな彼の気持ちに気づいていたのかもしれない。いや、もしかしたらルイは美羽に告白し、当然それを受け入れられるはずがない彼女に拒絶された過去があるのかもしれない。
そして高校生になり、両親の離婚によりルイは父親と共に渡米し、ふたりは会うことはなかった。
美羽は、ルイに会いたくなかったに違いない。
美羽が父親の葬儀に行くのを躊躇っていたのは、そこに弟であるルイがいるのを知っていたからだったんだ。
ルイの家に泊まることを拒絶したり、彼のことを心配しながらも、同居をあれほど嫌がった美羽のいつもとは違うおかしな態度も全て納得できる。
そうか。
美羽はルイがまた自分に恋心を持ち、苦しむことがないようにと姉として不安に思いながら心配しているのか。
ルイがどんな相手にも興味を持たなかったのは、彼の心にずっと美羽がいたから、なのか?
大学で誰に誘われても冷たくあしらっていた類が、美羽と再会した時にはしがみつくように抱きついていたことを思い出した。
10年も離れていたのに……双子の姉である美羽を愛し続けていたというのか、ルイ?
そうなると、美羽の夫である自分のことを類がどう思っているのか、気になって仕方ない。
ルイは僕のことを、愛する姉を奪った憎き男だと思っているのだろうか。
再会した当初は、そんな様子は微塵も感じられなかった。笑顔で義昭を美羽の夫として受け入れてくれたように見えた。
ルイが僕を知っていたから、受け入れてもらえたのか?
だが、友人ならまだしも、留学中に言葉すら交わしていない知り合い以下のような存在の自分に対してそんな風に思えるだろうか。
正直、類と再会した時、彼が6年も前に会った短期留学生である自分のことを覚えていたことに驚いた。類は高嶺の花よりももっと遠い、雲の上のような存在で、決して手が届くことがない、目に留まることすらないと思っていたからだ。
そんな類と会話し、酒を酌み交わし、ひとつ屋根の下で生活するなんて、あの頃は想像すら出来なかった。そんな状況に浮かれ、幸せな気分だった。
だが、それも少しずつ変化してきている。類は明らかに美羽を特別扱いし、義昭を疎んでいるように感じることがたびたびあった。
類と再会してから、義昭がずっと考え続けていたことがある。
ルイは、僕の思いに気づいているのだろうか。
留学中、言葉を交わしたことのない義昭は、もちろんその想いを類に打ち明けることはなかった。
だが、類を知っていた上で美羽と付き合って結婚したという事実そのものが、類に告白したも同然なのではないかと思えた。
それは、自分だけではない。美羽も同じように感じたため、日本に帰る機内で問い詰められたのだ。
『義昭さん……私と初めて出会った時、類に似てるって思った?』
あの時は、肝が冷える思いがした。
美羽に会った時にはルイのことを忘れていたなんて、嘘だ。だって僕は、ルイに良く似ているという女性を見たいがために、美羽の働くカフェに行ったのだから。
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