141 / 498
136.ふたりきりの聖夜
しおりを挟む
※「129」からの義昭sideと同時系列になります。
仕事帰りの電車。いつもより人が少ないのは、クリスマスイブだからなのだろう。電車に乗っている人たちも、心なしか浮き足立っているように感じる。
美羽の働くカフェでは、23日から25日までの3日間はクリスマスメニューのみとなっていて、ランチもディナーも完全予約制だ。『Lieu de detente 』のクリスマスメニューは毎年好評で、人気は年を追うごとに増していて、今年の予約は二ヶ月前にランチすら満席となっていた。
ゆっくりと食事をとってもらえるよう、ランチもディナーも時間制で区切っていない。満席とはいえ客が入れ替わることなく、メニューも決まっている為、接客する美羽にとってはいつもの営業よりも楽だった。ディナーを囲んで幸せそうなカップルや家族を見ていると、こちらまで幸せな気分になる。
嬉しそうなのは客だけではなかった。浩平は仕事が終わったら地元の友達と集まってクリスマスパーティーをすると話していたし、芳子の代わりにランチから出勤した萌は彼氏の家にお泊まりするのだと嬉しそうにしていた。芳子は家族と楽しいクリスマスを過ごしていることだろう。明日は、萌の代わりに1日出勤することになっている。
そんな中、香織はひとりで映画鑑賞会をすると話していた。やはり藤岡は、クリスマスイブは家族と過ごすらしい。隼斗は明日の仕込みのため、ひとり厨房で黙々と作業をしていることだろう。
それぞれのクリスマス。
美羽はここ数年、ツリーを飾ることも、クリスマスらしい食事をすることも、プレゼントを渡すこともなかった。
けれど、今年は類がいる。
どんなクリスマスイブになるんだろう……
鼓動がトクンと跳ねた。
類から何かメッセージが入っているかもしれない、と気になって、美羽はバッグからスマホを取り出した。スマホを開くと、LINEではなく、メールが入っていた。
あれっ、義昭さんからだ。
『今夜は飲みに行くから遅くなる』
いつもなら前もって予定を入れ、当日の朝にも伝える義昭が、突然飲みに行く予定を入れることは珍しい。
接待が急に入ったの?
それとも、まさか類とふたりで出かけるわけじゃないよね……
けれど、類からは何の連絡も入っていない。
類と、ふたりきり……なんだ。
そう考えると、胸の鼓動が落ち着かなくなる。
類とふたりきりなんて、ひとつ屋根の下で暮らしているのだからよくあることだ。けれどそこには、いつ帰ってくるか分からない夫の存在が常に付き纏う。どれだけ類に気持ちが流されそうになっても食い止めていられるのは、そこで理性のブレーキがかかるからだ。
クリスマスイブという特別な夜にふたりきりというのも、余計に意識してしまう。
私は人妻で、類は弟。
どれだけ好きになろうと、ふたりだけの世界で欲情を交わらせようと、現実には起こりえないことなんだから。
美羽は、浮かれてしまいそうな自分に言い聞かせた。
玄関に着いた時にはもう、美羽の鼓動は爆発しそうなほどになっていた。いつもより早くカフェが終わったので、類には駅に着いた時点でLINEからもうすぐ帰ることを伝えてある。けれど、彼から返信は来ていなかった。
意識しない。意識しちゃダメ……
呪文のように心の中で唱えながら、類がまだ帰っていないことを祈りつつ、そっと扉を開けた。
パンパーン!!
突然大きな爆破音に出迎えられ、美羽は短く「キャッ!」と叫び声をあげた。
「メリークリスマース!!」
「る、類……」
クラッカーを手にした類を目の前に、美羽は唖然と口を開いた。
「フフッ、ビックリしたぁ?」
無邪気に笑う類に、美羽の頬が緩む。
「び、びっくり……した。フフッ、フフフッ……もう、類ってば」
幼い頃から美羽を驚かすのが好きだった類を思い出し、不安に思っていたことも、ビックリさせられたことも吹き飛んで、一緒に笑っていた。どうしたって、類を愛おしく感じてしまう。
仕事帰りの電車。いつもより人が少ないのは、クリスマスイブだからなのだろう。電車に乗っている人たちも、心なしか浮き足立っているように感じる。
美羽の働くカフェでは、23日から25日までの3日間はクリスマスメニューのみとなっていて、ランチもディナーも完全予約制だ。『Lieu de detente 』のクリスマスメニューは毎年好評で、人気は年を追うごとに増していて、今年の予約は二ヶ月前にランチすら満席となっていた。
ゆっくりと食事をとってもらえるよう、ランチもディナーも時間制で区切っていない。満席とはいえ客が入れ替わることなく、メニューも決まっている為、接客する美羽にとってはいつもの営業よりも楽だった。ディナーを囲んで幸せそうなカップルや家族を見ていると、こちらまで幸せな気分になる。
嬉しそうなのは客だけではなかった。浩平は仕事が終わったら地元の友達と集まってクリスマスパーティーをすると話していたし、芳子の代わりにランチから出勤した萌は彼氏の家にお泊まりするのだと嬉しそうにしていた。芳子は家族と楽しいクリスマスを過ごしていることだろう。明日は、萌の代わりに1日出勤することになっている。
そんな中、香織はひとりで映画鑑賞会をすると話していた。やはり藤岡は、クリスマスイブは家族と過ごすらしい。隼斗は明日の仕込みのため、ひとり厨房で黙々と作業をしていることだろう。
それぞれのクリスマス。
美羽はここ数年、ツリーを飾ることも、クリスマスらしい食事をすることも、プレゼントを渡すこともなかった。
けれど、今年は類がいる。
どんなクリスマスイブになるんだろう……
鼓動がトクンと跳ねた。
類から何かメッセージが入っているかもしれない、と気になって、美羽はバッグからスマホを取り出した。スマホを開くと、LINEではなく、メールが入っていた。
あれっ、義昭さんからだ。
『今夜は飲みに行くから遅くなる』
いつもなら前もって予定を入れ、当日の朝にも伝える義昭が、突然飲みに行く予定を入れることは珍しい。
接待が急に入ったの?
それとも、まさか類とふたりで出かけるわけじゃないよね……
けれど、類からは何の連絡も入っていない。
類と、ふたりきり……なんだ。
そう考えると、胸の鼓動が落ち着かなくなる。
類とふたりきりなんて、ひとつ屋根の下で暮らしているのだからよくあることだ。けれどそこには、いつ帰ってくるか分からない夫の存在が常に付き纏う。どれだけ類に気持ちが流されそうになっても食い止めていられるのは、そこで理性のブレーキがかかるからだ。
クリスマスイブという特別な夜にふたりきりというのも、余計に意識してしまう。
私は人妻で、類は弟。
どれだけ好きになろうと、ふたりだけの世界で欲情を交わらせようと、現実には起こりえないことなんだから。
美羽は、浮かれてしまいそうな自分に言い聞かせた。
玄関に着いた時にはもう、美羽の鼓動は爆発しそうなほどになっていた。いつもより早くカフェが終わったので、類には駅に着いた時点でLINEからもうすぐ帰ることを伝えてある。けれど、彼から返信は来ていなかった。
意識しない。意識しちゃダメ……
呪文のように心の中で唱えながら、類がまだ帰っていないことを祈りつつ、そっと扉を開けた。
パンパーン!!
突然大きな爆破音に出迎えられ、美羽は短く「キャッ!」と叫び声をあげた。
「メリークリスマース!!」
「る、類……」
クラッカーを手にした類を目の前に、美羽は唖然と口を開いた。
「フフッ、ビックリしたぁ?」
無邪気に笑う類に、美羽の頬が緩む。
「び、びっくり……した。フフッ、フフフッ……もう、類ってば」
幼い頃から美羽を驚かすのが好きだった類を思い出し、不安に思っていたことも、ビックリさせられたことも吹き飛んで、一緒に笑っていた。どうしたって、類を愛おしく感じてしまう。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる