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136.ふたりきりの聖夜
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※「129」からの義昭sideと同時系列になります。
仕事帰りの電車。いつもより人が少ないのは、クリスマスイブだからなのだろう。電車に乗っている人たちも、心なしか浮き足立っているように感じる。
美羽の働くカフェでは、23日から25日までの3日間はクリスマスメニューのみとなっていて、ランチもディナーも完全予約制だ。『Lieu de detente 』のクリスマスメニューは毎年好評で、人気は年を追うごとに増していて、今年の予約は二ヶ月前にランチすら満席となっていた。
ゆっくりと食事をとってもらえるよう、ランチもディナーも時間制で区切っていない。満席とはいえ客が入れ替わることなく、メニューも決まっている為、接客する美羽にとってはいつもの営業よりも楽だった。ディナーを囲んで幸せそうなカップルや家族を見ていると、こちらまで幸せな気分になる。
嬉しそうなのは客だけではなかった。浩平は仕事が終わったら地元の友達と集まってクリスマスパーティーをすると話していたし、芳子の代わりにランチから出勤した萌は彼氏の家にお泊まりするのだと嬉しそうにしていた。芳子は家族と楽しいクリスマスを過ごしていることだろう。明日は、萌の代わりに1日出勤することになっている。
そんな中、香織はひとりで映画鑑賞会をすると話していた。やはり藤岡は、クリスマスイブは家族と過ごすらしい。隼斗は明日の仕込みのため、ひとり厨房で黙々と作業をしていることだろう。
それぞれのクリスマス。
美羽はここ数年、ツリーを飾ることも、クリスマスらしい食事をすることも、プレゼントを渡すこともなかった。
けれど、今年は類がいる。
どんなクリスマスイブになるんだろう……
鼓動がトクンと跳ねた。
類から何かメッセージが入っているかもしれない、と気になって、美羽はバッグからスマホを取り出した。スマホを開くと、LINEではなく、メールが入っていた。
あれっ、義昭さんからだ。
『今夜は飲みに行くから遅くなる』
いつもなら前もって予定を入れ、当日の朝にも伝える義昭が、突然飲みに行く予定を入れることは珍しい。
接待が急に入ったの?
それとも、まさか類とふたりで出かけるわけじゃないよね……
けれど、類からは何の連絡も入っていない。
類と、ふたりきり……なんだ。
そう考えると、胸の鼓動が落ち着かなくなる。
類とふたりきりなんて、ひとつ屋根の下で暮らしているのだからよくあることだ。けれどそこには、いつ帰ってくるか分からない夫の存在が常に付き纏う。どれだけ類に気持ちが流されそうになっても食い止めていられるのは、そこで理性のブレーキがかかるからだ。
クリスマスイブという特別な夜にふたりきりというのも、余計に意識してしまう。
私は人妻で、類は弟。
どれだけ好きになろうと、ふたりだけの世界で欲情を交わらせようと、現実には起こりえないことなんだから。
美羽は、浮かれてしまいそうな自分に言い聞かせた。
玄関に着いた時にはもう、美羽の鼓動は爆発しそうなほどになっていた。いつもより早くカフェが終わったので、類には駅に着いた時点でLINEからもうすぐ帰ることを伝えてある。けれど、彼から返信は来ていなかった。
意識しない。意識しちゃダメ……
呪文のように心の中で唱えながら、類がまだ帰っていないことを祈りつつ、そっと扉を開けた。
パンパーン!!
突然大きな爆破音に出迎えられ、美羽は短く「キャッ!」と叫び声をあげた。
「メリークリスマース!!」
「る、類……」
クラッカーを手にした類を目の前に、美羽は唖然と口を開いた。
「フフッ、ビックリしたぁ?」
無邪気に笑う類に、美羽の頬が緩む。
「び、びっくり……した。フフッ、フフフッ……もう、類ってば」
幼い頃から美羽を驚かすのが好きだった類を思い出し、不安に思っていたことも、ビックリさせられたことも吹き飛んで、一緒に笑っていた。どうしたって、類を愛おしく感じてしまう。
仕事帰りの電車。いつもより人が少ないのは、クリスマスイブだからなのだろう。電車に乗っている人たちも、心なしか浮き足立っているように感じる。
美羽の働くカフェでは、23日から25日までの3日間はクリスマスメニューのみとなっていて、ランチもディナーも完全予約制だ。『Lieu de detente 』のクリスマスメニューは毎年好評で、人気は年を追うごとに増していて、今年の予約は二ヶ月前にランチすら満席となっていた。
ゆっくりと食事をとってもらえるよう、ランチもディナーも時間制で区切っていない。満席とはいえ客が入れ替わることなく、メニューも決まっている為、接客する美羽にとってはいつもの営業よりも楽だった。ディナーを囲んで幸せそうなカップルや家族を見ていると、こちらまで幸せな気分になる。
嬉しそうなのは客だけではなかった。浩平は仕事が終わったら地元の友達と集まってクリスマスパーティーをすると話していたし、芳子の代わりにランチから出勤した萌は彼氏の家にお泊まりするのだと嬉しそうにしていた。芳子は家族と楽しいクリスマスを過ごしていることだろう。明日は、萌の代わりに1日出勤することになっている。
そんな中、香織はひとりで映画鑑賞会をすると話していた。やはり藤岡は、クリスマスイブは家族と過ごすらしい。隼斗は明日の仕込みのため、ひとり厨房で黙々と作業をしていることだろう。
それぞれのクリスマス。
美羽はここ数年、ツリーを飾ることも、クリスマスらしい食事をすることも、プレゼントを渡すこともなかった。
けれど、今年は類がいる。
どんなクリスマスイブになるんだろう……
鼓動がトクンと跳ねた。
類から何かメッセージが入っているかもしれない、と気になって、美羽はバッグからスマホを取り出した。スマホを開くと、LINEではなく、メールが入っていた。
あれっ、義昭さんからだ。
『今夜は飲みに行くから遅くなる』
いつもなら前もって予定を入れ、当日の朝にも伝える義昭が、突然飲みに行く予定を入れることは珍しい。
接待が急に入ったの?
それとも、まさか類とふたりで出かけるわけじゃないよね……
けれど、類からは何の連絡も入っていない。
類と、ふたりきり……なんだ。
そう考えると、胸の鼓動が落ち着かなくなる。
類とふたりきりなんて、ひとつ屋根の下で暮らしているのだからよくあることだ。けれどそこには、いつ帰ってくるか分からない夫の存在が常に付き纏う。どれだけ類に気持ちが流されそうになっても食い止めていられるのは、そこで理性のブレーキがかかるからだ。
クリスマスイブという特別な夜にふたりきりというのも、余計に意識してしまう。
私は人妻で、類は弟。
どれだけ好きになろうと、ふたりだけの世界で欲情を交わらせようと、現実には起こりえないことなんだから。
美羽は、浮かれてしまいそうな自分に言い聞かせた。
玄関に着いた時にはもう、美羽の鼓動は爆発しそうなほどになっていた。いつもより早くカフェが終わったので、類には駅に着いた時点でLINEからもうすぐ帰ることを伝えてある。けれど、彼から返信は来ていなかった。
意識しない。意識しちゃダメ……
呪文のように心の中で唱えながら、類がまだ帰っていないことを祈りつつ、そっと扉を開けた。
パンパーン!!
突然大きな爆破音に出迎えられ、美羽は短く「キャッ!」と叫び声をあげた。
「メリークリスマース!!」
「る、類……」
クラッカーを手にした類を目の前に、美羽は唖然と口を開いた。
「フフッ、ビックリしたぁ?」
無邪気に笑う類に、美羽の頬が緩む。
「び、びっくり……した。フフッ、フフフッ……もう、類ってば」
幼い頃から美羽を驚かすのが好きだった類を思い出し、不安に思っていたことも、ビックリさせられたことも吹き飛んで、一緒に笑っていた。どうしたって、類を愛おしく感じてしまう。
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