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157.落ちていく意識

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 ダメ、眠れない……水を飲みに行こう。

 美羽は静かに躰を起こした。

「……んっ、美羽ぅ? 眠れないのぉ?」

 寝惚けたような香織の声が背中から掛けられ、美羽は後ろを振り向き、肩を竦めた。

「ごめ、かおりん。起こしちゃって……水、飲みに行くね」

 美羽が立ち上がると、香織も上半身を起こした。

「色々考えて眠れないんでしょ。私もさ、時々あるんだよね……」

 寂しげに微笑む香織に、先ほど会った藤岡の顔が浮かんだ。いくら言いたいことが言えているように見えても、やはり不倫の仲だ。香織は今までにきっと、藤岡のことを考えて眠れない夜を幾つも過ごしてきたのだろう。

 香織がベッドの下に手を伸ばし、救急箱を手に取った。

「これ、飲んでみる? 睡眠導入剤。飲んだらすぐに眠くなるし、そんなにきつくないから体に負担もそれほどないよ」

 渡された錠剤を、美羽は受け取った。

「ありがとう。飲んでみるね」

 今は何も考えず、ただ眠りたい……

 キッチンでグラスに水を汲み、睡眠導入剤を喉に流し込んでからベッドに戻ると、香織は先ほど交わした会話が寝言だったのではと思うほど、すやすやと寝ていた。再び起こしてしまわないように慎重に足を滑らせ、音を立てないようにベッドに潜り込む。

 体重を預けた途端、既に瞼が重くなってきた。さすが、香織が『即効性がある』と言っていただけある。

 眠気に抵抗するつもりなどないし、眠りたいと思っているが、無理やり上瞼を何かの圧力で押さえつけられているような違和感を覚える。眠くて仕方ない朝、起きようと心の中で思っていても、瞼がなかなか開けられない状態に似ていた。

 四肢がベッドに張り付けられたかのようになったまま、重く沈んでいく。意識が遠退いていく。

 あぁ、眠れる……
 
 訪れた微睡みの中に身を委ねる。



 深く、深く、沈んでいく……



 美羽は、導かれるまま意識を手放した。
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