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159.入院
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『おはようございまーす!』
ふたりして声を合わせて裏口から控え室へと入ると、隼斗が深刻そうな表情で電話をしていた。
香織と美羽は途端に口を閉じ、何があったのだろうと訝しげな表情で隼斗の声と通話先の相手の声に耳を集中する。
「……そうか、分かった。こちらのことは、心配しなくていいから」
受話器の相手の会話までは聞き取れないが、聞き覚えのある甲高い女の声だった。
これって、よっしーの声だよね。何かあったのかな……
美羽の胸に不安が広がっていく。香織も心配そうな表情で見つめていた。
「あぁ、美羽と香織さんは今来たところだ。これから、萌さんに連絡してみる。
また、そちらの状況がわかり次第、連絡頼む」
通話を切り、肩から息を吐き出す隼斗を、美羽がおそるおそる覗き込んだ。
「隼斗兄さん……今の、よっしーだよね?」
「あぁ」
「よっしーに何かあったの?」
香織も被せるように尋ねた。
隼斗は少し睫毛を伏せてから、ふたりの顔を見た。
「実は昨夜、自宅に帰ってから大量に出血したらしく……切迫流産の危険があるから、緊急入院することになったそうだ。もしかしたら、出産まで入院することになるかもしれない」
『えぇっっ!!』
美羽と香織は同時に声を上げ、蒼白になった。
昨日、芳子は誰よりも張り切って働いていて、妊娠中の辛さなど微塵も感じさせなかった。そんな彼女が緊急入院など、とても信じられなかった。
「わた、しが……もっとよっしーを労ってあげてたら。よっしー、昨日搬入した重い荷物とかも持ち上げてたし」
「私だって……やったことないからやらせてって言われて、店締めの際のモップ掛け、よっしーにやらせてた」
自分たちを責める美羽と香織に、隼斗が息を吐く。
「済んだことをあれこれ言っても仕方ない。芳子さん本人だって、予想外のことだったんだ。無事に出産まで過ごせるよう、祈るしかない。
俺たちは、芳子さんの分まで仕事を頑張るだけだ」
ぶっきらぼうだけれど力強い隼斗の言葉に、ふたりして頷く。どんな優しい言葉より、美羽にとっては何より励まされた。
「じゃ、萌さんに電話かけてみる」
隼斗がスマホを再び持ち上げたところへ、浩平が扉をバーンと勢いよく開けた。
「すんませーん、遅刻しましたぁ!!」
事情を聞いた浩平は、大きく目を見開いた。
「えぇっ、よっしーが入院!? マジでそれ、ヤバくないっすか!!」
先ほどまで二日酔いで辛そうだったが、一気に酔いが覚めたようだ。
「それでね、穴を埋めるために萌たんにこれから電話しようとしてたとこだったの」
「ぇ。でも、今日のシフトって萌たんが休みとりたかったからよっしーと交代したんじゃなかったでしたっけ? 絶対出てくれなさそうだなー。だって、クリスマスっすよ。『彼氏と過ごすんだーっ!』って、萌たんめっちゃウキウキしてましたもん。無理っすよー」
香織が眉を顰め、ポコッと軽く浩平を叩く。
「とりあえず、聞いてみないと分かんないでしょ!」
そこで隼斗が萌に電話したが、通じない。美羽もLINEでメッセージを送ったが、既読にすらならなかった。
「あぁー、やっぱりぃ!! てか、今日のシフト4人ってヤバくないっすか? だって、今日は美羽さんが接客しながらたまに厨房もヘルプして、ぎりぎり5人で回すって話だったのに。これ相当しんどいっすよー」
頭を抱えた浩平を、隼斗がギロッと睨みつけた。
「回すしかないんだ。喋ってる暇があったら、さっさと店開ける準備しろ!」
「は、はいぃぃ!!」
浩平は慌ててジャケットを脱いでロッカーのハンガーに掛けた。
「じゃ、私たちも」
「うん」
コートを美羽が脱いでいると、浩平が「あれっ?」と声を上げた。
「そのコート、かおりんのじゃないっすか? なんで美羽さんが着てるんすか?」
ギクッと美羽は肩を震わせた。隼斗はファッションに無頓着だし、人の着ているものなど覚えてもいないだろうが、おしゃれに関心のある浩平は意外と細かいところまでよく見ている。
「あ、あの……これは……」
「美羽がね、私のコート可愛いって言うから、前に貸してあげたの。ね?」
「うん……」
美羽が昨夜香織の家に泊まったことを話していたら、どうしてクリスマスイブにわざわざ泊まるのかと浩平に不審がられたことだろう。香織が気をきかせてくれ、助かった。
「ほら、余計なこと喋ってないでさっさと行け」
隼斗に急かされ、浩平が出て行く。香織と美羽も続いて出ようとしたが、隼斗に引き留められた。
「今日は、美羽はずっと接客の方についててくれ」
「え。でもそれじゃ厨房が大変なんじゃ」
「こっちは、なんとかするから」
「うん……」
いくら今日は完全予約制でいつもより人数が把握できている分回しやすいとはいえ、コース料理をどんどん出さなくてはならないので、調理だけで目一杯だろう。美羽がいなければ厨房が大変になるであろうことは容易に予想がついたが、だからと言って接客を香織ひとりに任せることも出来ないので、頷くしかなかった。
ふたりして声を合わせて裏口から控え室へと入ると、隼斗が深刻そうな表情で電話をしていた。
香織と美羽は途端に口を閉じ、何があったのだろうと訝しげな表情で隼斗の声と通話先の相手の声に耳を集中する。
「……そうか、分かった。こちらのことは、心配しなくていいから」
受話器の相手の会話までは聞き取れないが、聞き覚えのある甲高い女の声だった。
これって、よっしーの声だよね。何かあったのかな……
美羽の胸に不安が広がっていく。香織も心配そうな表情で見つめていた。
「あぁ、美羽と香織さんは今来たところだ。これから、萌さんに連絡してみる。
また、そちらの状況がわかり次第、連絡頼む」
通話を切り、肩から息を吐き出す隼斗を、美羽がおそるおそる覗き込んだ。
「隼斗兄さん……今の、よっしーだよね?」
「あぁ」
「よっしーに何かあったの?」
香織も被せるように尋ねた。
隼斗は少し睫毛を伏せてから、ふたりの顔を見た。
「実は昨夜、自宅に帰ってから大量に出血したらしく……切迫流産の危険があるから、緊急入院することになったそうだ。もしかしたら、出産まで入院することになるかもしれない」
『えぇっっ!!』
美羽と香織は同時に声を上げ、蒼白になった。
昨日、芳子は誰よりも張り切って働いていて、妊娠中の辛さなど微塵も感じさせなかった。そんな彼女が緊急入院など、とても信じられなかった。
「わた、しが……もっとよっしーを労ってあげてたら。よっしー、昨日搬入した重い荷物とかも持ち上げてたし」
「私だって……やったことないからやらせてって言われて、店締めの際のモップ掛け、よっしーにやらせてた」
自分たちを責める美羽と香織に、隼斗が息を吐く。
「済んだことをあれこれ言っても仕方ない。芳子さん本人だって、予想外のことだったんだ。無事に出産まで過ごせるよう、祈るしかない。
俺たちは、芳子さんの分まで仕事を頑張るだけだ」
ぶっきらぼうだけれど力強い隼斗の言葉に、ふたりして頷く。どんな優しい言葉より、美羽にとっては何より励まされた。
「じゃ、萌さんに電話かけてみる」
隼斗がスマホを再び持ち上げたところへ、浩平が扉をバーンと勢いよく開けた。
「すんませーん、遅刻しましたぁ!!」
事情を聞いた浩平は、大きく目を見開いた。
「えぇっ、よっしーが入院!? マジでそれ、ヤバくないっすか!!」
先ほどまで二日酔いで辛そうだったが、一気に酔いが覚めたようだ。
「それでね、穴を埋めるために萌たんにこれから電話しようとしてたとこだったの」
「ぇ。でも、今日のシフトって萌たんが休みとりたかったからよっしーと交代したんじゃなかったでしたっけ? 絶対出てくれなさそうだなー。だって、クリスマスっすよ。『彼氏と過ごすんだーっ!』って、萌たんめっちゃウキウキしてましたもん。無理っすよー」
香織が眉を顰め、ポコッと軽く浩平を叩く。
「とりあえず、聞いてみないと分かんないでしょ!」
そこで隼斗が萌に電話したが、通じない。美羽もLINEでメッセージを送ったが、既読にすらならなかった。
「あぁー、やっぱりぃ!! てか、今日のシフト4人ってヤバくないっすか? だって、今日は美羽さんが接客しながらたまに厨房もヘルプして、ぎりぎり5人で回すって話だったのに。これ相当しんどいっすよー」
頭を抱えた浩平を、隼斗がギロッと睨みつけた。
「回すしかないんだ。喋ってる暇があったら、さっさと店開ける準備しろ!」
「は、はいぃぃ!!」
浩平は慌ててジャケットを脱いでロッカーのハンガーに掛けた。
「じゃ、私たちも」
「うん」
コートを美羽が脱いでいると、浩平が「あれっ?」と声を上げた。
「そのコート、かおりんのじゃないっすか? なんで美羽さんが着てるんすか?」
ギクッと美羽は肩を震わせた。隼斗はファッションに無頓着だし、人の着ているものなど覚えてもいないだろうが、おしゃれに関心のある浩平は意外と細かいところまでよく見ている。
「あ、あの……これは……」
「美羽がね、私のコート可愛いって言うから、前に貸してあげたの。ね?」
「うん……」
美羽が昨夜香織の家に泊まったことを話していたら、どうしてクリスマスイブにわざわざ泊まるのかと浩平に不審がられたことだろう。香織が気をきかせてくれ、助かった。
「ほら、余計なこと喋ってないでさっさと行け」
隼斗に急かされ、浩平が出て行く。香織と美羽も続いて出ようとしたが、隼斗に引き留められた。
「今日は、美羽はずっと接客の方についててくれ」
「え。でもそれじゃ厨房が大変なんじゃ」
「こっちは、なんとかするから」
「うん……」
いくら今日は完全予約制でいつもより人数が把握できている分回しやすいとはいえ、コース料理をどんどん出さなくてはならないので、調理だけで目一杯だろう。美羽がいなければ厨房が大変になるであろうことは容易に予想がついたが、だからと言って接客を香織ひとりに任せることも出来ないので、頷くしかなかった。
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