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173.南京錠
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「ミュー、せっかくヨシがケーキ買ってきてくれたのに全然食べてないじゃん! 絶対ミューの好きな味だよ、食べてみて♪」
類が美羽のケーキをフォークで切り分け、口元に持っていく。
「ほら、あーん」
「る、類っっ……自分で、食べられるからっっ」
焦って身を退けると、類は「そぉ?」と言って、フォークを口にパクリと含んだ。真っ赤に濡れた唇が艶めかしく、思わず背筋がゾクリと震える。
「ハハッ。類はほんとに美羽のことが好きだよな」
義昭の言葉に美羽の心臓が凍りつく。
やっぱり義昭さんは、私たちの関係に気づいているの!?
「うん、大好き♪
10年も離れてた分、甘えたいし、甘えさせたいんだよねー。ね、お姉ちゃん?」
心臓が狂ったメトロノームのように騒めいている。
義昭さんは、本当に私たちに何の疑いも抱いてないの?
この発言は、純粋なものなの?
いったい私は、誰を信じればいいの……
美羽は到底類に頷くことなど出来ず、フォークで切り分けたケーキを口に運んだ。
「ね、ミュー。めちゃめちゃ美味しいでしょ?」
「う、うん……そう、だね」
甘いはずのショコラが、苦みとなって美羽の口の中に広がっていった。
ケーキを食べ終え、義昭は先に休むと言って自室に戻っていった。いつもの義昭なら食べたら食べっぱなしで皿は放置しておくのに、今日は皿やティーカップをシンクまで運んでくれていた。
「はい。これでテーブルのは全部運んだよ」
洗い物をしている美羽の元に、類が残りの皿とティーカップを持ってきた。
「ありがとう。類も、もう休んでいいよ。今日は慣れないことして疲れたでしょ?」
類に気遣う素ぶりを見せながら、美羽はなるべく類と離れ、ひとりになりたかった。
だが、そんな美羽の気持ちに気づいていないのか、気づいていながらなのか、類はにっこりと微笑んで隣に立った。
「大丈夫。じゃ、ミューが洗ったものを僕が流していくから。そしたら、早く終わるでしょ?」
「うん……ありが、とう」
類は、優しい……
いつも私を気遣って、甘やかしてくれる。
けれど、それだけじゃない。
彼の中にいる悪魔が、私を常に脅かす。
類が最後の皿を受け取り、ジャージャーと勢いよく流していく。皿を水切りかごにいれ、蛇口をキュッと閉めた。
「はい、終わり♪」
「ありがとう」
類はタオルで手を拭き取ると、「ミュー、背中向いて」と言いながら、両肩を掴んでくるりと後ろに向けさせた。
「ぇ。なに……?」
「いいから、いいから♪」
一つに纏めていた髪が右側にずらされ、その感触にゾワゾワしていると、冷たい金属が鎖骨に触れた。後ろでカチッと何かが嵌る音が響く。
するすると下りてきた先を見下ろすと、プラチナ製のチェーンのネックレスの先に小さなハートのペンダントトップが付いていた。真ん中に鍵穴があり、ダイヤモンドの粒が散りばめられている。
「ミューにクリスマスプレゼントだよ。ほんとは昨日渡したかったんだけど、渡せなかったから」
類……クリスマスプレゼント、用意してくれてたんだ。
「可愛い……ありがとう、類」
はにかみながら、美羽は後ろを振り返り微笑んだ。
だが、指にチェーンを引っ掛けてネックレスを見下ろした時に、あるはずの感触がないことに気づき、チェーンを回した美羽の顔が青褪める。
「類、これ……留め具は?」
チェーンのどこにも、留め具が見つからない。
「これ南京錠だもん、鍵がいるに決まってるじゃーん」
類が自身の首元から指を入れて、ネックレスを引き出した。その先には、小さな鍵がつけられている。
「類、お願い。外して……」
「プラチナ製はお風呂に入っても錆びないからずっと付けっ放しでも大丈夫だよ。それに、仕事場でピアスはダメだけど、ネックレスは中につけてればいいって浩平くんが言ってたし」
「そういうことじゃなくて! もし誰かに見られたらどうするの!?」
必死に抗議する美羽に類は顔を曇らせ、目尻を上げた。
「パッと見ただけじゃ、留め具のないネックレスだなんて分かんないよ。形もハートだし、オシャレでしてるんだって思われるだけでしょ」
「そ、んな……」
美羽は再びネックレスに視線を落とし、チェーンを確認した。それほど太いものではないので、ペンチで切れるかもしれない。
「ねぇ、チェーンを切ろうだなんて考えない方がいいよ?」
類の冷たい声が響く。
「もしミューがネックレスしてないのに気づいたら……
僕たちの関係を、みんなにバラすから」
類が美羽のケーキをフォークで切り分け、口元に持っていく。
「ほら、あーん」
「る、類っっ……自分で、食べられるからっっ」
焦って身を退けると、類は「そぉ?」と言って、フォークを口にパクリと含んだ。真っ赤に濡れた唇が艶めかしく、思わず背筋がゾクリと震える。
「ハハッ。類はほんとに美羽のことが好きだよな」
義昭の言葉に美羽の心臓が凍りつく。
やっぱり義昭さんは、私たちの関係に気づいているの!?
「うん、大好き♪
10年も離れてた分、甘えたいし、甘えさせたいんだよねー。ね、お姉ちゃん?」
心臓が狂ったメトロノームのように騒めいている。
義昭さんは、本当に私たちに何の疑いも抱いてないの?
この発言は、純粋なものなの?
いったい私は、誰を信じればいいの……
美羽は到底類に頷くことなど出来ず、フォークで切り分けたケーキを口に運んだ。
「ね、ミュー。めちゃめちゃ美味しいでしょ?」
「う、うん……そう、だね」
甘いはずのショコラが、苦みとなって美羽の口の中に広がっていった。
ケーキを食べ終え、義昭は先に休むと言って自室に戻っていった。いつもの義昭なら食べたら食べっぱなしで皿は放置しておくのに、今日は皿やティーカップをシンクまで運んでくれていた。
「はい。これでテーブルのは全部運んだよ」
洗い物をしている美羽の元に、類が残りの皿とティーカップを持ってきた。
「ありがとう。類も、もう休んでいいよ。今日は慣れないことして疲れたでしょ?」
類に気遣う素ぶりを見せながら、美羽はなるべく類と離れ、ひとりになりたかった。
だが、そんな美羽の気持ちに気づいていないのか、気づいていながらなのか、類はにっこりと微笑んで隣に立った。
「大丈夫。じゃ、ミューが洗ったものを僕が流していくから。そしたら、早く終わるでしょ?」
「うん……ありが、とう」
類は、優しい……
いつも私を気遣って、甘やかしてくれる。
けれど、それだけじゃない。
彼の中にいる悪魔が、私を常に脅かす。
類が最後の皿を受け取り、ジャージャーと勢いよく流していく。皿を水切りかごにいれ、蛇口をキュッと閉めた。
「はい、終わり♪」
「ありがとう」
類はタオルで手を拭き取ると、「ミュー、背中向いて」と言いながら、両肩を掴んでくるりと後ろに向けさせた。
「ぇ。なに……?」
「いいから、いいから♪」
一つに纏めていた髪が右側にずらされ、その感触にゾワゾワしていると、冷たい金属が鎖骨に触れた。後ろでカチッと何かが嵌る音が響く。
するすると下りてきた先を見下ろすと、プラチナ製のチェーンのネックレスの先に小さなハートのペンダントトップが付いていた。真ん中に鍵穴があり、ダイヤモンドの粒が散りばめられている。
「ミューにクリスマスプレゼントだよ。ほんとは昨日渡したかったんだけど、渡せなかったから」
類……クリスマスプレゼント、用意してくれてたんだ。
「可愛い……ありがとう、類」
はにかみながら、美羽は後ろを振り返り微笑んだ。
だが、指にチェーンを引っ掛けてネックレスを見下ろした時に、あるはずの感触がないことに気づき、チェーンを回した美羽の顔が青褪める。
「類、これ……留め具は?」
チェーンのどこにも、留め具が見つからない。
「これ南京錠だもん、鍵がいるに決まってるじゃーん」
類が自身の首元から指を入れて、ネックレスを引き出した。その先には、小さな鍵がつけられている。
「類、お願い。外して……」
「プラチナ製はお風呂に入っても錆びないからずっと付けっ放しでも大丈夫だよ。それに、仕事場でピアスはダメだけど、ネックレスは中につけてればいいって浩平くんが言ってたし」
「そういうことじゃなくて! もし誰かに見られたらどうするの!?」
必死に抗議する美羽に類は顔を曇らせ、目尻を上げた。
「パッと見ただけじゃ、留め具のないネックレスだなんて分かんないよ。形もハートだし、オシャレでしてるんだって思われるだけでしょ」
「そ、んな……」
美羽は再びネックレスに視線を落とし、チェーンを確認した。それほど太いものではないので、ペンチで切れるかもしれない。
「ねぇ、チェーンを切ろうだなんて考えない方がいいよ?」
類の冷たい声が響く。
「もしミューがネックレスしてないのに気づいたら……
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