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212.金銭問題
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それを聞き、圭子のテンションが急に上がる。
「じゃあ、これを機にマンション購入なんていいじゃなーい! アパートだと毎月お金を捨ててるようなものだしぃ、マンションは財産になるわけじゃない? そろそろ自分の家が欲しいなぁ。
ねぇね、今度モデルルームの見学行ってみようよ! ほのかも自分の部屋できたら喜ぶよー」
遠くからほのかの泣き声が聞こえてきた。どうやら起きてしまったらしい。圭子が晃に「ほらパパ、ほのかが呼んでるわよ」と言って行かせた。
今度は琴子に向き直ると、早口で捲し立てる。
「うちの家電さぁパパがひとり暮らししてた時のだから、古いし、使いにくいのよ。だから、ぜーんぶ新しくしたいんだよねぇ、電子レンジとか炊飯ジャーとか冷蔵庫とか……あっ! お母さんがこれからは料理するんだから、色々便利なの揃えなよ! 洗濯機は乾燥機がついたのにしてさぁ。食洗機とかあると便利だって、友達が言ってたよ。
ほのかの部屋もさぁ、可愛い感じにしたいよねぇ。カーテンとかベッドとかデスクとか同じブランドで揃えて。あーっ、楽しみぃっ!!」
新しいマイホームへの夢がどんどん膨らみ、早くも具体的な青写真を描き、圭子は興奮の声を上げた。
客間から、ほのかがギャンギャン泣き喚く声とそれを宥める晃の声が響いてくる。かなり手こずっているようだ。
5分もしないうちに、暴れるほのかを押さえつけるようにして抱きかかえた晃が帰ってきた。
「む、無理だ……泣き止まん」
ふたりが現れた途端、動物園の獣の湿っぽい檻の中のような臭いが立ち込め、思わず美羽は短く息を止めた。大作と義昭は明らさまに顔を顰めている。
琴子がスックと立ち上がり、暴れるほのかを受け取った。
「あらあらー、ほのちゃーん、まだ寝たかったねぇ? おっきして、誰もいなくてさみしかったねぇ?」
まるで自分だけがほのかを世話できるのだと誇示するかのように甘い声を出して宥めてから、晃に非難の目を向けた。
「晃さん、ほのちゃんうんちしてるのに、どうしておむつ替えてあげていないのかしら?」
「す、すみません……気づきませんで」
晃はそう言い訳したが、これだけの臭いが立ち込めているのに気づかないわけがない。圭子も聞こえているのに知らんふりしている。
琴子はハァッと短く息を吐くと、ほのかをギュッと抱き直した。
「ばぁばとおトイレ行って、お尻キレイキレイしてすっきりしてから、おねんねしましょうねぇ」
ほのかをあやし、琴子がトイレへと連れて行く間、圭子は自分は関係ないとばかりにスマホを操っていた。
そんな圭子と晃を横目にしながら、琴子の言う通り、祖母と一緒に同居することがほのかにとって最良の選択なのかもしれないと美羽は考えていた。
「ねぇ、ここよ、ここ!」
先ほど話に出たマンションのサイトをスマホで見つけた圭子が、意気揚々と晃に見せる。
「東武東上線の朝霞駅から歩いて5分ですって。パパの店までも自転車ならすぐじゃない。
小学校と中学校も近くにあるし、大きな公園もあって公民館や図書館もあるわよ! 買い物するとこもいっぱいあるし、絶対ここで決まりよぉ!
3LDKなら私たちの寝室とお母さんの部屋とほのかの部屋もあるし……見てー! 共有スペースも素敵じゃなぁい。新築のマンションならこれからみんな住むからご近所付き合いもしやすそうだし、ほのかと同じぐらいの子供もいそうじゃない。ねぇ、ここにしましょ!」
「おぉ、いいな……」
同意はしたものの、晃はそれほど気乗りしない表情で答えた。
家事や育児をしない妻の代わりに義母が面倒見てくれるのは有難いが、同居となると話は別だ。どうやって同居を諦めさせるか、考えていた。
「あ、もう既に販売開始してて、残り12戸ですって! ほら、早くしないと売り切れちゃう!! 今週中にでも、モデルルーム見学の予約入れた方がいいかしら」
盛り上がる圭子のキャピキャピした声に、義昭はイラっとした表情を向けた。
「お前、マンション購入にどれだけお金かかるか分かってんのか? 購入時に税金や手数料、物件価格の1割から2割程度の頭金を一気に支払うんだぞ。そんな貯金あるのか?」
「嘘、なにそれ。そんな金あるわけないじゃん」
「それに、マンションっていったって、家賃みたいに月々管理費とか修繕積立金だってかかるんだからな!」
「え、そうなの……!?」
「たとえ母さんと同居することになっても、僕たちが出すのは母さんの生活費だけだから、あとは自分たちでなんとかしろよ」
圭子は次々に義昭にマンション購入の厳しさを指摘され、愕然とした。膨らんだマイホームの夢がパチンと弾ける。
そんな中、ほのかの寝かしつけに成功した琴子が戻ってきた。先ほどの義昭の言葉が聞こえていたらしく、眉を下げて軽く手を振りながら笑みを見せる。
「義くん、そんな冷たいこと言わないで。マンションの頭金ぐらい貸してあげたらいいじゃない。
だって美羽さん、お父様が亡くなられた際に相当な額の遺産を受け取ったんでしょう?」
琴子の言葉に、美羽の顔が蒼白になる。
義昭が母親に類の話をしていたと知った瞬間から危惧していたが、やはり義昭は美羽が父から受け取った遺産の話までしていたのだ。
「じゃあ、これを機にマンション購入なんていいじゃなーい! アパートだと毎月お金を捨ててるようなものだしぃ、マンションは財産になるわけじゃない? そろそろ自分の家が欲しいなぁ。
ねぇね、今度モデルルームの見学行ってみようよ! ほのかも自分の部屋できたら喜ぶよー」
遠くからほのかの泣き声が聞こえてきた。どうやら起きてしまったらしい。圭子が晃に「ほらパパ、ほのかが呼んでるわよ」と言って行かせた。
今度は琴子に向き直ると、早口で捲し立てる。
「うちの家電さぁパパがひとり暮らししてた時のだから、古いし、使いにくいのよ。だから、ぜーんぶ新しくしたいんだよねぇ、電子レンジとか炊飯ジャーとか冷蔵庫とか……あっ! お母さんがこれからは料理するんだから、色々便利なの揃えなよ! 洗濯機は乾燥機がついたのにしてさぁ。食洗機とかあると便利だって、友達が言ってたよ。
ほのかの部屋もさぁ、可愛い感じにしたいよねぇ。カーテンとかベッドとかデスクとか同じブランドで揃えて。あーっ、楽しみぃっ!!」
新しいマイホームへの夢がどんどん膨らみ、早くも具体的な青写真を描き、圭子は興奮の声を上げた。
客間から、ほのかがギャンギャン泣き喚く声とそれを宥める晃の声が響いてくる。かなり手こずっているようだ。
5分もしないうちに、暴れるほのかを押さえつけるようにして抱きかかえた晃が帰ってきた。
「む、無理だ……泣き止まん」
ふたりが現れた途端、動物園の獣の湿っぽい檻の中のような臭いが立ち込め、思わず美羽は短く息を止めた。大作と義昭は明らさまに顔を顰めている。
琴子がスックと立ち上がり、暴れるほのかを受け取った。
「あらあらー、ほのちゃーん、まだ寝たかったねぇ? おっきして、誰もいなくてさみしかったねぇ?」
まるで自分だけがほのかを世話できるのだと誇示するかのように甘い声を出して宥めてから、晃に非難の目を向けた。
「晃さん、ほのちゃんうんちしてるのに、どうしておむつ替えてあげていないのかしら?」
「す、すみません……気づきませんで」
晃はそう言い訳したが、これだけの臭いが立ち込めているのに気づかないわけがない。圭子も聞こえているのに知らんふりしている。
琴子はハァッと短く息を吐くと、ほのかをギュッと抱き直した。
「ばぁばとおトイレ行って、お尻キレイキレイしてすっきりしてから、おねんねしましょうねぇ」
ほのかをあやし、琴子がトイレへと連れて行く間、圭子は自分は関係ないとばかりにスマホを操っていた。
そんな圭子と晃を横目にしながら、琴子の言う通り、祖母と一緒に同居することがほのかにとって最良の選択なのかもしれないと美羽は考えていた。
「ねぇ、ここよ、ここ!」
先ほど話に出たマンションのサイトをスマホで見つけた圭子が、意気揚々と晃に見せる。
「東武東上線の朝霞駅から歩いて5分ですって。パパの店までも自転車ならすぐじゃない。
小学校と中学校も近くにあるし、大きな公園もあって公民館や図書館もあるわよ! 買い物するとこもいっぱいあるし、絶対ここで決まりよぉ!
3LDKなら私たちの寝室とお母さんの部屋とほのかの部屋もあるし……見てー! 共有スペースも素敵じゃなぁい。新築のマンションならこれからみんな住むからご近所付き合いもしやすそうだし、ほのかと同じぐらいの子供もいそうじゃない。ねぇ、ここにしましょ!」
「おぉ、いいな……」
同意はしたものの、晃はそれほど気乗りしない表情で答えた。
家事や育児をしない妻の代わりに義母が面倒見てくれるのは有難いが、同居となると話は別だ。どうやって同居を諦めさせるか、考えていた。
「あ、もう既に販売開始してて、残り12戸ですって! ほら、早くしないと売り切れちゃう!! 今週中にでも、モデルルーム見学の予約入れた方がいいかしら」
盛り上がる圭子のキャピキャピした声に、義昭はイラっとした表情を向けた。
「お前、マンション購入にどれだけお金かかるか分かってんのか? 購入時に税金や手数料、物件価格の1割から2割程度の頭金を一気に支払うんだぞ。そんな貯金あるのか?」
「嘘、なにそれ。そんな金あるわけないじゃん」
「それに、マンションっていったって、家賃みたいに月々管理費とか修繕積立金だってかかるんだからな!」
「え、そうなの……!?」
「たとえ母さんと同居することになっても、僕たちが出すのは母さんの生活費だけだから、あとは自分たちでなんとかしろよ」
圭子は次々に義昭にマンション購入の厳しさを指摘され、愕然とした。膨らんだマイホームの夢がパチンと弾ける。
そんな中、ほのかの寝かしつけに成功した琴子が戻ってきた。先ほどの義昭の言葉が聞こえていたらしく、眉を下げて軽く手を振りながら笑みを見せる。
「義くん、そんな冷たいこと言わないで。マンションの頭金ぐらい貸してあげたらいいじゃない。
だって美羽さん、お父様が亡くなられた際に相当な額の遺産を受け取ったんでしょう?」
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