【R18】退廃的な接吻を ー美麗な双子姉弟が織りなす、切なく激しい禁断愛ー

奏音 美都

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221.深い溝

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 翌朝、いつもならお雑煮と御節料理が並び、皆で新年の挨拶を交わし、普段より少し華やかな雰囲気に家全体が包まれるのに、今年は華やかさどころか明るさも何もなかった。

 昨夜琴子が離縁宣告をした茶の間に再び家族全員が集まっている。大作は不機嫌そうに煙草をくゆらしていた。昨日感じていたピリピリとした雰囲気は凄みを増し、今は肌にまでビリビリと突き刺さるかのようだ。

 ほのかの気を逸らすために持たせたタブレットから流れている猫型ロボットの間延びしたアニメソングが、緊張した雰囲気の中で際立って響いていた。

 今朝、障子を開けて客間を出た時にちょうど大作とかち合ってしまい、昨夜のことを何か言われるのではとヒヤヒヤしたが、大作は義昭と美羽をジロリと睨みつけただけで、何も言わずに去っていった。

 美羽が、チラリと大作を見つめる。

 お義父さんは、何を考えて一夜を過ごしたのだろう。

 大作の目の下にはくっきりとしたくまが浮かび、顔色も冴えなく、髪も整えておらず、一睡も出来なかったことは明らかだった。

 一睡も出来なかったのは美羽も同じだ。これからの不安と恐怖に苛まれて過ごし、翌日から義昭にどう接すればいいのかと悩んだ。冷たい水で顔を洗ったものの、まだ微かに目が腫れ、泣きすぎて頭が酷く重く感じる。

 今朝起きてきた時、義昭は美羽に対して何事もなかったかのようにいつも通りに接してきた。まるで、あれは悪夢だったかのように……

 けれど、客間のゴミ箱には丸めたティッシュが捨てられており、現実であることを物語っていた。

 いったい、義昭さんは私に何を求めているの?
 分からない。
 本当に、気持ち悪い……

 昨夜の出来事をなかったことになど、出来ない。美羽の義昭に対しての嫌悪感はもう限界にまで達していた。

 美羽が逃げ出すことなく、かろうじて義昭と会話する精神力を保っていられるのは、ここが自分にとってのアウェイである義昭の実家だからだ。

 ここに自分の味方がひとりもいないと分かった今、美羽は自分の足でしっかりと立っていなければならないのだ。

 大作の放つ重い空気に耐えかねて圭子がリモコンを手に取り、TVをつけようとした。

「あ、ちょっと!」

 だが、義昭に奪い返された。

 晃は台所にビールを取りに立ち上がろうとし、琴子にジロリと視線で制され、再び腰を下ろした。

 皆が息苦しさに押し潰されそうになった頃、琴子はスッと一枚の紙を大作の前に置いた。



「離婚届です。あとは、あなたの名前と印鑑を押すだけにしてあります」



 いつも和服姿の琴子が、今日は明るい萌黄色のワンピースを着ている。そんなところにも、彼女の強い意思を感じた。

「受け取らん」

 大作は一瞬だけ離婚届に目線を落としてから、フッと逸らした。そんな父を横目に、少し遠慮がちに義昭が口を開いた。

「なぁ、母さん。本気で離婚するつもりなのか?」
「本気に決まってるでしょ。
 私はこの人と、ずっと離婚したいと思いながら生活してきたの。今更、気持ちが変わるわけありません」

 息子からの説得にも、琴子はにべもない態度だった。

 その後、何度も義昭は琴子の説得を試みたが、肝心な夫の大作は離婚も別居も同意しないという一点張りだし、話は平行線を辿る一方だった。

「言ったでしょう、気持ちは変わりませんって。私は忙しいので、失礼します」

 琴子がスッと立ち上がると、大作が掴みかからんばかりの勢いで制した。

「おい、どこに行く!?」
「これから荷物を纏めるんです」
「ま、待て! 落ち着け!」
「私は十分落ち着いていますよ。冷静でないのはお父さんの方でしょう?」

 琴子は立ったまま、大作をじっと見下ろした。

「それで? 私を引き止めて、何が仰りたいんですか?」

 美羽は祈るような気持ちで大作を見つめた。

 お願い、お義父さん……どうか今だけでもいいから、お義母さんに謝罪して。

 大作は「ウッ」と短く呻き声を上げてから、沈黙した。

 それから暫くしてボソッと呟く。

「……お前は俺の妻だろう。勝手に家を出て行くなど、許さん」

 ハァーッと琴子が大きく肩で息を吐いた。

「言いたいことはそれだけですか」
「昨日から一体なんなんだ!! 今まで黙ってたくせに、急に色々と俺に不平不満を並べて。何が文句があるんだ! どうして離婚なんて言い出すんだ!!」

 美羽は大作の言葉を聞き、落胆した。

 昨日の琴子の訴えは、短い付き合いしかない美羽の心にさえ響いたというのに、長年連れ添ったはずの夫である大作にはまるで異国の言葉のように理解出来ていなかったのだ。

 今、琴子を引き止めている大作は、まるで我儘を押し通そうとする3歳児のように見える。

「きっとあなたには、一生理解出来ないのでしょうね」

 諦めたような表情で言い残すと、琴子は茶の間から去っていった。美羽も思わず溜息を吐き、義昭も肩を落とした。

 圭子が「あーぁ」と呟くと、大作が眉間に皺を寄せて叫んだ。



「なんなんだ、お前たちまで俺を馬鹿にする気か!! 文句があるなら出て行け!!
 全員この家からいなくなればいい!!」



 大作の勢いに押され、全員茶の間から出て行く。美羽はタブレットに夢中になっているほのかを抱きかかえ、最後に破れた障子をそっと閉めた。
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