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233.不測の事態
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食事が終わり、ふたりはホテルへと向かった。空港を出た時はまだ6時を回っていなかったはずなのに、ホテルの駐車場についた時には既に11時を過ぎていた。
ビジネスホテルのロビーに客は誰もおらず、フロントにひとり立っているのみだった。
「じゃ、鍵を受け取ってくるね」
「あぁ」
美羽はひとり、フロントへと向かった。
「すみません、ネットでホテルの予約をした朝野ですが……」
「少々お待ちくださいませ……」
黒いスーツを着た男性が、パソコンに向かう。
「朝野美羽様でよろしいですか?」
「はい」
「鍵はこちらになります」
カウンターテーブルにカードキーが2枚置かれた。
え、ちょっと待って……
カードキーが2枚置かれているものの、そこに書かれていた部屋番号は同じだった。
美羽が戸惑い気味に答える。
「あの、もうひとつの部屋の鍵は……」
男性がもう一度パソコンの画面を確認する。
「えっ、こちらではツインのお部屋をひとつとなっておりますが……」
「いえ。私が頼んだのはシングルの部屋を2つだったんですが……」
暫くの間があってから、男性は慌ててパソコンのキーボードを鳴らし始めた。それから、申し訳なさそうな顔を浮かべて頭を下げた。
「恐れ入りますが、今夜はどの部屋も満室となっており、今お客様にご案内したお部屋しか空いておりません。大変申し訳ありません」
「そ、んな……」
美羽は絶句した。
どうしよう……
「どうかしたのか?」
美羽の異変に気づいた隼斗がフロントまで来た。
「それが……部屋を2つ取ったはずだったのに、ツインの部屋を1つ予約したことになってて。しかも、他に部屋もないみたいなの」
「そう、か……」
隼斗も困ったように眉を寄せた。
「申し訳ございません。うちの系列の他のホテルに空きがあるか、調べてみますので」
男性が恐縮し、調べてくれたが、どこにも空きはなかった。
「……俺の家に行っても、意味ないしな」
隼斗の言葉に美羽は黙り込んだ。
隼斗の住んでいるのは1DKの賃貸マンションのため、そこに行ったところで同じ部屋に寝ることに変わりはないし、余計に気を遣わせてしまう。なにより、隼斗の家は空港から遠いため、戻っても無駄に時間を使うだけだ。
美羽は隼斗を見上げた。
「隼斗兄さん……」
「このホテルは空港からも近いし、今の時間から他のホテル探しても見つかる保証はないから、今夜はここに泊まろう?」
美羽は自ら提案した。本当は気が進まないが、もし美羽が言い出さなければ、隼斗は何時間でもここに立ち尽くしているだろう。
初めて同じ部屋に寝泊まりにすることにはなるが、隼斗に限って間違いが起こるなどありえないし、疑うことすら考えてはいけないと思った。
「すまないな、美羽」
「大丈夫だよ」
ツインならベッドが2つあるんだから、同じベッドに寝るわけじゃないし。
……義昭さんと同じ部屋に寝るよりも全然マシだよね。
フロントの男性は萎縮しながら、何度もお辞儀をした。
「大変申し訳ございませんでした……こちら、無料の朝食チケット2枚になりますので、どうぞお使いください」
「すみません。お気遣い下さり、ありがとうございます」
美羽はカウンターに置かれたカードキーを受け取ると1つを隼斗に渡し、エレベーターに乗り込んだ。
ビジネスホテルのロビーに客は誰もおらず、フロントにひとり立っているのみだった。
「じゃ、鍵を受け取ってくるね」
「あぁ」
美羽はひとり、フロントへと向かった。
「すみません、ネットでホテルの予約をした朝野ですが……」
「少々お待ちくださいませ……」
黒いスーツを着た男性が、パソコンに向かう。
「朝野美羽様でよろしいですか?」
「はい」
「鍵はこちらになります」
カウンターテーブルにカードキーが2枚置かれた。
え、ちょっと待って……
カードキーが2枚置かれているものの、そこに書かれていた部屋番号は同じだった。
美羽が戸惑い気味に答える。
「あの、もうひとつの部屋の鍵は……」
男性がもう一度パソコンの画面を確認する。
「えっ、こちらではツインのお部屋をひとつとなっておりますが……」
「いえ。私が頼んだのはシングルの部屋を2つだったんですが……」
暫くの間があってから、男性は慌ててパソコンのキーボードを鳴らし始めた。それから、申し訳なさそうな顔を浮かべて頭を下げた。
「恐れ入りますが、今夜はどの部屋も満室となっており、今お客様にご案内したお部屋しか空いておりません。大変申し訳ありません」
「そ、んな……」
美羽は絶句した。
どうしよう……
「どうかしたのか?」
美羽の異変に気づいた隼斗がフロントまで来た。
「それが……部屋を2つ取ったはずだったのに、ツインの部屋を1つ予約したことになってて。しかも、他に部屋もないみたいなの」
「そう、か……」
隼斗も困ったように眉を寄せた。
「申し訳ございません。うちの系列の他のホテルに空きがあるか、調べてみますので」
男性が恐縮し、調べてくれたが、どこにも空きはなかった。
「……俺の家に行っても、意味ないしな」
隼斗の言葉に美羽は黙り込んだ。
隼斗の住んでいるのは1DKの賃貸マンションのため、そこに行ったところで同じ部屋に寝ることに変わりはないし、余計に気を遣わせてしまう。なにより、隼斗の家は空港から遠いため、戻っても無駄に時間を使うだけだ。
美羽は隼斗を見上げた。
「隼斗兄さん……」
「このホテルは空港からも近いし、今の時間から他のホテル探しても見つかる保証はないから、今夜はここに泊まろう?」
美羽は自ら提案した。本当は気が進まないが、もし美羽が言い出さなければ、隼斗は何時間でもここに立ち尽くしているだろう。
初めて同じ部屋に寝泊まりにすることにはなるが、隼斗に限って間違いが起こるなどありえないし、疑うことすら考えてはいけないと思った。
「すまないな、美羽」
「大丈夫だよ」
ツインならベッドが2つあるんだから、同じベッドに寝るわけじゃないし。
……義昭さんと同じ部屋に寝るよりも全然マシだよね。
フロントの男性は萎縮しながら、何度もお辞儀をした。
「大変申し訳ございませんでした……こちら、無料の朝食チケット2枚になりますので、どうぞお使いください」
「すみません。お気遣い下さり、ありがとうございます」
美羽はカウンターに置かれたカードキーを受け取ると1つを隼斗に渡し、エレベーターに乗り込んだ。
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