上 下
239 / 498

233.不測の事態

しおりを挟む
 食事が終わり、ふたりはホテルへと向かった。空港を出た時はまだ6時を回っていなかったはずなのに、ホテルの駐車場についた時には既に11時を過ぎていた。

 ビジネスホテルのロビーに客は誰もおらず、フロントにひとり立っているのみだった。

「じゃ、鍵を受け取ってくるね」
「あぁ」

 美羽はひとり、フロントへと向かった。

「すみません、ネットでホテルの予約をした朝野ですが……」
「少々お待ちくださいませ……」

 黒いスーツを着た男性が、パソコンに向かう。

「朝野美羽様でよろしいですか?」
「はい」
「鍵はこちらになります」

 カウンターテーブルにカードキーが2枚置かれた。



 え、ちょっと待って……



 カードキーが2枚置かれているものの、そこに書かれていた部屋番号は同じだった。

 美羽が戸惑い気味に答える。

「あの、もうひとつの部屋の鍵は……」

 男性がもう一度パソコンの画面を確認する。

「えっ、こちらではツインのお部屋をひとつとなっておりますが……」
「いえ。私が頼んだのはシングルの部屋を2つだったんですが……」

 暫くの間があってから、男性は慌ててパソコンのキーボードを鳴らし始めた。それから、申し訳なさそうな顔を浮かべて頭を下げた。

「恐れ入りますが、今夜はどの部屋も満室となっており、今お客様にご案内したお部屋しか空いておりません。大変申し訳ありません」
「そ、んな……」

 美羽は絶句した。

 どうしよう……

「どうかしたのか?」

 美羽の異変に気づいた隼斗がフロントまで来た。

「それが……部屋を2つ取ったはずだったのに、ツインの部屋を1つ予約したことになってて。しかも、他に部屋もないみたいなの」
「そう、か……」

 隼斗も困ったように眉を寄せた。

「申し訳ございません。うちの系列の他のホテルに空きがあるか、調べてみますので」

 男性が恐縮し、調べてくれたが、どこにも空きはなかった。

「……俺の家に行っても、意味ないしな」

 隼斗の言葉に美羽は黙り込んだ。

 隼斗の住んでいるのは1DKの賃貸マンションのため、そこに行ったところで同じ部屋に寝ることに変わりはないし、余計に気を遣わせてしまう。なにより、隼斗の家は空港から遠いため、戻っても無駄に時間を使うだけだ。

 美羽は隼斗を見上げた。

「隼斗兄さん……」

「このホテルは空港からも近いし、今の時間から他のホテル探しても見つかる保証はないから、今夜はここに泊まろう?」

 美羽は自ら提案した。本当は気が進まないが、もし美羽が言い出さなければ、隼斗は何時間でもここに立ち尽くしているだろう。

 初めて同じ部屋に寝泊まりにすることにはなるが、隼斗に限って間違いが起こるなどありえないし、疑うことすら考えてはいけないと思った。

「すまないな、美羽」
「大丈夫だよ」

 ツインならベッドが2つあるんだから、同じベッドに寝るわけじゃないし。
 ……義昭さんと同じ部屋に寝るよりも全然マシだよね。

 フロントの男性は萎縮しながら、何度もお辞儀をした。

「大変申し訳ございませんでした……こちら、無料の朝食チケット2枚になりますので、どうぞお使いください」
「すみません。お気遣い下さり、ありがとうございます」

 美羽はカウンターに置かれたカードキーを受け取ると1つを隼斗に渡し、エレベーターに乗り込んだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

最愛の人がいるのでさようなら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:64,901pt お気に入り:645

初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:57,488pt お気に入り:6,936

黒十字

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:32

悪徳令嬢はヤンデレ騎士と復讐する

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:1,405pt お気に入り:259

candy color

恋愛 / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:301

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:633pt お気に入り:38

処理中です...