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340.類の企み
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玄関に入った美羽は、そこに置かれた靴を見て息を吐いた。
また、来てる……
リビングの扉を開けると、琴子が義昭とテーブルを囲み、談笑している。
昼間はこの家には誰もいないのと、ほのかを連れて来るのはさすがに悪いと思うのか、琴子は義昭が帰ってくる時間にひとりで訪ねて来るようになった。
義昭とふたりきりにならないのは助かるが、仕事で疲れて帰ってきて一刻も早く自分の部屋に戻りたいのに、それが出来ないので精神的に負担に感じてしまう。
「あら、お帰りなさい美羽さん。こんな時間まで大変ねぇ。私と義くんは、夕飯済ませたから。そうそう、栗羊羹買ってきたのよ、食べて。
類くんは、一緒に帰ってきたんじゃないの?」
琴子の言葉に、苛立ちがフツと湧いた。
「いえ……類は、閉店作業をして帰るので遅くなります」
そのため、美羽は電車で帰ってきた。類は、同じく閉店作業をしている香織を車で送って帰るつもりだろう。
店が忙しく、厨房の閉店作業を隼斗と浩平だけでするのは大変だと理解しているし、隼斗が気をきかせて美羽を早めに上がらせてくれているのも分かっている。
けれど、それでも類と香織が一緒に帰ることへの焦燥感が胸を焦がす。
類……あの時、あんな風に私を挑発しておきながら、まだ嫉妬を煽るなんて。私が類を受け入れるまで、そうするつもりなの?
類と香織の親密度はますます増していて、視界に入るだけで滅入ってしまう。類が自分のことを愛していると確信していても、それが彼の作戦なのだと分かっていても、苛立ちは収まらない。
こんな時に、琴子から類の名前が出ることすら、不快だった。
だが、琴子に八つ当たりしても仕方ない。
美羽は部屋に戻りたい気持ちを押さえつけ、テーブルに腰を下ろし、切り分けられた芋羊羹に手を伸ばした。
琴子は、美羽が来たことで中断していた話を再開した。
「それでね、圭子ったら今日もまたほのちゃん置いて出かけちゃって。どこに行くのか尋ねたら買い物だって言うから、『だったら私も一緒に行くわ』って言ったのよ。そしたら、圭子頑なに拒否して『ひとりでいいから』『ほのかを連れて行くと大変だから』って。だったら、私が代わりに行くって言っても、『私が行くから大丈夫』の一点張りで、逃げるように出て行っちゃったのよ。
それが、朝に出かけて、帰ってくるのは夜なのよ。酷い時には晃さんが帰宅してもまだ帰ってこないんだから」
それを聞いた義昭は顔を顰め、ガリッと歯噛みした。
「あいつ、パチンコでも行ってんじゃないのか?」
「私もそう思って圭子に聞いてみたんだけど、『絶対に違う』って言い張るのよ。
ほら、このまえ晃さんがここにほのちゃん迎えに来たことがあったでしょう? あの時、かなり圭子、晃さんに怒られて、しばらくパチンコ禁止って言われたのよね」
「ハッ……あいつがそんなこと守るわけないだろう」
義昭は歪んだ笑みを見せる。
「でも、本当に行ってないって言ってるのよ……
それにしても、ほのちゃんは可愛いけど、さすがに毎日朝から晩まで孫の世話させられて、家事も全部しないとだし、疲れちゃったわ。『孫は、来て嬉しい。帰って嬉しい』って言うけど、ほんとねぇ」
琴子は大きく溜息を吐き、芋羊羹を口にした。
ガチャッとリビングの扉が開き、類が入ってきた。
類、帰ってきた……
ホッとした美羽だったが、類が顔を向けたのは彼女ではなかった。
「あれっ、琴子来てたんだー」
「類くーん、おつかれさまぁ」
こ、琴子!?
美羽は目を瞬かせた。
「ちょっ、類!? お義母さんに失礼だよ!」
声を荒げた美羽に、琴子は笑顔で手を振る。
「いいの、いいのよぉ。よしママって言い方もなんだから、類くんの呼びやすい言い方にしてちょうだいって頼んだの、私なんだから! ほら、類くんアメリカ育ちだから、名前で呼ぶ方がいいんですって。『ふぁーすとねーむ』って言うの?
なんだか私、若返った気分になっちゃうわ、フフッ」
「琴子は十分、若いよ」
「あら、やだ。類くんったら……フフフ」
琴子は頰を緩め、嬉しそうに笑った。
また、来てる……
リビングの扉を開けると、琴子が義昭とテーブルを囲み、談笑している。
昼間はこの家には誰もいないのと、ほのかを連れて来るのはさすがに悪いと思うのか、琴子は義昭が帰ってくる時間にひとりで訪ねて来るようになった。
義昭とふたりきりにならないのは助かるが、仕事で疲れて帰ってきて一刻も早く自分の部屋に戻りたいのに、それが出来ないので精神的に負担に感じてしまう。
「あら、お帰りなさい美羽さん。こんな時間まで大変ねぇ。私と義くんは、夕飯済ませたから。そうそう、栗羊羹買ってきたのよ、食べて。
類くんは、一緒に帰ってきたんじゃないの?」
琴子の言葉に、苛立ちがフツと湧いた。
「いえ……類は、閉店作業をして帰るので遅くなります」
そのため、美羽は電車で帰ってきた。類は、同じく閉店作業をしている香織を車で送って帰るつもりだろう。
店が忙しく、厨房の閉店作業を隼斗と浩平だけでするのは大変だと理解しているし、隼斗が気をきかせて美羽を早めに上がらせてくれているのも分かっている。
けれど、それでも類と香織が一緒に帰ることへの焦燥感が胸を焦がす。
類……あの時、あんな風に私を挑発しておきながら、まだ嫉妬を煽るなんて。私が類を受け入れるまで、そうするつもりなの?
類と香織の親密度はますます増していて、視界に入るだけで滅入ってしまう。類が自分のことを愛していると確信していても、それが彼の作戦なのだと分かっていても、苛立ちは収まらない。
こんな時に、琴子から類の名前が出ることすら、不快だった。
だが、琴子に八つ当たりしても仕方ない。
美羽は部屋に戻りたい気持ちを押さえつけ、テーブルに腰を下ろし、切り分けられた芋羊羹に手を伸ばした。
琴子は、美羽が来たことで中断していた話を再開した。
「それでね、圭子ったら今日もまたほのちゃん置いて出かけちゃって。どこに行くのか尋ねたら買い物だって言うから、『だったら私も一緒に行くわ』って言ったのよ。そしたら、圭子頑なに拒否して『ひとりでいいから』『ほのかを連れて行くと大変だから』って。だったら、私が代わりに行くって言っても、『私が行くから大丈夫』の一点張りで、逃げるように出て行っちゃったのよ。
それが、朝に出かけて、帰ってくるのは夜なのよ。酷い時には晃さんが帰宅してもまだ帰ってこないんだから」
それを聞いた義昭は顔を顰め、ガリッと歯噛みした。
「あいつ、パチンコでも行ってんじゃないのか?」
「私もそう思って圭子に聞いてみたんだけど、『絶対に違う』って言い張るのよ。
ほら、このまえ晃さんがここにほのちゃん迎えに来たことがあったでしょう? あの時、かなり圭子、晃さんに怒られて、しばらくパチンコ禁止って言われたのよね」
「ハッ……あいつがそんなこと守るわけないだろう」
義昭は歪んだ笑みを見せる。
「でも、本当に行ってないって言ってるのよ……
それにしても、ほのちゃんは可愛いけど、さすがに毎日朝から晩まで孫の世話させられて、家事も全部しないとだし、疲れちゃったわ。『孫は、来て嬉しい。帰って嬉しい』って言うけど、ほんとねぇ」
琴子は大きく溜息を吐き、芋羊羹を口にした。
ガチャッとリビングの扉が開き、類が入ってきた。
類、帰ってきた……
ホッとした美羽だったが、類が顔を向けたのは彼女ではなかった。
「あれっ、琴子来てたんだー」
「類くーん、おつかれさまぁ」
こ、琴子!?
美羽は目を瞬かせた。
「ちょっ、類!? お義母さんに失礼だよ!」
声を荒げた美羽に、琴子は笑顔で手を振る。
「いいの、いいのよぉ。よしママって言い方もなんだから、類くんの呼びやすい言い方にしてちょうだいって頼んだの、私なんだから! ほら、類くんアメリカ育ちだから、名前で呼ぶ方がいいんですって。『ふぁーすとねーむ』って言うの?
なんだか私、若返った気分になっちゃうわ、フフッ」
「琴子は十分、若いよ」
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