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357.友達のままでいい
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香織が少し遠くを見るような表情を浮かべた。
「そういえば……最近、萌って浩平に対しての態度、違ってたかも。
浩平のこと、バカにしたり、揶揄うようなこと言わなくなってたし、連続猫パンチとかよくしてたけど、しなくなったよね」
萌が俯いていた顔をパッと上げて、声を上擦らせた。
「う、嘘っっ!? こうたんに、萌が好きだってこと、気づかれちゃったかなぁ!?
ふわぁぁぁぁ、ヤダ~どぉしよぉっっ!!」
「いやっ、あいつ絶対に気づいてないと思うわ。私でさえ、言われてみれば……って感じだもん。
浩平ってさぁ、周りへの気遣いはあるくせに、恋愛に関しては疎いのよねぇ」
ふたりの話を聞きながら、美羽は愕然とした。
私も一緒に働いてたのに、全然気づいてなかった……
類と香織のことばかり気にしていて、萌にそんな変化があっただなんて、感じもしなかった。
「いいじゃない、いいじゃなぁい! 最初はビックリしたけど、案外萌たんと浩平くんってお似合いかも!!」
マドレーヌを頬張りながら声高に萌の応援をする芳子に、香織も頷いた。
「そうねぇ。今まで考えたこともなかったけど、タメで話も合うし、性格も似てるとこあるし、付き合ったらうまくいくかも。デタントは、社内恋愛禁止ってわけでもないし。
隼斗さんも昔、オーナーの娘だった恵麻さんと付き合ってたしね」
勝手に盛り上がるふたりに、萌が表情を歪ませた。
「よくないよっっ!!」
ふたりがビクッと肩を揺らして口を閉じると、萌は再び俯いて小さくなった。
「今までは……出会った瞬間に好きって思って、告白して、付き合いが始まってた。相手から好きって言われて、好きになれるかもって思ったら付き合ってた。だから、友達からどうやって恋人になれるのか、わかんない。
それに……分かってるの。
こうたんは、私のこと単なる仕事仲間か友達としてしか思ってないって。全然、恋愛の対象として見られてないって」
香織がフゥと短く息を吐き、手を伸ばして萌の背中を優しく撫でた。
「今は浩平は萌のこと友達としてしか見てないとしても、これから先どうなるかは分からないじゃない? もしかしたら、浩平も萌のこと好きになるかもしれないよ?」
芳子も、萌の背中を押すように励ました。
「そうよぉ! 男なんて単純だから、告られたら意識しちゃって好きになるってこと、よくあるんだからぁ。浩平くんだってさ、可愛い萌たんに告られたらイチコロよぉ。
って、『イチコロ』って最近の子は使うんだっけ? アハハ……」
美羽には、何も言えなかった。
もちろん、萌と浩平がうまくいって恋人同士になれればいいと願っている。けれど……もしうまくいかなかったらと思うと、口に出せない。
そんな無責任なこと、言ってはいけない気がした。
萌は瞳を潤ませ、ますます体を小さくした。
「で、できない……告白、なんて。
こわい。こわいよぉぉ
もし、こうたんに告白して、振られたら……デタントにいられないっっ。今までみたいに笑顔でなんて、いられない。
気まずくなるぐらいなら、ずっと友達でいい。こうたんに、嫌われたくないっっ」
「萌、たん……」
美羽の胸がキュッときつく締め付けられた。
美羽は生まれた時から類と一緒で、お互いの気持ちは言わなくても通じ合っていた。嫌われたらどうしようなんて、考えたこともなかった。
もし類が、自分を好きでなかったら。それどころか、嫌われてしまったら……そう考えるだけで、苦しくなる。
今は、昔みたいに通じ合っているという感覚が断たれてしまった。類が、何を考えているのか分からない。
あれほど絶対的に信じていた類の愛情さえ、見えなくなっている。
気持ちが分からない相手に自分の気持ちを告白することの恐さを、美羽は今初めて感じていた。
萌たんが『友達のままでいい』って思う気持ち、理解できる気がする。
私も類のことは愛しているけど……今の環境を捨てる勇気がない。世間の目に曝されるのが怖い。
私の知らない、類の本性があることを知りたくない。
このままでいい、このままがいいのだと、思ってしまう。
離れていた10年間を思えば、今は類を現実に見ることができる。彼と同じ時間を過ごせる。一緒に住んで、同じ空気を吸って、彼を近くに感じる。
それで、満足しなければいけないんだ。これ以上望むなんて、間違ってる。
「そういえば……最近、萌って浩平に対しての態度、違ってたかも。
浩平のこと、バカにしたり、揶揄うようなこと言わなくなってたし、連続猫パンチとかよくしてたけど、しなくなったよね」
萌が俯いていた顔をパッと上げて、声を上擦らせた。
「う、嘘っっ!? こうたんに、萌が好きだってこと、気づかれちゃったかなぁ!?
ふわぁぁぁぁ、ヤダ~どぉしよぉっっ!!」
「いやっ、あいつ絶対に気づいてないと思うわ。私でさえ、言われてみれば……って感じだもん。
浩平ってさぁ、周りへの気遣いはあるくせに、恋愛に関しては疎いのよねぇ」
ふたりの話を聞きながら、美羽は愕然とした。
私も一緒に働いてたのに、全然気づいてなかった……
類と香織のことばかり気にしていて、萌にそんな変化があっただなんて、感じもしなかった。
「いいじゃない、いいじゃなぁい! 最初はビックリしたけど、案外萌たんと浩平くんってお似合いかも!!」
マドレーヌを頬張りながら声高に萌の応援をする芳子に、香織も頷いた。
「そうねぇ。今まで考えたこともなかったけど、タメで話も合うし、性格も似てるとこあるし、付き合ったらうまくいくかも。デタントは、社内恋愛禁止ってわけでもないし。
隼斗さんも昔、オーナーの娘だった恵麻さんと付き合ってたしね」
勝手に盛り上がるふたりに、萌が表情を歪ませた。
「よくないよっっ!!」
ふたりがビクッと肩を揺らして口を閉じると、萌は再び俯いて小さくなった。
「今までは……出会った瞬間に好きって思って、告白して、付き合いが始まってた。相手から好きって言われて、好きになれるかもって思ったら付き合ってた。だから、友達からどうやって恋人になれるのか、わかんない。
それに……分かってるの。
こうたんは、私のこと単なる仕事仲間か友達としてしか思ってないって。全然、恋愛の対象として見られてないって」
香織がフゥと短く息を吐き、手を伸ばして萌の背中を優しく撫でた。
「今は浩平は萌のこと友達としてしか見てないとしても、これから先どうなるかは分からないじゃない? もしかしたら、浩平も萌のこと好きになるかもしれないよ?」
芳子も、萌の背中を押すように励ました。
「そうよぉ! 男なんて単純だから、告られたら意識しちゃって好きになるってこと、よくあるんだからぁ。浩平くんだってさ、可愛い萌たんに告られたらイチコロよぉ。
って、『イチコロ』って最近の子は使うんだっけ? アハハ……」
美羽には、何も言えなかった。
もちろん、萌と浩平がうまくいって恋人同士になれればいいと願っている。けれど……もしうまくいかなかったらと思うと、口に出せない。
そんな無責任なこと、言ってはいけない気がした。
萌は瞳を潤ませ、ますます体を小さくした。
「で、できない……告白、なんて。
こわい。こわいよぉぉ
もし、こうたんに告白して、振られたら……デタントにいられないっっ。今までみたいに笑顔でなんて、いられない。
気まずくなるぐらいなら、ずっと友達でいい。こうたんに、嫌われたくないっっ」
「萌、たん……」
美羽の胸がキュッときつく締め付けられた。
美羽は生まれた時から類と一緒で、お互いの気持ちは言わなくても通じ合っていた。嫌われたらどうしようなんて、考えたこともなかった。
もし類が、自分を好きでなかったら。それどころか、嫌われてしまったら……そう考えるだけで、苦しくなる。
今は、昔みたいに通じ合っているという感覚が断たれてしまった。類が、何を考えているのか分からない。
あれほど絶対的に信じていた類の愛情さえ、見えなくなっている。
気持ちが分からない相手に自分の気持ちを告白することの恐さを、美羽は今初めて感じていた。
萌たんが『友達のままでいい』って思う気持ち、理解できる気がする。
私も類のことは愛しているけど……今の環境を捨てる勇気がない。世間の目に曝されるのが怖い。
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このままでいい、このままがいいのだと、思ってしまう。
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それで、満足しなければいけないんだ。これ以上望むなんて、間違ってる。
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