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377.香織の想い
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控室の扉を閉め、裏口から駐車場へと出る。
「ちょ、ちょっとかおりん。いくらなんでも、あからさますぎない? あれじゃ……浩平くんに、萌たんの気持ちばれちゃうかも」
「ぜーったい、気づいてるわけないって。あいつ鈍感だから、あれぐらいした方がいいのよ」
だからといって……萌たんにとっては、どうなんだろう。
美羽が悶々とする中、香織はうーんと背を伸ばした。雪は未だやむことなく、ちらちらと舞い、うっすらと駐車場を白く染めていた。
かおりんは、類に……バレンタインのチョコ、渡すつもり……なのかな。
喉から出かけた言葉を飲み下し、香織の横顔を見つめる。すると、香織も美羽を見つめ返した。
「美羽、類くんにチョコあげたんだね」
「あれ、は……デタントのメンバー全員に、毎年あげてるものだから。類だって、一員だし」
本当は、類のために特別に用意したチョコケーキがあるのだとは、言えなかった。
「……そう、だね」
香織が睫毛を震わせ、俯いた。
「っくしゅん!」
美羽だ。躰が冷えて、くしゃみが出てしまった。
「ごめっ! 寒かったよね? もう浩平の休憩時間も終わってるだろうし、中、入ろっか」
裏口の扉を開けたと同時に、控室の扉が同時に開く。
「おつかれーっす」
「浩平、おつかれさまー」
「あ、かおりん!! 仕事終わってからもう1個、チョコもらっていいっすか?」
「もうっ、それ美羽のためのチョコなのに。あと1個だけだからね!」
「やった、ラッキー。じゃ、お先ー」
足取り軽く、浩平が厨房に戻っていく。
「んもぉ、かおたーん!!」
控室に入ると、頬を膨らまして怒りを表現する萌が待っていた。
「フフッ、楽しめた? ねぇねぇ、それで?
ちゃんと渡せたわけー?」
愉しげに香織が返していると、控室の扉が開いた。
「なにっ、萌たん、浩平のことが好きなの?」
「る、類たんっっ……!!」
類の指摘に萌が絶句し、テーブルに突っ伏した。どうやら、浩平と入れ替わりに類が休憩に入ったようだ。
「わぁーん、類たんにもバレちゃったーん!! もぉ、ヤダー!!」
「うわぁ、類くんさすが。勘がいいわね」
「ごめん、ごめん。なんとなく、流れでそうなのかと思って。浩平には言わないから、安心してよ」
萌が突っ伏したまま目だけを上げ、類をじとーっと見つめる。
「ぜぇぇったいに、秘密、だから……」
そんな萌に、類が礼儀正しく微笑んだ。
「うん、約束する」
二人のやりとりを見ながら、萌の浩平への恋心をいつか類が利用するような未来が来ないことを、美羽は祈らずにはいられなかった。
萌が安心できたところで、香織が再び口を開いた。
「それで?」
「渡した……けど、送迎のお礼って言ったら……こうたん、普通に『あざーす』って受け取っただけたん。目の前でプレゼント開けようとするから、『もう休憩終わりだよ!!』って必死で止めた、けど……ふわぁぁあああ、恥ずかしかったぁぁぁぁあああっっ!!」
テーブルにぐりぐりと頭を押し付ける萌は、とても可愛らしく美羽の眼に映った。
香織がやれやれといった様子で、首を振る。
「やーっぱり、浩平にはなんも響いてないわね」
ぐりぐりと押し付けていた頭を止め、萌がガバッと顔を上げた。
「かおたんは!?」
「えっ、私?」
香織がビクッと肩を大きく揺らした。
「かおたんも、類たんに何かあげるって言ってなかったん?」
美羽の心臓が、針に刺されたように痛む。
類、は……どう、するの!?
不安な気持ちで見つめていると、類が皿を手にスッと立ち上がった。
「ごめん。休憩時間終わりだから行くよ。
あ、かおりん。別に気ぃ遣わなくていいから」
そうは言ったものの、類が休憩に入ってから10分も経っていないし、手の中の皿は食べかけだった。
「ぇ。あ、あぁ……うん」
香織が曖昧に答えると、「じゃ、おつかれ」と、にこやかな笑顔で類が去っていった。
類は、きっと……あの言葉を、私にも向けたんだよね? 遠回しに、かおりんからのバレンタインのプレゼントを断ったことを、私に伝えたかったんだよね?
硬く尖っていた美羽の心が一瞬で柔らかくなった。
良かっ、た……
嬉しく思いながらも、香織の気持ちを考えると切なくなる。
香織が純粋な気持ちで類を想っているというのに、夫がいる身でありながら弟と密かに愛情を通じさせようとする自分は……なんて穢らわしい生き物なのだろう。
母親に『獣』と罵られたあの頃へ、本当に戻ってもいいのだろうか。赦されるのだろうか。
類が去ると、萌が眉を下げ、上目遣いに香織を見つめた。
「か、かおたんっっ……あ、あの……」
「気にしないで」
謝ろうとした萌の言葉を、香織が遮った。
「萌に無理やり浩平へのバレンタインプレゼント渡させようとした、罰だよね。私、ほんとに……あんたたち二人には、うまくいってほしいって思ってて。勝手なお節介だったよね。
好きな人に振り向いてもらえないって、どんなに辛いか分かってるのに……」
美羽の胸が、ギュッと絞られて苦しくなる。香織に申し訳ない気持ちになってしまう。
もし類が、自分を好きではなかったら。もし自分が、類を完全に突き放すことができていたら……香織と類が恋人になる未来も、あったかもしれないのに。
「バカ、だよね。最近まで不倫してて、それが奥さんにバレて大騒ぎになって、デタントのみんなにも迷惑かけて。そんな私が、誰かに好きになってもらえる資格なんて、ないのに……」
そんなことない、香織のことを好きになってくれる人がいる、そう言いたいのに……熱くなった石が喉に詰まったように、美羽は声を上げることができなかった。
「ちょ、ちょっとかおりん。いくらなんでも、あからさますぎない? あれじゃ……浩平くんに、萌たんの気持ちばれちゃうかも」
「ぜーったい、気づいてるわけないって。あいつ鈍感だから、あれぐらいした方がいいのよ」
だからといって……萌たんにとっては、どうなんだろう。
美羽が悶々とする中、香織はうーんと背を伸ばした。雪は未だやむことなく、ちらちらと舞い、うっすらと駐車場を白く染めていた。
かおりんは、類に……バレンタインのチョコ、渡すつもり……なのかな。
喉から出かけた言葉を飲み下し、香織の横顔を見つめる。すると、香織も美羽を見つめ返した。
「美羽、類くんにチョコあげたんだね」
「あれ、は……デタントのメンバー全員に、毎年あげてるものだから。類だって、一員だし」
本当は、類のために特別に用意したチョコケーキがあるのだとは、言えなかった。
「……そう、だね」
香織が睫毛を震わせ、俯いた。
「っくしゅん!」
美羽だ。躰が冷えて、くしゃみが出てしまった。
「ごめっ! 寒かったよね? もう浩平の休憩時間も終わってるだろうし、中、入ろっか」
裏口の扉を開けたと同時に、控室の扉が同時に開く。
「おつかれーっす」
「浩平、おつかれさまー」
「あ、かおりん!! 仕事終わってからもう1個、チョコもらっていいっすか?」
「もうっ、それ美羽のためのチョコなのに。あと1個だけだからね!」
「やった、ラッキー。じゃ、お先ー」
足取り軽く、浩平が厨房に戻っていく。
「んもぉ、かおたーん!!」
控室に入ると、頬を膨らまして怒りを表現する萌が待っていた。
「フフッ、楽しめた? ねぇねぇ、それで?
ちゃんと渡せたわけー?」
愉しげに香織が返していると、控室の扉が開いた。
「なにっ、萌たん、浩平のことが好きなの?」
「る、類たんっっ……!!」
類の指摘に萌が絶句し、テーブルに突っ伏した。どうやら、浩平と入れ替わりに類が休憩に入ったようだ。
「わぁーん、類たんにもバレちゃったーん!! もぉ、ヤダー!!」
「うわぁ、類くんさすが。勘がいいわね」
「ごめん、ごめん。なんとなく、流れでそうなのかと思って。浩平には言わないから、安心してよ」
萌が突っ伏したまま目だけを上げ、類をじとーっと見つめる。
「ぜぇぇったいに、秘密、だから……」
そんな萌に、類が礼儀正しく微笑んだ。
「うん、約束する」
二人のやりとりを見ながら、萌の浩平への恋心をいつか類が利用するような未来が来ないことを、美羽は祈らずにはいられなかった。
萌が安心できたところで、香織が再び口を開いた。
「それで?」
「渡した……けど、送迎のお礼って言ったら……こうたん、普通に『あざーす』って受け取っただけたん。目の前でプレゼント開けようとするから、『もう休憩終わりだよ!!』って必死で止めた、けど……ふわぁぁあああ、恥ずかしかったぁぁぁぁあああっっ!!」
テーブルにぐりぐりと頭を押し付ける萌は、とても可愛らしく美羽の眼に映った。
香織がやれやれといった様子で、首を振る。
「やーっぱり、浩平にはなんも響いてないわね」
ぐりぐりと押し付けていた頭を止め、萌がガバッと顔を上げた。
「かおたんは!?」
「えっ、私?」
香織がビクッと肩を大きく揺らした。
「かおたんも、類たんに何かあげるって言ってなかったん?」
美羽の心臓が、針に刺されたように痛む。
類、は……どう、するの!?
不安な気持ちで見つめていると、類が皿を手にスッと立ち上がった。
「ごめん。休憩時間終わりだから行くよ。
あ、かおりん。別に気ぃ遣わなくていいから」
そうは言ったものの、類が休憩に入ってから10分も経っていないし、手の中の皿は食べかけだった。
「ぇ。あ、あぁ……うん」
香織が曖昧に答えると、「じゃ、おつかれ」と、にこやかな笑顔で類が去っていった。
類は、きっと……あの言葉を、私にも向けたんだよね? 遠回しに、かおりんからのバレンタインのプレゼントを断ったことを、私に伝えたかったんだよね?
硬く尖っていた美羽の心が一瞬で柔らかくなった。
良かっ、た……
嬉しく思いながらも、香織の気持ちを考えると切なくなる。
香織が純粋な気持ちで類を想っているというのに、夫がいる身でありながら弟と密かに愛情を通じさせようとする自分は……なんて穢らわしい生き物なのだろう。
母親に『獣』と罵られたあの頃へ、本当に戻ってもいいのだろうか。赦されるのだろうか。
類が去ると、萌が眉を下げ、上目遣いに香織を見つめた。
「か、かおたんっっ……あ、あの……」
「気にしないで」
謝ろうとした萌の言葉を、香織が遮った。
「萌に無理やり浩平へのバレンタインプレゼント渡させようとした、罰だよね。私、ほんとに……あんたたち二人には、うまくいってほしいって思ってて。勝手なお節介だったよね。
好きな人に振り向いてもらえないって、どんなに辛いか分かってるのに……」
美羽の胸が、ギュッと絞られて苦しくなる。香織に申し訳ない気持ちになってしまう。
もし類が、自分を好きではなかったら。もし自分が、類を完全に突き放すことができていたら……香織と類が恋人になる未来も、あったかもしれないのに。
「バカ、だよね。最近まで不倫してて、それが奥さんにバレて大騒ぎになって、デタントのみんなにも迷惑かけて。そんな私が、誰かに好きになってもらえる資格なんて、ないのに……」
そんなことない、香織のことを好きになってくれる人がいる、そう言いたいのに……熱くなった石が喉に詰まったように、美羽は声を上げることができなかった。
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