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376.萌への後押し
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「うきゃー、ランチ嬉しいたーん♪」
疲れを見せない萌に笑みを浮かべ、テーブルに皿を並べる。隼斗は今日のランチコースのメインディッシュであるチキンモーレを、従業員である美羽たちにも出してくれていた。
チキンモーレは、煮込みソースにチョコレートとピーナッツバターが入っているメキシカン料理だ。
試食で説明された時には、美味しいのだろうかと疑問だったが、食べてみるとチリパウダーやハラペーニョ、ガーリックが入っているせいか甘味は強くなく、かと言って辛いわけでもなく、濃厚で、今まで食べたどのソースとも似ていない独特な風味で、後を引くような美味しさだった。
香織、美羽が横に並び、萌が向かい側に座る。話題はやはり仕事が中心となる。
「萌たんの手作りクッキー、お客様に好評だったよ。初めて来店したお客様に、手作りなんですって説明したら、すっごく驚いてたよ」
「良かったーん❤️ 早起きして、がんばったんたーん」
「おぉ、えらいえらい」
食事を終えた香織がスプーンを置き、ちらりと萌を見つめた。
「萌、浩平にいつチョコ渡すつもり?」
ゴホッ、ゴホゴホッ……
萌がご飯を喉に詰まらせ、咽せた。そんな萌に構わず、香織が再度問い詰める。
「持ってきたんでしょ?」
萌はハンカチを取り出して口の周りを拭き取ると、顔を赤くした。
「持ってきた、けど……まだ渡すかどうかはっ」
「浩平、萌にもらえるの楽しみにしてるって」
「それは、萌たんだけじゃなく、美羽たんやかおたんにだってそうだもん。萌たん、知ってるたん!」
ずばりと言われて返せなくなった香織に代わり、美羽が答える。
「浩平くんね、萌たんのお客さんへの心遣いとか、カフェに対しての仕事熱心なところとか尊敬するって話してたよ」
「えっ、こうたんが!?」
「ほらほらー、脈あるんじゃない?」
無責任な香織の言葉にハラハラしてしまう。それに乗せられて告白して、うまくいかなかったらと、萌が心配になる。
「別、に……お礼、するだけだもん」
不安そうな表情を見せる萌に、美羽が優しく頷いた。
「うん。浩平くん、喜ぶと思うよ」
その時、ガチャッと扉が開いた。
「俺がなんすかー?」
「ひゃひゃっ!! こうたん!!
なんで、ここにっ!?」
「うわっ、萌たんひでー。隼斗さんが、食べれるうちに食べとけって休憩行かせてくれたんすよ。10分だけだけど」
「えっ、10分!? 食べられるの?」
10分で食事を終えるなんて、とてもじゃないが美羽には無理だ。
「余裕っすよー。あっ、そうだ!! 美羽さん、あのチョコ1個もらってもいいっすか?」
「うん。今、出すね」
バッグからチョコレートを出し、包装紙を丁寧に剥がす。箱は包みと同じくゴールドで、ブルーのリボンが斜めに掛かっていた。箱を開けるとブルーの千鳥格子のデザインで縁取られていて、とてもお洒落だ。美しく詰められたチョコレートは1個1個が芸術品のようで、食べるのがもったいなく感じる。
「うわぁ、すげぇ!!」
「うわぁ、素敵ぃ!!」
浩平と萌が同時に感嘆の声を上げる。
「ふふっ。萌たんもどうぞ。かおりんから貰ったものだけど」
「ふわぁ、いいのぉ? 迷っちゃーう」
「俺も。すげー迷う」
顔を突き合わせてチョコレートの箱を覗き込むふたりが可愛らしく、美羽は笑みを浮かべた。
浩平は、カライブという見た目はすっきりとシンプルなチョコレートを手に取った。カリブ産の上質なカカオを使った、バランスのとれたビターガナッシュだ。
口に摘んだ途端、叫び声をあげた。
「うっ……わぁぁ!! 鳥肌たつー!! なんだ、この口当たり……ふわっ!! 鼻まで香りが突き抜ける……わぁぁ、しくじったぁ。ランチの後に食べれば良かった。舌から消したくねー!!」
興奮を隠しきれない浩平に、萌がクスクス笑う。
「こうたん、テンション上がりすぎー」
「だって、マジで旨いんだってば。あー、萌たんの選んだチョコも旨そう……」
「だーめ。あげないたーん!」
傍目から見ていると、既に恋人同士のような雰囲気のふたりを認め、香織がすくっと立ち上がった。
「あ、そうだ。用事思い出しから、美羽、ちょっと付き合って」
「う、うん」
明らかに二人きりにしようという香織の意図が見え、萌が慌てまくった。
「ちょ、ちょっと、かおたんっっ!!」
すると、浩平が思い出したように尋ねた。
「あ、そういやさっきの話ってなんだったんすか? ほら、俺の話してたっしょ?」
「あぁ、萌が浩平にバレンタイン渡すって話してたんだよね?」
香織がサラッと暴露し、萌の顔から血の気が引き、美羽も絶句した。
ちょっ、かおりん……
「そうだ! まだ俺、萌たんから貰ってなかったんだったー。よっしゃぁ、3人目っっ!!」
萌の気持ちなど露知らず、浩平は嬉しそうにガッツポーズをした。萌から本命のバレンタインが貰えるなど、頭の片隅にも思っていないようだ。
「じゃ、ごゆっくり~」
香織が、笑顔で手を振る。
萌のことを心配しながら、そこに残ることもできず、仕方なく美羽も立ち上がった。縋るような視線で萌に見つめられ、申し訳なく感じる。
ごめんね、萌たん。どうか、頑張って……
疲れを見せない萌に笑みを浮かべ、テーブルに皿を並べる。隼斗は今日のランチコースのメインディッシュであるチキンモーレを、従業員である美羽たちにも出してくれていた。
チキンモーレは、煮込みソースにチョコレートとピーナッツバターが入っているメキシカン料理だ。
試食で説明された時には、美味しいのだろうかと疑問だったが、食べてみるとチリパウダーやハラペーニョ、ガーリックが入っているせいか甘味は強くなく、かと言って辛いわけでもなく、濃厚で、今まで食べたどのソースとも似ていない独特な風味で、後を引くような美味しさだった。
香織、美羽が横に並び、萌が向かい側に座る。話題はやはり仕事が中心となる。
「萌たんの手作りクッキー、お客様に好評だったよ。初めて来店したお客様に、手作りなんですって説明したら、すっごく驚いてたよ」
「良かったーん❤️ 早起きして、がんばったんたーん」
「おぉ、えらいえらい」
食事を終えた香織がスプーンを置き、ちらりと萌を見つめた。
「萌、浩平にいつチョコ渡すつもり?」
ゴホッ、ゴホゴホッ……
萌がご飯を喉に詰まらせ、咽せた。そんな萌に構わず、香織が再度問い詰める。
「持ってきたんでしょ?」
萌はハンカチを取り出して口の周りを拭き取ると、顔を赤くした。
「持ってきた、けど……まだ渡すかどうかはっ」
「浩平、萌にもらえるの楽しみにしてるって」
「それは、萌たんだけじゃなく、美羽たんやかおたんにだってそうだもん。萌たん、知ってるたん!」
ずばりと言われて返せなくなった香織に代わり、美羽が答える。
「浩平くんね、萌たんのお客さんへの心遣いとか、カフェに対しての仕事熱心なところとか尊敬するって話してたよ」
「えっ、こうたんが!?」
「ほらほらー、脈あるんじゃない?」
無責任な香織の言葉にハラハラしてしまう。それに乗せられて告白して、うまくいかなかったらと、萌が心配になる。
「別、に……お礼、するだけだもん」
不安そうな表情を見せる萌に、美羽が優しく頷いた。
「うん。浩平くん、喜ぶと思うよ」
その時、ガチャッと扉が開いた。
「俺がなんすかー?」
「ひゃひゃっ!! こうたん!!
なんで、ここにっ!?」
「うわっ、萌たんひでー。隼斗さんが、食べれるうちに食べとけって休憩行かせてくれたんすよ。10分だけだけど」
「えっ、10分!? 食べられるの?」
10分で食事を終えるなんて、とてもじゃないが美羽には無理だ。
「余裕っすよー。あっ、そうだ!! 美羽さん、あのチョコ1個もらってもいいっすか?」
「うん。今、出すね」
バッグからチョコレートを出し、包装紙を丁寧に剥がす。箱は包みと同じくゴールドで、ブルーのリボンが斜めに掛かっていた。箱を開けるとブルーの千鳥格子のデザインで縁取られていて、とてもお洒落だ。美しく詰められたチョコレートは1個1個が芸術品のようで、食べるのがもったいなく感じる。
「うわぁ、すげぇ!!」
「うわぁ、素敵ぃ!!」
浩平と萌が同時に感嘆の声を上げる。
「ふふっ。萌たんもどうぞ。かおりんから貰ったものだけど」
「ふわぁ、いいのぉ? 迷っちゃーう」
「俺も。すげー迷う」
顔を突き合わせてチョコレートの箱を覗き込むふたりが可愛らしく、美羽は笑みを浮かべた。
浩平は、カライブという見た目はすっきりとシンプルなチョコレートを手に取った。カリブ産の上質なカカオを使った、バランスのとれたビターガナッシュだ。
口に摘んだ途端、叫び声をあげた。
「うっ……わぁぁ!! 鳥肌たつー!! なんだ、この口当たり……ふわっ!! 鼻まで香りが突き抜ける……わぁぁ、しくじったぁ。ランチの後に食べれば良かった。舌から消したくねー!!」
興奮を隠しきれない浩平に、萌がクスクス笑う。
「こうたん、テンション上がりすぎー」
「だって、マジで旨いんだってば。あー、萌たんの選んだチョコも旨そう……」
「だーめ。あげないたーん!」
傍目から見ていると、既に恋人同士のような雰囲気のふたりを認め、香織がすくっと立ち上がった。
「あ、そうだ。用事思い出しから、美羽、ちょっと付き合って」
「う、うん」
明らかに二人きりにしようという香織の意図が見え、萌が慌てまくった。
「ちょ、ちょっと、かおたんっっ!!」
すると、浩平が思い出したように尋ねた。
「あ、そういやさっきの話ってなんだったんすか? ほら、俺の話してたっしょ?」
「あぁ、萌が浩平にバレンタイン渡すって話してたんだよね?」
香織がサラッと暴露し、萌の顔から血の気が引き、美羽も絶句した。
ちょっ、かおりん……
「そうだ! まだ俺、萌たんから貰ってなかったんだったー。よっしゃぁ、3人目っっ!!」
萌の気持ちなど露知らず、浩平は嬉しそうにガッツポーズをした。萌から本命のバレンタインが貰えるなど、頭の片隅にも思っていないようだ。
「じゃ、ごゆっくり~」
香織が、笑顔で手を振る。
萌のことを心配しながら、そこに残ることもできず、仕方なく美羽も立ち上がった。縋るような視線で萌に見つめられ、申し訳なく感じる。
ごめんね、萌たん。どうか、頑張って……
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