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375.隣に立っていてほしい人
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今日のデタントはクリスマスと同じく完全予約制にしているため、忙しくはあるものの、客の流れが掴めているのでバタバタすることはない。
店内にはボサノバが流れ、明るい中でもリラックスした雰囲気が漂っている。各テーブルには真紅のミニバラがハート型に並べて置かれており、バレンタインに彩りを添えている。
ランチコースはディナーと比べて品数が少ない分、低価格となっている。金曜ということもあり、ランチでの予約はカップルだけでなく、近くで勤めている会社員や主婦たちの予約も多く入っていた。
オープンと同時に入ってきたのは、いつも腕を組み、仲良くランチに来る、常連の老夫婦だった。クリスマスやバレンタインといった特別なイベントにも、必ず予約をとって食事に来てくれる。
薔薇の花弁を模ったサーモンに、葉っぱに見立てたルッコラのアペタイザーを、美羽は丁寧にサーブしながら説明した。
「アトランティックサーモンとルッコラのレモン風味サラダです」
「まぁ、素敵。ねぇ、和夫さん?」
「あぁ、幸子さん。見た目にも愉しい、素晴らしい一皿だ」
柔らかく微笑み合う二人に、幸せを分けてもらったような心持ちになる。
こんな風に互いを思いやり、慈しみ合い、愛し合って年月を重ねていけたら……どんなに幸せだろう。
歳を重ねた自分を思い浮かべた時、隣に立っているのは誰なのか。誰であってほしいのか。
そう考えた時、胸に浮かぶのはひとりだけだった。
レジでは、萌が可愛らしく包装されたハート型のチョコクッキーをお客様に渡していた。クッキーには「Happy Valentine❤️」の文字が踊っている。早朝ここに来て、大量のクッキーにひとつひとつ丁寧に文字入れをしたのだ。
「素敵なバレンタインをお過ごしくださいねっ!」
愛らしい笑顔を見せる萌に、常連である萌のファンの男性ふたりは耳まで真っ赤にし、両手で手作りクッキーを受け取っていた。
萌にもどうか、幸せなバレンタインが訪れますようにと、美羽は心の中で密かに祈った。
明るく陽気な雰囲気の中、それぞれのテーブルで話に花が咲き、笑顔が溢れていた。
ランチタイムの最後のお客様を見送り、ふぅと息を吐く。
「長かったわねぇ、あのお客さん」
香織の言葉に、美羽と萌が頷く。
今日はカフェタイムがないから良かったものの、ディナータイムの準備を考えると、あまりのんびりもしていられない。
「美羽」
カウンター越しに、隼斗に呼ばれた。
速足で向かっていくと、カウンターに皿をコトンと置かれた。
「こっちは忙しくてまだ昼飯に入れそうにないから、お前たちは控室で先に食べてきてくれ」
「何か、お手伝いすることある? もし、洗い物とかあればやるよ?」
チラッとカウンター越しに覗くと、類も浩平も忙しく動き回っている。
「いや、大丈夫だ。ディナーは5時からスタートだから、よろしく」
「うん……」
まだ隼斗にだけ、チョコレートを渡せていない。休憩時間に渡すつもりだったが、それもどうやら無理のようだ。
皿を受け取ろうとカウンターに手をのばしてると、類がチラッとこちらを見て、微笑んだ。天使のような笑みに、まるでそこだけ光が瞬いているような錯覚に陥り、視線が縫い留められてしまう。
「ッ!」
不意打ちの類の笑顔、心臓に悪い……
「美羽? どうかしたか?」
隼斗に不審げに顔を覗き込まれ、慌てて首を振り、皿を受け取った。
「ううん。じゃあ、休憩入らせてもらうね」
店内にはボサノバが流れ、明るい中でもリラックスした雰囲気が漂っている。各テーブルには真紅のミニバラがハート型に並べて置かれており、バレンタインに彩りを添えている。
ランチコースはディナーと比べて品数が少ない分、低価格となっている。金曜ということもあり、ランチでの予約はカップルだけでなく、近くで勤めている会社員や主婦たちの予約も多く入っていた。
オープンと同時に入ってきたのは、いつも腕を組み、仲良くランチに来る、常連の老夫婦だった。クリスマスやバレンタインといった特別なイベントにも、必ず予約をとって食事に来てくれる。
薔薇の花弁を模ったサーモンに、葉っぱに見立てたルッコラのアペタイザーを、美羽は丁寧にサーブしながら説明した。
「アトランティックサーモンとルッコラのレモン風味サラダです」
「まぁ、素敵。ねぇ、和夫さん?」
「あぁ、幸子さん。見た目にも愉しい、素晴らしい一皿だ」
柔らかく微笑み合う二人に、幸せを分けてもらったような心持ちになる。
こんな風に互いを思いやり、慈しみ合い、愛し合って年月を重ねていけたら……どんなに幸せだろう。
歳を重ねた自分を思い浮かべた時、隣に立っているのは誰なのか。誰であってほしいのか。
そう考えた時、胸に浮かぶのはひとりだけだった。
レジでは、萌が可愛らしく包装されたハート型のチョコクッキーをお客様に渡していた。クッキーには「Happy Valentine❤️」の文字が踊っている。早朝ここに来て、大量のクッキーにひとつひとつ丁寧に文字入れをしたのだ。
「素敵なバレンタインをお過ごしくださいねっ!」
愛らしい笑顔を見せる萌に、常連である萌のファンの男性ふたりは耳まで真っ赤にし、両手で手作りクッキーを受け取っていた。
萌にもどうか、幸せなバレンタインが訪れますようにと、美羽は心の中で密かに祈った。
明るく陽気な雰囲気の中、それぞれのテーブルで話に花が咲き、笑顔が溢れていた。
ランチタイムの最後のお客様を見送り、ふぅと息を吐く。
「長かったわねぇ、あのお客さん」
香織の言葉に、美羽と萌が頷く。
今日はカフェタイムがないから良かったものの、ディナータイムの準備を考えると、あまりのんびりもしていられない。
「美羽」
カウンター越しに、隼斗に呼ばれた。
速足で向かっていくと、カウンターに皿をコトンと置かれた。
「こっちは忙しくてまだ昼飯に入れそうにないから、お前たちは控室で先に食べてきてくれ」
「何か、お手伝いすることある? もし、洗い物とかあればやるよ?」
チラッとカウンター越しに覗くと、類も浩平も忙しく動き回っている。
「いや、大丈夫だ。ディナーは5時からスタートだから、よろしく」
「うん……」
まだ隼斗にだけ、チョコレートを渡せていない。休憩時間に渡すつもりだったが、それもどうやら無理のようだ。
皿を受け取ろうとカウンターに手をのばしてると、類がチラッとこちらを見て、微笑んだ。天使のような笑みに、まるでそこだけ光が瞬いているような錯覚に陥り、視線が縫い留められてしまう。
「ッ!」
不意打ちの類の笑顔、心臓に悪い……
「美羽? どうかしたか?」
隼斗に不審げに顔を覗き込まれ、慌てて首を振り、皿を受け取った。
「ううん。じゃあ、休憩入らせてもらうね」
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