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387.大切な、友達
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フロアはふたりだけのため、香織と美羽は完全にかぶらない形でランチ休憩に入る。
美羽が控室に入ろうとすると、同時に厨房の扉から浩平が出てきた。
「おつかれーっす」
いつもなら癒されるはずの浩平の笑顔が、今日は異なった感情を芽生えさせる。萌が傷つき、苦しんでいるのに平気でいられるなんて、無神経だと思わずにいられなかった。
控室に入り、向かい合う形に座ると、いつもなら真っ先にまかないを勢いよく食べ始める浩平が手をつけない。
そこで美羽は、話を切り出すことにした。
「昨日、ね……萌たんから電話がきたの」
浩平が改まった表情で、姿勢を正す。
「それで、なんて言ってました?」
「……浩平くんに、振られたって。顔、合わせられないから……デタント休ませてって」
「うぇっっ!?
俺、萌たん振ったことになってんすか!?」
浩平は椅子をガタンと大きく鳴らし、体勢を崩した。
美羽は、浩平の反応に目を丸くした。
そ、それじゃぁ……もしかして、浩平くんが萌たんを振ったっていうのは、萌たんの誤解だったの?
「……ねぇ、私、萌たんから詳しい話聞いてないんだけど、昨日、何があったの?」
浩平は「うわぁ、マジか……」と言いながら、椅子に座り直した。顔半分を右手で多い、テーブルに肘をつく。
「昨日、萌たんを家まで送ったんすけど、俺、プレゼントの中身がめちゃめちゃ気になって。どうせ開けるんだし、今ここで開けてお礼言っとこうと思って、萌たんが止めるの聞かずにプレゼント開けたんすよね。
そしたら、パーカーが入ってたんすよ」
意味ありげに言われても美羽にはピンとこず、「そう、なんだ」と曖昧に相槌を打った。
「正月にスノボ行った時、俺めっちゃ寒がりなんで、死にそうだったんすよ。そんで、類がパーカー貸してくれたんすけど、すっげー気に入って。類にどこで買ったのか聞いてスマホ検索したんすけど、めちゃめちゃ高くて、んなもん買えねーって話してたら……
萌たんがくれたの、それだったんすよね」
「あぁ……」
それで、先ほどの浩平の意味が分かった。
「俺、すげーびびって、『嬉しいけど、こんなの本命へのプレゼントだって! 送迎のお礼ぐらいでもらえないから!』って返そうとしたんすよね。そしたら、萌たんが強引に『いいからもらって!』って押し付けてきて。『いやいや、こういうのは好きな人にあげた方がいいって! 俺、マジで申し訳ないし』って押し問答になったら、萌たんが俺にパーカーを押し返しながら、
『これ、本命だから!!』
って、言われたんすよね……」
美羽の心臓が、キュッと縮まった。
そういうこと、だったんだ。
萌たんは告白するつもりじゃなかったのに、その場の感情に任せて言っちゃったんだ……
浩平はその時の状況を思い出したのか、手で髪をグシャグシャに掻き回しながら、早口で巻き立てた。
「俺、頭ん中『?』だらけになって、何言われたのか分かんなくて。
『ぇ!? だって、俺ら友達じゃん?』って返したら、萌たんが車から出て、帰っちゃったんすよね……
実は正直、今もまだよく分かってないっつーか。萌たんが仕掛けたドッキリか何かなのかなって、昨日まで考えてて……でもLINE既読スルーだし、今日仕事来たら、萌たん休みだっていうし」
疑うような浩平の言葉に、美羽が思わず声を荒げた。
「ドッキリなわけないでしょ!
萌たんは……真剣に、浩平くんのことが好きで……きっと、プレゼントも浩平くんが気に入るようなものを一生懸命考えて選んだんだよ!」
いつも大人しく穏やかな美羽のそんな態度に慄き、浩平が声を上擦らせた。
「だ、だってさ、俺らほんとにふつーにダチって感じで。萌たんとは、からかったり、冗談言ったり、互いのカレカノ紹介したり……俺にとって、大切な、女友達で。
萌たんのこと、女として好きとか、彼女として付き合うとか、そんなこと考えたこともなかった……」
それから顔を青ざめさせ、頭を抱えた。
「うっわぁぁ、あれ、告白だったのかー!! それで、萌たんは俺に振られたと思って、仕事休んで……
あー、やべぇ。俺、萌たん傷つけたんすよねぇ? うわぁ、萌たんデタント辞めたらどうしよー。俺のせいだぁ!!」
先ほどまでは萌の代弁をすることで頭がいっぱいだった美羽だが、浩平の気持ちも知って同情した。
浩平くんは浩平くんで、萌たんのことを大切に思ってて……こんな状況になっちゃって、浩平くんもまた、苦しんでるんだ。
そんな彼を、責められるはずない。
「ごめん、ね……浩平くんの気持ちも考えずに、私……一方的に責めて」
美羽が謝ると、浩平は頭を上げて大きく両手をブンブンと振った。
「え。えぇっ!? いやいや、美羽さんはなんも悪くないっすから! むしろ、教えてくれてマジで助かったってゆーか!
あー、でもこれからどうすんだ。萌たんの家に俺が行ったら、まずいっすかねぇ? 顔、合わせたくないって言ってたんすよねぇ?
電話で謝るか……いや、そしたら萌たん、ますます傷つけるかなぁ。うわぁ、どうすりゃいいんだぁぁ!!」
浩平は完全にテンパっていた。
「俺のせいで萌たんデタントやめたら、隼斗さんに怒られて、萌たんファンに恨まれて、萌たんのラテアートで毎回インスタ乗っけてる女子どもに責められるー!!
いや、保身してる場合じゃねー。大切な仲間なのに、ずっと一緒にがんばってきたのに……俺の、俺のせいでぇぇぇぇ」
抱えた頭を激しくブンブン振る。
「こ、浩平くんっ、落ち着いてっ!
浩平くんも……萌たんも、しばらくは気まずい思いをするかもしれないけど、きっと時間が経てば、また話したり、笑いあったりできるようになるよ」
浩平の頭がピタと止まる。力のない、低い声が落ちた。
「俺、嫌だ。萌たんを失いたくないっすよ……大切な、友達なのに」
『大切な、友達』
ーーそれはきっと、萌にとって今一番聞きたくない言葉だろう。
どうしたら、ふたりが笑顔でいられるようになるのかな。
美羽は、きつく唇を噛みしめた。
美羽が控室に入ろうとすると、同時に厨房の扉から浩平が出てきた。
「おつかれーっす」
いつもなら癒されるはずの浩平の笑顔が、今日は異なった感情を芽生えさせる。萌が傷つき、苦しんでいるのに平気でいられるなんて、無神経だと思わずにいられなかった。
控室に入り、向かい合う形に座ると、いつもなら真っ先にまかないを勢いよく食べ始める浩平が手をつけない。
そこで美羽は、話を切り出すことにした。
「昨日、ね……萌たんから電話がきたの」
浩平が改まった表情で、姿勢を正す。
「それで、なんて言ってました?」
「……浩平くんに、振られたって。顔、合わせられないから……デタント休ませてって」
「うぇっっ!?
俺、萌たん振ったことになってんすか!?」
浩平は椅子をガタンと大きく鳴らし、体勢を崩した。
美羽は、浩平の反応に目を丸くした。
そ、それじゃぁ……もしかして、浩平くんが萌たんを振ったっていうのは、萌たんの誤解だったの?
「……ねぇ、私、萌たんから詳しい話聞いてないんだけど、昨日、何があったの?」
浩平は「うわぁ、マジか……」と言いながら、椅子に座り直した。顔半分を右手で多い、テーブルに肘をつく。
「昨日、萌たんを家まで送ったんすけど、俺、プレゼントの中身がめちゃめちゃ気になって。どうせ開けるんだし、今ここで開けてお礼言っとこうと思って、萌たんが止めるの聞かずにプレゼント開けたんすよね。
そしたら、パーカーが入ってたんすよ」
意味ありげに言われても美羽にはピンとこず、「そう、なんだ」と曖昧に相槌を打った。
「正月にスノボ行った時、俺めっちゃ寒がりなんで、死にそうだったんすよ。そんで、類がパーカー貸してくれたんすけど、すっげー気に入って。類にどこで買ったのか聞いてスマホ検索したんすけど、めちゃめちゃ高くて、んなもん買えねーって話してたら……
萌たんがくれたの、それだったんすよね」
「あぁ……」
それで、先ほどの浩平の意味が分かった。
「俺、すげーびびって、『嬉しいけど、こんなの本命へのプレゼントだって! 送迎のお礼ぐらいでもらえないから!』って返そうとしたんすよね。そしたら、萌たんが強引に『いいからもらって!』って押し付けてきて。『いやいや、こういうのは好きな人にあげた方がいいって! 俺、マジで申し訳ないし』って押し問答になったら、萌たんが俺にパーカーを押し返しながら、
『これ、本命だから!!』
って、言われたんすよね……」
美羽の心臓が、キュッと縮まった。
そういうこと、だったんだ。
萌たんは告白するつもりじゃなかったのに、その場の感情に任せて言っちゃったんだ……
浩平はその時の状況を思い出したのか、手で髪をグシャグシャに掻き回しながら、早口で巻き立てた。
「俺、頭ん中『?』だらけになって、何言われたのか分かんなくて。
『ぇ!? だって、俺ら友達じゃん?』って返したら、萌たんが車から出て、帰っちゃったんすよね……
実は正直、今もまだよく分かってないっつーか。萌たんが仕掛けたドッキリか何かなのかなって、昨日まで考えてて……でもLINE既読スルーだし、今日仕事来たら、萌たん休みだっていうし」
疑うような浩平の言葉に、美羽が思わず声を荒げた。
「ドッキリなわけないでしょ!
萌たんは……真剣に、浩平くんのことが好きで……きっと、プレゼントも浩平くんが気に入るようなものを一生懸命考えて選んだんだよ!」
いつも大人しく穏やかな美羽のそんな態度に慄き、浩平が声を上擦らせた。
「だ、だってさ、俺らほんとにふつーにダチって感じで。萌たんとは、からかったり、冗談言ったり、互いのカレカノ紹介したり……俺にとって、大切な、女友達で。
萌たんのこと、女として好きとか、彼女として付き合うとか、そんなこと考えたこともなかった……」
それから顔を青ざめさせ、頭を抱えた。
「うっわぁぁ、あれ、告白だったのかー!! それで、萌たんは俺に振られたと思って、仕事休んで……
あー、やべぇ。俺、萌たん傷つけたんすよねぇ? うわぁ、萌たんデタント辞めたらどうしよー。俺のせいだぁ!!」
先ほどまでは萌の代弁をすることで頭がいっぱいだった美羽だが、浩平の気持ちも知って同情した。
浩平くんは浩平くんで、萌たんのことを大切に思ってて……こんな状況になっちゃって、浩平くんもまた、苦しんでるんだ。
そんな彼を、責められるはずない。
「ごめん、ね……浩平くんの気持ちも考えずに、私……一方的に責めて」
美羽が謝ると、浩平は頭を上げて大きく両手をブンブンと振った。
「え。えぇっ!? いやいや、美羽さんはなんも悪くないっすから! むしろ、教えてくれてマジで助かったってゆーか!
あー、でもこれからどうすんだ。萌たんの家に俺が行ったら、まずいっすかねぇ? 顔、合わせたくないって言ってたんすよねぇ?
電話で謝るか……いや、そしたら萌たん、ますます傷つけるかなぁ。うわぁ、どうすりゃいいんだぁぁ!!」
浩平は完全にテンパっていた。
「俺のせいで萌たんデタントやめたら、隼斗さんに怒られて、萌たんファンに恨まれて、萌たんのラテアートで毎回インスタ乗っけてる女子どもに責められるー!!
いや、保身してる場合じゃねー。大切な仲間なのに、ずっと一緒にがんばってきたのに……俺の、俺のせいでぇぇぇぇ」
抱えた頭を激しくブンブン振る。
「こ、浩平くんっ、落ち着いてっ!
浩平くんも……萌たんも、しばらくは気まずい思いをするかもしれないけど、きっと時間が経てば、また話したり、笑いあったりできるようになるよ」
浩平の頭がピタと止まる。力のない、低い声が落ちた。
「俺、嫌だ。萌たんを失いたくないっすよ……大切な、友達なのに」
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