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457.絵麻がやめた理由
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公園の近くにコンビニがあったが、龍也はそれを無視して歩いた。
「あの、龍也さん。コンビニ……」
「そう急がへんでもええやろ。前に言ったやろ。自分とは、ゆっくり話したかってん。
それに、せっかくお花見来てるんやし、屋台でなんか買いたいしな」
目黒川へと向かって歩く龍也の背中が大きく、近寄り難く感じた。
沈黙が恐くて、美羽は龍也に話しかけた。
「さっき、龍也さんと隼斗兄さんが喋ってるところを見てたら、昔のことを思い出しました……あの頃も、あんな風にお互いに言い合ってたなって」
ふっと見せた龍也の横顔から、口元が綻んだ。
「ほんま、楽しかったわ。俺と隼斗と絵麻と……いっつもふざけあっとったなぁ」
「絵麻さん。どうしてるんでしょうね……」
幸せにしてるといいな。
美羽がしんみりと言うと、龍也の歩みが止まった。
龍也が、ボソッと呟く。
「あんた、ええかげんにしよし」
美羽も慌てて止まった途端、後ろから歩いていた通行人にぶつかりそうになり、舌打ちされた。
「ぇ。龍也さん? 歩かないと、通行の邪魔に……」
「ほんま、よう言うわ。なんも知らんと」
「え?」
龍也が美羽に振り返り、目を大きく開けて吊り上げた。
「絵麻がデタント辞めたんは、自分のせいやねんで」
美羽の瞳が、みるみる大きく見開かれる。
絵麻さんが、私のせいで!?
「どう、して……」
必死で記憶の糸を手繰っていく。自分が絵麻の気に入らないことをしたのだろうか。何か、不用意な発言をしたのだろうか。彼女を傷つけるような何かが、あったのだろうか。
考え込む美羽の上から、龍也の冷たい声が降ってくる。
「わからへんの?」
「教、えて……ください」
美羽は、コクリと喉を鳴らした。龍也が無造作に髪を掻き上げてクシャクシャッと乱すと、ギリッと歯を鳴らした。
「隼斗と絵麻が絵麻の両親とこに結婚の承諾の挨拶に行くっちゅう日に、隼斗は誰かさんの呼び出しで仕事ほっぽり出して、そのまま帰ってこーへんやった。
そら、絵麻の両親はカンカンやで。しかも、オーナーは隼斗のことえらい信用しはっとったんやさかいな。
隼斗が謝りに行ったらしけど……その後、絵麻は隼斗に別れを告げたんや」
ぇ。その日って、まさか……
美羽の顔が、一気に蒼白になった。
大学の卒業式の日。
類が迎えに来てくれなかったことに絶望して、間近に迫った義昭さんとの結婚式が恐くなって……私は、自殺しようとした。でも、そんなことをするぐらいなら、アメリカにいる類に会いに行こうと決意して家出しようとした。その矢先……お母さんに見つかり、暴行を受けていたところを隼斗兄さんに助けられた。
それが、絵麻さんのご両親に結婚の挨拶に伺う日だったなんて……
あの時、私が類に会いに行こうなんて思わなければ。義昭さんとの結婚を受け入れていれば。隼斗兄さんに、電話をしなければ……今頃、隼斗兄さんは絵麻さんと幸せな結婚生活をしていたはずなのに。
知ら、なかった……隼斗兄さんは、そんなこと一言も言わずに、私のそばに、ずっと付き添ってくれた。私は、その間、類に会いに行けなかった悲しみでいっぱいだった。隼斗兄さんがどんな状況にあるかなんて、考えもしなかった。
『申し訳ないと思うなら……早く結婚して、俺を安心させてくれ』
あの言葉を、隼斗兄さんはどんな思いで私に掛けてくれたのだろう。きっと、絵麻さんのことが心配で堪らなかったに違いないのに。
きっと隼斗兄さんは、絵麻さんに責められても、何も言い訳をしなかったに違いない。私が、お母さんのことを誰にも言わないでって頼んだから……私との約束を、守るために。
それで、絵麻さんは傷ついて……隼斗兄さんに別れを告げたんだ。だから、私にもなんの連絡もせず、デタントをやめて、引越しまでして……去ってしまったんだ。
私の、私のせいだ……ごめん、ごめんなさい、隼斗兄さん……絵麻さん。
「あの、龍也さん。コンビニ……」
「そう急がへんでもええやろ。前に言ったやろ。自分とは、ゆっくり話したかってん。
それに、せっかくお花見来てるんやし、屋台でなんか買いたいしな」
目黒川へと向かって歩く龍也の背中が大きく、近寄り難く感じた。
沈黙が恐くて、美羽は龍也に話しかけた。
「さっき、龍也さんと隼斗兄さんが喋ってるところを見てたら、昔のことを思い出しました……あの頃も、あんな風にお互いに言い合ってたなって」
ふっと見せた龍也の横顔から、口元が綻んだ。
「ほんま、楽しかったわ。俺と隼斗と絵麻と……いっつもふざけあっとったなぁ」
「絵麻さん。どうしてるんでしょうね……」
幸せにしてるといいな。
美羽がしんみりと言うと、龍也の歩みが止まった。
龍也が、ボソッと呟く。
「あんた、ええかげんにしよし」
美羽も慌てて止まった途端、後ろから歩いていた通行人にぶつかりそうになり、舌打ちされた。
「ぇ。龍也さん? 歩かないと、通行の邪魔に……」
「ほんま、よう言うわ。なんも知らんと」
「え?」
龍也が美羽に振り返り、目を大きく開けて吊り上げた。
「絵麻がデタント辞めたんは、自分のせいやねんで」
美羽の瞳が、みるみる大きく見開かれる。
絵麻さんが、私のせいで!?
「どう、して……」
必死で記憶の糸を手繰っていく。自分が絵麻の気に入らないことをしたのだろうか。何か、不用意な発言をしたのだろうか。彼女を傷つけるような何かが、あったのだろうか。
考え込む美羽の上から、龍也の冷たい声が降ってくる。
「わからへんの?」
「教、えて……ください」
美羽は、コクリと喉を鳴らした。龍也が無造作に髪を掻き上げてクシャクシャッと乱すと、ギリッと歯を鳴らした。
「隼斗と絵麻が絵麻の両親とこに結婚の承諾の挨拶に行くっちゅう日に、隼斗は誰かさんの呼び出しで仕事ほっぽり出して、そのまま帰ってこーへんやった。
そら、絵麻の両親はカンカンやで。しかも、オーナーは隼斗のことえらい信用しはっとったんやさかいな。
隼斗が謝りに行ったらしけど……その後、絵麻は隼斗に別れを告げたんや」
ぇ。その日って、まさか……
美羽の顔が、一気に蒼白になった。
大学の卒業式の日。
類が迎えに来てくれなかったことに絶望して、間近に迫った義昭さんとの結婚式が恐くなって……私は、自殺しようとした。でも、そんなことをするぐらいなら、アメリカにいる類に会いに行こうと決意して家出しようとした。その矢先……お母さんに見つかり、暴行を受けていたところを隼斗兄さんに助けられた。
それが、絵麻さんのご両親に結婚の挨拶に伺う日だったなんて……
あの時、私が類に会いに行こうなんて思わなければ。義昭さんとの結婚を受け入れていれば。隼斗兄さんに、電話をしなければ……今頃、隼斗兄さんは絵麻さんと幸せな結婚生活をしていたはずなのに。
知ら、なかった……隼斗兄さんは、そんなこと一言も言わずに、私のそばに、ずっと付き添ってくれた。私は、その間、類に会いに行けなかった悲しみでいっぱいだった。隼斗兄さんがどんな状況にあるかなんて、考えもしなかった。
『申し訳ないと思うなら……早く結婚して、俺を安心させてくれ』
あの言葉を、隼斗兄さんはどんな思いで私に掛けてくれたのだろう。きっと、絵麻さんのことが心配で堪らなかったに違いないのに。
きっと隼斗兄さんは、絵麻さんに責められても、何も言い訳をしなかったに違いない。私が、お母さんのことを誰にも言わないでって頼んだから……私との約束を、守るために。
それで、絵麻さんは傷ついて……隼斗兄さんに別れを告げたんだ。だから、私にもなんの連絡もせず、デタントをやめて、引越しまでして……去ってしまったんだ。
私の、私のせいだ……ごめん、ごめんなさい、隼斗兄さん……絵麻さん。
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