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456.不安なふたりきり

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 龍也が、隼斗越しに類を覗き込んだ。

「類、飲んでるか?」
「えぇ」

 あんたのせいで、楽しくない酒をね。

 類は不機嫌な声をあげたが、龍也は気にしていないようだ。類と香織を見つめながら、尋ねてくる。

「なぁ、自分ら付き合うてんねやろ? どんなきっかけで付き合うことになったん?」
「キャーッ、それ、萌たんも聞きたいたーん!」

 盛り上がる萌に、香織が焦った声を上げる。

「萌には、もう話したじゃん!」
「もっかい、聞きたいたーん、何度でもラブラブ話は聞きたいたーん♪」
「だか、ら……」

 香織が言葉に詰まって、類を見上げる。類が先ほどより穏やかな表情になって、説明する。

「バレンタインに香織に告白されて、その時は職場内恋愛ってのを考えて断ったんだけど、思い直して翌日に僕から告白したんだよね?」
「うん……」

 香織が頷く。
 
 類から香織と付き合うことになったと告げられた時の記憶がまざまざと脳裏に蘇り、美羽の心臓がキリキリと痛む。

「へぇ。1日で心変わりとは、何があったんやろうな」

 龍也の視線が類だけではなく、美羽も見つめているような気がして……美羽は、龍也と視線が合わせられなかった。

「付き合いたては、何しても楽しいでな。ええなぁ」

 そう言いながら、龍也が立ち上がる。

「ほな、美羽。いこか」
「ぇ?」
「酒買いに行くん、付き合うてくれへん。やっぱ日本酒やないと、気分のらへん」

 なんで、私が?

 美羽が座ったまま龍也を見上げると、類がすっくと立ち上がった。

「僕が行くよ。荷物持ちなら、男の方がいいだろうから」
「なにゆうてん。自分は彼女の世話焼いときぃや。せっかく花見にきてんねんから。萌たんは、愛しのこうたん待っとかぁなあかんしな」
「ブホッッ」

 おにぎりを食べていた萌がご飯粒を吹き出し、咽せた。

「じゃあ、隼斗兄さんに行ってもらえばいいじゃん」

 類が機嫌の悪い声を上げた。

「アホか。男と桜並木歩いて、なにが楽しいんや。そないな趣味あらへんわ。
 ほら、美羽行くで」

 龍也の強引さに押されて、美羽は仕方なく立ち上がった。

「楽しもな、デート」

 そんなこと、絶対に思ってないくせに……

「龍也」

 隼斗が龍也の背中に声を掛けた。

「なんや」
「お前、美羽をからかうなよ」
「ハハッ、心配性の弟がおるう思たら、兄貴までか。甘やかされてるなぁ、自分」

 龍也の言葉に刺を感じ、美羽は押し黙った。

 龍也が、隼斗に軽く手を挙げる。

「あんな、お姫はんとの仲を深めるだけやで。心配しなや。ほなな」
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