<完結>【R18】深窓の令嬢は美麗なピアニストの叔父と禁忌の恋に堕ち、淫らに溺れる

奏音 美都

文字の大きさ
49 / 156

43.過去から語られる過去

しおりを挟む
「私……ノアがステファンを好きだと知ったことよりも……ステファンがノアを弟のように思っていると聞いたことの方が、ショックでしたの……」

 それを聞いてステファンは、ハァ……と溜息をついた。

「ベンジーから聞いたんですね。まったく、あのお喋りは……」
「あっ! ベンジーが悪いのではありません。私が気にかけていたので、それで気を遣ってくださって……」

 サラは心の中で、余計なことを言ってしまったことをベンジャミンに謝った。

 後で、咎められないといいのですが……

「ステファンとノアが二重奏した時、指揮者も何の声掛けもなく、ただアイコンタクトと呼吸だけで完璧なタイミングで演奏が始まって……それが、何だか私には特別な絆のようなものに思えて、焦りを感じたんです。
 今まで私にしか感じられなかった特別意識がノアに向けられてるんじゃないかって、強迫観念に駆られてしまって。 
 あの、ノアとは……」

 私は、何が言いたいのでしょう。ノアとは何もないと分かっているはずなのに、それでも何かを感じてしまって……ステファンに、聞かずにはいられないだなんて。

「気になるのですか? 彼との仲が……」

 ステファンは目を細めて唇の端を上げ、意地悪っぽく笑みを浮かべた。

「も、もちろんステファンにその気がないのは分かっています。ですが……あんな美少年に迫られたら、ステファンでもドキドキするのではないかと思ってしまいまして……」

 私など、ただノアを見ているだけで見惚れてしまいました。それが、あ、あんな……腕を首に回されてキス、とか……
 男性同士と分かっていても、美しくて……嫉妬の前に、目が離せませんでした。

 ステファンは、男性同士のキスでさえも……慣れているのでしょうか。

 サラは急に、不安になった。

 ステファンはサラがきつく回していた腕を解き、サラの顔を覗き込んだ。その愛情の籠もった柔らかいライトグレーのステファンの瞳を見た途端、サラは自分の心配が杞憂だったと安心することができた。

「ノアは、似ているのですよ、昔の私……サラが生まれる前の私に」
「昔の、ステファンに……ですか?」
「えぇ。私がノアに会ったのはラインハルトに師事してからでしたが、彼の曲を初めて聴いた時、すぐに昔の自分と重なりました……

 彼は楽譜通りにピアノを弾くことは出来るし、その技術は非常に高いものでしたが、そこに彼の心というものは全くありませんでした。
 私は、そんなノアを気にかけるようになったのです。

 そして、私たちには幾つかの共通点があることが分かりました。私生児として育ったことや、上流階級の父親に養子として引き取られたこと、義母と上手くいってなかったこと、辛く苦しい思いをピアノを弾くことで乗り越えてきたこと……

 それから、懐いてくるノアが少しずつ笑顔を見せるようになり、他の兄弟弟子とも会話をするようになったり、演奏も今までのような無機質なものから感情が滲み出るようになったりと、まるで昔の自分が立ち直っていく姿が目の前で見せられているかのように錯覚して、自分のことのように嬉しく感じました。

 けれどそれは、ノアを過去の自分と重ねていたからに過ぎません。私には言うまでもなく、恋愛感情は一切ありません。

 ノアが私に憧れからの恋心を抱いていたのはもちろん気づいていましたが、貴女以外を愛することなど出来ない私には到底受け入れることなど出来ませんでした。何度もノアにはお伝えしたのですが……猪突猛進とは、彼のことを言うのでしょうね」

 ステファンは何かを思い出したかのように、苦笑した。

 サラは、ノアのステファンへの恋心や、ふたりの間に何かあったのか、ということよりも、ノアの過去に重なるように語られていく隠れたステファンの過去の話に愕然とした。

 以前にも、コンサートホールでの帰り道にステファンが過去の話をしてくれたことがあったが、あまり多くは語りたくないようだった。

 ステファンは私が生まれてから18年間、ずっと私を見守り、見つめ続けてきて、私のことは離れていた時間があったものの、何でも知っています。けれど、私は自分が生まれる前のステファンを何も知らないという事実に今更ながら、気付かされました。

 こうしてステファンと恋人になるまで、彼はいっさいサラが生まれる前の話をしてくれたことはなかった。それはステファンに限らず、父や母もそうだった。こちらから聞いてみても、はぐらかされることが常だった。そんな経緯があり、サラは過去について詮索するのをやめたのだった。

 今ならステファンは……彼の過去について尋ねたら、答えてくださるでしょうか。

 サラはステファンに呼びかけた。

「ステファ……」

 サラの唇に、ステファンが人差し指を当てた。

「約束を……果たしましょうか」

 耳元で甘く低いステファンの声が熱い吐息とともに零されて、サラはフルリと身を震わせて身を竦めた。

 やく、そく?

 ステファンが後ろから腕を回して交差した。

「ひゃんっ!!」

 ネットリとしたステファンの舌の感触を耳朶に感じて、サラは奇声を発した。

「今日は、貴女に寂しい思いをさせてしまいましたね。『このお詫びは、今夜にでも……貴女との時間で償いますので……』そう、約束したでしょう?」
「ッハァ。や……ンフ……」

 耳朶を舐められながら紡がれる言葉と吐息に、だんだんとサラの意識が朦朧とし、躰の隅々が急激に熱くなる。

 そう、でしたわ……

 昼間のステファンの言葉を思い出し、サラはカーッと顔が熱くなり、耳まで真っ赤になった。

 話を逸らされてしまいました……ステファンは、過去の話にはやはり触れてほしくないのでしょうか……

 そのわけをサラは考えようとするが、そんな余裕など奪われてしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

憐れな妻は龍の夫から逃れられない

向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

処理中です...