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葛藤

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 素直を失ったショックは、後から僕に重くのしかかった。

 こんな辛い別れを、僕はこれからまだあと4人と経験しなきゃいけないの? 勝太も、ロイヤルも、ダリアも、創一様も……失いたくない。
 だって、彼らは僕にとって愛しい、必要な存在なんだ。

 でもそれは、僕の我儘でしかない。

 直貴はずっと、苦しみの中でもがき続けていた。そんな苦しみから逃れるため、別の人格に自分の意識を預けたんだ。

 そして今、彼は本来の自分を取り戻そうとしている。そんな直貴に対して、『統合しないで』なんて、言えるはずなかった。だって僕は、苦しむ直貴をずっと傍で見てきたんだから……

 僕は直貴に、勝太やロイヤル、ダリア、そして創一様との出会いと思い出を語った。それを語る上で、彼らと『行為』に及んだことは、避けて通ることは出来なかった。

「……そう、だったんだね……」

 影が落ちた睫毛が震え、直貴の気持ちが痛いほど伝わって来る。

「ごめん……」

 思わず謝ったものの、でもそれをきっと彼らも聞いてるわけで……だからと言って今更撤回するわけにもいかず、僕はこれ以上余計なことを言わないよう、口を閉ざした。

「夕貴の、せいじゃないよ……僕はずっと夕貴からの好意を知っていたのに、それを受け入れることを拒否していた。夕貴からの想いだけじゃない。自分の夕貴への気持ちさえ否定し、拒絶していたんだ。
 そんな僕に、夕貴を責める資格なんてないよ」

 直貴はそれから、自嘲するように笑った。

「フフッ……自分の中にいる人格に嫉妬するなんて、なんだかおかしな気分だ。僕は夕貴を抱いた記憶がないのに、この躰は夕貴を知っている……」

 熱の籠った瞳で直貴に見つめられ、僕の躰がジンと疼いた。

 もう1年以上、肌を合わせていない。温もりが、恋しかった。

 それは、僕の肌の温もりを知っている勝太もロイヤルもダリアも、創一様も同じだった。

 彼らは以前ここで生活していた時のように、何不自由ない暮らしを約束されていた。けれど、決定的に大事な何かーー『僕』が、足りないのだ。

 ロイヤルもダリアも創一様も大人だから、カウンセリングを進めていく中で、直貴がそう望むのなら統合を受け入れてもいいと納得してくれた。

 断固として譲らないのは、勝太ひとりだった。

「俺は納得いかねー。たとえ直貴が基本人格だって言われても、俺はあいつに呑み込まれるつもりはねぇ!
 俺は俺だ!! 俺には俺の人生がある。直貴の中で生き続けるなんて綺麗事言われて、『あぁそうですか』なんて、受け入れられるはずねーだろ!!
 俺は……俺は、夕貴をこの手で……自分の手で、触れたいんだ!!」
「勝太……」

 僕だって、触れたいよ。勝太に、ロイヤルに、ダリアに、創一様に触れたい。触れて、欲しい……

 みんな、それぞれに違うんだ。

 直とは、決定的に違う。直は、直貴の幼少期を閉じ込めた分身だったから……悲しかったけれど、まだ受け入れることが出来た。だってそれは、虐待という苦しい過去を受け入れ、未来へと踏み出すために、直貴に必要なことだったから。

 でも、彼らはどうなの? 本当に……本当に、彼らは直貴の中に統合されないといけないの?

 分からない。分からないよ……
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