裏切りの魔男

takupon

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異世界漂流編

脱獄

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時間は目に見えない、そう実感させられる。一日は既に経っているであろう。地下室に日の光が届かない以上、時間の流れは感じられないのだ。
腕は煉瓦(レンガ)に掛かってある手鎖(てじょう)に捕まり宙で浮いてる状態だ。痒いとこも掻けない。煉瓦(れんが)の隙間から零れ落ちる雫でさえ今は恋しい。腹の音もしなくなってしまった。
目蓋が重い。このまま寝てしまえばそのまま死んでしまうのではないか、そんな怖いことさえ考えてしまう。寒さのせいで手が悴んで握ることすら叶わない。幻聴なのだろうか、魔女であるディアメルの家辺りから破壊音が聞こえてくる。そろそろ本当にやばいのかもしれない、と彼方の脳が警戒音を鳴らす。階段を駆け降りる足音が耳に届く。
死者の迎えでも来てしまったのだろうか、彼方は地下室の階段に眼を向け――



「イッチバーーーンにとうちゃーーく!!」



――少女が舞い降りる。
少女はカチューシャらしき物で銀色の髪を纏めている。
彼方と同じぐらいの歳の少女に続き、濃い顔をした長髪を後ろでくくった男と、二十歳前ぐらいの露出のある服を着た褐色の女がやってくる。それぞれ武器を身に付け、同じマントをしている。
最後に入って来た露出女が檻の中にいる絶命寸前の彼方に気がついたのか、血相を変えこちらに近づいてくる。

「おい、ここには誰もいいへんのちゃうかったっんか?!あの魔女は人間に興味がなかったと報告書に記されとったぞ!待っとけ少年、直ぐに助けたるわ!」

魔女とはやはりディアメルのことであろうか。
大阪弁を話す露出女はコンマ数秒で後ろの動揺している男女二人に指示をだしていく。

「セリアは毛布と水を持ってこい、ここは寒すぎる。この檻、電気が流れていて素手では壊せへん、ハリスは檻を叩き斬ったったれや。中の少年は傷つけへんようにやで!」

「わっ、分かった!」

「おう、任せとけ!」

二人の時間が戻り、指示通りに動き出す。
セリアと呼ばれた少女は階段を飛ばし飛ばしで駆け上がっていく。
ハリスと呼ばれた男は背中に担いでいる大剣を豪快に持ち上げ、檻に斬りかかる。
ギィィィィィーーンと金属音が室内に響く。

「おい、少年の腕に繋がっとる鎖を壁からブチ抜け」

「扱いが悪いなぁ~」とぼやきながらハリスは彼方に近づく。
近づいて来て分かるハリスの長身で筋肉質の身体が力任せに鎖を引き抜く。
腕は今まで宙に垂れ下がっていたので疲労が眼に見えやすく、細い木の枝みたいになっている。

「よし、こないな陰気臭い場所、はよ撤収してしまいましょ!」

露出女が檻の中に入り彼方をお姫様抱っこし、階段に駆け寄る。

「お、おい恥ずかしいしヤバイもん当たってるから降ろせよ!!」

露出女の胸が身体に押しつけられ、赤面する彼方が腕を振り払い降りようとする。
階段を上がるたびに彼方の腕に嵌められている鎖がギシギシと音を鳴らす。

「落ち着きな。自分は助けられる身なんやからされるがままになっておけ。飯も全然食えてなくてフラフラなんやろ?」

「ハァッ、お腹なんか空いてね「グゥ~~~」」

上辺で嘘をついても、身体はどこまでも正直なのである。
彼方は先程よりも赤面し、曲がった身体に顔を押しつける。

「フフフ、可愛い奴やね」

「男なんだからそれが当たり前なんだ、気にすんな!」

色目かしい眼を向けてくる露出女と後ろを続くハリスがコメントを添える。
二人の顔を睨み、そこでふと気づく。

「おい、露出女。名前なんだよ?」

ハリスとセリアは名前を知ったが、この露出女の名前はまだ知らないのだ。
後ろのハリスが露出女と聞いて大爆笑をした所で後ろ蹴りされまた暗闇に落ちていく。叫び声がドップラー効果で遠のいて行く。

「うちの名前はカレナ、アマゾネスや。よろしゅうな」

ニッと笑い自己紹介をする。アマゾネスという種族は前の世界でも聞いたことがある。戦闘民族で女しかいない神様の子孫らしい。
カレナの笑顔はランプに照らさせる暗い闇の中でも輝いていた。その輝きに埋もれるように彼方は黙る。照れてしまって恥ずかしくなったのだ。

「おいおい、シカトかいな」

カレナが大きく笑う。天真爛漫な人だ。
前方に光が見える。やっと地下から上がってきたのだ。光の外ではディアメルの家が――



「着いたぞ」



――全壊していた。
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