6 / 39
5. 強引な魔法使い②
しおりを挟む
「ちょっと」
「へえ、机や椅子、ベッドや本棚も、素材やデザインが違うだけで、僕の世界のものと作りはおおかた変わらないんだね」
「まだその設定貫き通す?」
彼は私の言葉を聞き流し、気になるものを次々と手に取って眺めていた。
「これは?」
「スマホ」
「へえ、指で触ると絵が現れる石? じゃあ、これは?」
「イヤホン」
「何に使うの?」
「本気で言ってるの?」
「本当にわからない」
「もうっ」
彼の手から、なかば強引にワイヤレスイヤホンを奪い取り、彼の耳に装着させた。
スマホをタップし、ブルートゥースで接続した音楽を流せば、彼はなんだとばかりにフッと笑った。
「なんだ。あるじゃないか、魔道具」
「もうそれいい加減にして」
腹が立って彼の耳からイヤホンを抜き取った。
「気がついたら、見慣れない服装の人々や建物ばかりだったんだ」
「記憶喪失なの?」
「記憶はちゃんとある。名前はセラドナイト・モンテルー。アルビオン王国で育ち、今年十七になった。魔法はアルビオン王国の女王陛下直々に教わった」
「妄想癖?」
彼は呆れたように私を見て溜息を大きくつくと、「ちょっと手を貸して」と言いながら私の片手を握った。
「カイリ様には使うなって言われたけど、君が信じてくれないとここで暮らせなさそうだし」
彼が空いている方の手の指をパチンと擦り鳴らした瞬間、急激な浮遊感を感じ、全身が外気に触れているのを感じた。
私の目の前の視界には、陶器のような肌をした美しい顔が、感情の読めない表情でまっすぐに私を見つめていた。
そしてなぜかその背景には星空が見えた。
嫌な予感に視線を足元に向ければ、そこに地面はなく、煌めく街の夜景が広がっていることに気がついた。
「ぎゃああああああああ」
思わず両手を伸ばしてしがみついたのは、言うまでもなく金髪の彼の身体。
私を落ち着かせるように、両手でぽんぽんと背中を叩いていた。
「信じた?」
視線をまたちらりと足元に戻せば、飛行機がライトをチカチカと点滅させながら横切っていった。
「はいはい、信じるから、もうおろして!!!!」
「え、降ろしていいの?」
背中に添えられていた彼の手がわずかに離れ、恐怖心でさらに彼にしがみついた。
「だめだめだめだめ」
「冗談だよ」
またもパチンと音が鳴った瞬間、今度は砂漠の上に座っていた。
下半身に安定感が戻り、目の前には砂の地平線と満天の星空が広がっていた。
「セラ……ドア……さん」
まだ心拍数は上がったままで、呼吸が乱れていた。
私はここからちゃんと帰してもらえるのだろうか。
「セラドナイト・モンテルーだよ。難しければセラでいいよ」
「セラ……あなた……何者なの?」
「だから、アルビオン王国の魔法使いだって。
トーコがもしも今ここがどこかわからず戸惑っているなら、その気持ちが僕がこの世界に来て感じた気持ちだよ」
「それは……とても不安だったでしょうね」
「ああ。でも僕は運良くすぐにカイリ様と出会えたからそれほどでも。本当に大変だったのはカイリ様だよ。あのお方は十三歳でこちらに飛ばされて、不安なまま成長された。その苦難は……計り知れない。カイリ様が消えたことを嘆き、必死に探し続けている人は今でもいる……」
隣に座るセラに顔を向けた。
遠くを見つめるセラの横顔は彫刻のように美しく、でも儚げで、きっとその儚さは、伊勢さんの悲しみや苦しみに感情を憑依するように重ね、顔に滲み出てしまっているのだろう。
私は、ゆっくりと口を開いた。
「もし私が……ある日目覚めてこの砂漠にいたとしたら、確かに恐怖でしかない。
どこに向かえばいいかもわからないし、知ってる人もいない。言葉だって通じるかもわからない。
消えた私を心配して、伊勢さんならきっと、また自分を責めてしまうかもしれない。
そんなことを考えると、私もまた苦しくてしかたないかも」
セラが私のほうに顔を向け、優しく微笑んだ。
「トーコは優しいんだね」
「そっちこそ」
初めて、セラに微笑むことが出来た。
突然知らない場所に来てしまい戸惑っていたに違いない彼に、本当なら最初に微笑んであげて、安心させてあげるべきだった。
急に私を見ていたセラから笑顔が消え、真剣な表情に変わった。
「僕が突然現れてトーコが戸惑うのも無理もない。でも、今は助けて欲しいんだ」
セラの柔らかそうな緩くうねる金の髪が、夜風に乗って優しく揺れていた。
「へえ、机や椅子、ベッドや本棚も、素材やデザインが違うだけで、僕の世界のものと作りはおおかた変わらないんだね」
「まだその設定貫き通す?」
彼は私の言葉を聞き流し、気になるものを次々と手に取って眺めていた。
「これは?」
「スマホ」
「へえ、指で触ると絵が現れる石? じゃあ、これは?」
「イヤホン」
「何に使うの?」
「本気で言ってるの?」
「本当にわからない」
「もうっ」
彼の手から、なかば強引にワイヤレスイヤホンを奪い取り、彼の耳に装着させた。
スマホをタップし、ブルートゥースで接続した音楽を流せば、彼はなんだとばかりにフッと笑った。
「なんだ。あるじゃないか、魔道具」
「もうそれいい加減にして」
腹が立って彼の耳からイヤホンを抜き取った。
「気がついたら、見慣れない服装の人々や建物ばかりだったんだ」
「記憶喪失なの?」
「記憶はちゃんとある。名前はセラドナイト・モンテルー。アルビオン王国で育ち、今年十七になった。魔法はアルビオン王国の女王陛下直々に教わった」
「妄想癖?」
彼は呆れたように私を見て溜息を大きくつくと、「ちょっと手を貸して」と言いながら私の片手を握った。
「カイリ様には使うなって言われたけど、君が信じてくれないとここで暮らせなさそうだし」
彼が空いている方の手の指をパチンと擦り鳴らした瞬間、急激な浮遊感を感じ、全身が外気に触れているのを感じた。
私の目の前の視界には、陶器のような肌をした美しい顔が、感情の読めない表情でまっすぐに私を見つめていた。
そしてなぜかその背景には星空が見えた。
嫌な予感に視線を足元に向ければ、そこに地面はなく、煌めく街の夜景が広がっていることに気がついた。
「ぎゃああああああああ」
思わず両手を伸ばしてしがみついたのは、言うまでもなく金髪の彼の身体。
私を落ち着かせるように、両手でぽんぽんと背中を叩いていた。
「信じた?」
視線をまたちらりと足元に戻せば、飛行機がライトをチカチカと点滅させながら横切っていった。
「はいはい、信じるから、もうおろして!!!!」
「え、降ろしていいの?」
背中に添えられていた彼の手がわずかに離れ、恐怖心でさらに彼にしがみついた。
「だめだめだめだめ」
「冗談だよ」
またもパチンと音が鳴った瞬間、今度は砂漠の上に座っていた。
下半身に安定感が戻り、目の前には砂の地平線と満天の星空が広がっていた。
「セラ……ドア……さん」
まだ心拍数は上がったままで、呼吸が乱れていた。
私はここからちゃんと帰してもらえるのだろうか。
「セラドナイト・モンテルーだよ。難しければセラでいいよ」
「セラ……あなた……何者なの?」
「だから、アルビオン王国の魔法使いだって。
トーコがもしも今ここがどこかわからず戸惑っているなら、その気持ちが僕がこの世界に来て感じた気持ちだよ」
「それは……とても不安だったでしょうね」
「ああ。でも僕は運良くすぐにカイリ様と出会えたからそれほどでも。本当に大変だったのはカイリ様だよ。あのお方は十三歳でこちらに飛ばされて、不安なまま成長された。その苦難は……計り知れない。カイリ様が消えたことを嘆き、必死に探し続けている人は今でもいる……」
隣に座るセラに顔を向けた。
遠くを見つめるセラの横顔は彫刻のように美しく、でも儚げで、きっとその儚さは、伊勢さんの悲しみや苦しみに感情を憑依するように重ね、顔に滲み出てしまっているのだろう。
私は、ゆっくりと口を開いた。
「もし私が……ある日目覚めてこの砂漠にいたとしたら、確かに恐怖でしかない。
どこに向かえばいいかもわからないし、知ってる人もいない。言葉だって通じるかもわからない。
消えた私を心配して、伊勢さんならきっと、また自分を責めてしまうかもしれない。
そんなことを考えると、私もまた苦しくてしかたないかも」
セラが私のほうに顔を向け、優しく微笑んだ。
「トーコは優しいんだね」
「そっちこそ」
初めて、セラに微笑むことが出来た。
突然知らない場所に来てしまい戸惑っていたに違いない彼に、本当なら最初に微笑んであげて、安心させてあげるべきだった。
急に私を見ていたセラから笑顔が消え、真剣な表情に変わった。
「僕が突然現れてトーコが戸惑うのも無理もない。でも、今は助けて欲しいんだ」
セラの柔らかそうな緩くうねる金の髪が、夜風に乗って優しく揺れていた。
3
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
グリモワールの塔の公爵様【18歳Ver】
屋月 トム伽
恋愛
18歳になり、結婚が近いと思われたプリムローズは、久しぶりに王都の邸にいる婚約者に会いに行っていた。
だけど、義姉クレアと婚約者ジャンのベッドインを目撃してしまい、婚約破棄されてしまったプリムローズ。
プレスコット伯爵家から追い出すための名目で、金持ちの子爵様に売られるも同然の後妻に入ることになったプリムローズ。
そんなある日、夜会で出会ったクライド・レイヴンクロフト次期公爵様から結婚をもうしこまれる。
しかし、クライドにはすでに親の決めた婚約者がおり、第2夫人でいいなら……と、言われる。
後妻に入るよりは、第2夫人のほうがマシかもとか思っていると、約束だ、と頬にキスをされた。
「必ず迎え入れる」と約束をしたのだ。
でも、クライドとのデートの日にプリムローズは来なかった。
約束をすっぽかされたと思ったクライドは、その日から一向にプリムローズと会うことはなかった。
時折出す手紙のやり取り。プリムローズがどうしたいのかわからないクライドは困惑していた。
そして、プレスコット家での現状を知り、クライドはプリムローズをプレスコット伯爵邸から連れ出し、グリモワールの塔に連れて行き……。
最初は、形だけの結婚のつもりかと思っていたのに、公爵様はひどく甘く、独占欲の固まりだった。
※以前投稿してました作品を【18歳Ver】に書き直したものです。
【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました
藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】
※ヒーロー目線で進んでいきます。
王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。
ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。
不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。
才能を開花させ成長していくカティア。
そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。
立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。
「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」
「これからも、私の隣には君がいる」
甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。
軽薄公爵のお気に入り
宝月 蓮
恋愛
ゼーラント伯爵令嬢イリスは、社交界デビューしたばかり。姉のリンデに守られながら社交界に慣れていく中、軽薄公爵と噂され、未亡人や未婚の令嬢と浮き名を流すルーヴェン公爵家の若き当主、ヤンと知り合う。
軽薄だと噂されているヤンだが、イリスは彼がそのような人物だとは思えなかった。
イリスはヤンと交流していくうちに、彼に惹かれ、そして彼が過去に何かあったのだと気付き……?
過去作『返り咲きのヴィルヘルミナ』と繋がりがありますが、お読みでなくても楽しめるようになっています。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
Marry Me?
美凪ましろ
恋愛
――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。
仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。
不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。
※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。
※彼の過去だけ、ダークな描写があります。
■画像は、イトノコさまの作品です。
https://www.pixiv.net/artworks/85809405
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる