十七歳の春、不本意ながら魔法使いの妻になる

さくらぎしょう

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5. 強引な魔法使い②

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「ちょっと」

「へえ、机や椅子、ベッドや本棚も、素材やデザインが違うだけで、僕の世界のものと作りはおおかた変わらないんだね」

「まだその設定貫き通す?」

 彼は私の言葉を聞き流し、気になるものを次々と手に取って眺めていた。

「これは?」
「スマホ」
「へえ、指で触ると絵が現れる石? じゃあ、これは?」
「イヤホン」
「何に使うの?」
「本気で言ってるの?」
「本当にわからない」

「もうっ」

 彼の手から、なかば強引にワイヤレスイヤホンを奪い取り、彼の耳に装着させた。
 スマホをタップし、ブルートゥースで接続した音楽を流せば、彼はなんだとばかりにフッと笑った。

「なんだ。あるじゃないか、魔道具」
「もうそれいい加減にして」
 
 腹が立って彼の耳からイヤホンを抜き取った。

「気がついたら、見慣れない服装の人々や建物ばかりだったんだ」

「記憶喪失なの?」

「記憶はちゃんとある。名前はセラドナイト・モンテルー。アルビオン王国で育ち、今年十七になった。魔法はアルビオン王国の女王陛下直々に教わった」

「妄想癖?」

 彼は呆れたように私を見て溜息を大きくつくと、「ちょっと手を貸して」と言いながら私の片手を握った。

「カイリ様には使うなって言われたけど、君が信じてくれないとここで暮らせなさそうだし」

 彼が空いている方の手の指をパチンと擦り鳴らした瞬間、急激な浮遊感を感じ、全身が外気に触れているのを感じた。

 私の目の前の視界には、陶器のような肌をした美しい顔が、感情の読めない表情でまっすぐに私を見つめていた。

 そしてなぜかその背景には星空が見えた。

 嫌な予感に視線を足元に向ければ、そこに地面はなく、煌めく街の夜景が広がっていることに気がついた。

「ぎゃああああああああ」

 思わず両手を伸ばしてしがみついたのは、言うまでもなく金髪の彼の身体。
 私を落ち着かせるように、両手でぽんぽんと背中を叩いていた。

「信じた?」

 視線をまたちらりと足元に戻せば、飛行機がライトをチカチカと点滅させながら横切っていった。

「はいはい、信じるから、もうおろして!!!!」

「え、降ろしていいの?」

 背中に添えられていた彼の手がわずかに離れ、恐怖心でさらに彼にしがみついた。

「だめだめだめだめ」

「冗談だよ」

 またもパチンと音が鳴った瞬間、今度は砂漠の上に座っていた。

 下半身に安定感が戻り、目の前には砂の地平線と満天の星空が広がっていた。

「セラ……ドア……さん」

 まだ心拍数は上がったままで、呼吸が乱れていた。

 私はここからちゃんと帰してもらえるのだろうか。

「セラドナイト・モンテルーだよ。難しければセラでいいよ」

「セラ……あなた……何者なの?」

「だから、アルビオン王国の魔法使いだって。
 トーコがもしも今ここがどこかわからず戸惑っているなら、その気持ちが僕がこの世界に来て感じた気持ちだよ」

「それは……とても不安だったでしょうね」

「ああ。でも僕は運良くすぐにカイリ様と出会えたからそれほどでも。本当に大変だったのはカイリ様だよ。あのお方は十三歳でこちらに飛ばされて、不安なまま成長された。その苦難は……計り知れない。カイリ様が消えたことを嘆き、必死に探し続けている人は今でもいる……」

 隣に座るセラに顔を向けた。

 遠くを見つめるセラの横顔は彫刻のように美しく、でも儚げで、きっとその儚さは、伊勢さんの悲しみや苦しみに感情を憑依するように重ね、顔に滲み出てしまっているのだろう。

 私は、ゆっくりと口を開いた。

「もし私が……ある日目覚めてこの砂漠にいたとしたら、確かに恐怖でしかない。
どこに向かえばいいかもわからないし、知ってる人もいない。言葉だって通じるかもわからない。
消えた私を心配して、伊勢さんならきっと、また自分を責めてしまうかもしれない。
そんなことを考えると、私もまた苦しくてしかたないかも」

 セラが私のほうに顔を向け、優しく微笑んだ。

「トーコは優しいんだね」

「そっちこそ」

 初めて、セラに微笑むことが出来た。

 突然知らない場所に来てしまい戸惑っていたに違いない彼に、本当なら最初に微笑んであげて、安心させてあげるべきだった。

 急に私を見ていたセラから笑顔が消え、真剣な表情に変わった。

「僕が突然現れてトーコが戸惑うのも無理もない。でも、今は助けて欲しいんだ」

 セラの柔らかそうな緩くうねる金の髪が、夜風に乗って優しく揺れていた。



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