溺れるカラダに愛を刻んで【完結】

山葵トロ

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 「……だからね、うちにおいでよ。 美花ちゃん 」


 途方に暮れた気持ちの中、柔らかい声に自分の名前を呼ばれ、ハッ……として顔を上げる。
 
 目に映ったのは、花が零れるような優しい笑顔。
 キラキラと輝く黒髪は、光を集めて円い輪を作り、まるで昔絵本で見た天使様みたいだと美花は思った。

 しかし、思った後に直ぐにその考えを打ち消す。


 天使なんて、神様なんて居る訳がないと。

 いたら、どうして私はこんなことになってるの?


 ……まぁ、いい。コイツが何を企んでいるのかなんて知らないけれど、男が女に望んでいるものなんて限られてる。


 「分かった、アンタんとこに行くわ 」


 そう言うと、美花は男に対して笑顔を作る。
 住まないかと言っているということは、暫くは置いてくれる気だろう。

 そうでなくても、今夜、寝る場所を探す手間が省けたと思えばいい。



 ◆◆◆◆◆◆



 「……美花ちゃん、ごめん。 呼び出し入っちゃった 」


 自宅だというマンションのエントランスに入った途端、浩峨は、鳴り響いた携帯を取ると、申し訳なさそうに美花を見た。

 「呼び出し? 」

 「うん、仕事 」


 ボトムのポケットから取り出した部屋の鍵を、美花に渡す。

 「このまま今夜は帰れなくなると思うから、美花ちゃんは部屋ん中で自由にしてて? 」

 「自由にって……、ちょっと!! 」


 踵を返し、今来た道を引き返していく浩峨を美花は慌てて追う。


 「部屋は403だよ。 あっ、食費はカップボードの右上の引き出しに入ってるから好きに使っといて 」

 「好きにって!? ちょっと、待ちなさいってばっ!! 」

 「じゃねっ、お留守番よろしくー 」


 緊急なのだろうか、浩峨はものすごいスピードで駐車場まで下りるとさっきまで乗っていた車に乗り込んだ。
 その後は、美花のことは一瞥もせずにハンドルを握り、車体を滑らせる。

 握り締めた手の中で、チャリ……と鍵が音を立てた。


 「……何んなのよ 」

 美花は、あっという間に見えなくなってしまった男が付けた軌跡を、いつまでも呆然と見つめていた。






 「何んなのよー!! 」


 しかし、部屋に入って美花はさっきよりも更に大きな声で叫ぶこととなる。


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