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しおりを挟むいくら、主からいいと言われたからって、初めて会った、よく知らない相手の部屋に一人で入るのは流石に抵抗があった。
それでも、他に行く宛てがある訳でもない。
403、橘……
表札の部屋番号の横に書かれた手書きの字。
教えてもらった部屋の前で暫く逡巡したのち、美花は思い切って預かった鍵を鍵穴に通した。
「……おじゃまします 」
誰もいないと分かっていてそう言うと、美花は部屋の扉を開ける。
昼だというのに薄暗い室内、同時に籠った匂いが鼻を突いて、美花は形の整った眉を顰めた。
「……嘘、でしょう? 」
今まで、色々な男の部屋に行ったことはある。
だから、男は得てして、片付けが苦手だというのも分かっていたつもりだった。しかし……。
散らかる衣類、雪崩を起こしている書物の山、そして溢れそうな沢山のごみ袋。
いや、ごみ袋に入れてある分だけまだましだ。
部屋に入ってすぐのキッチンの流し台は正視したくもない状態だったし、視界の端に見えたカサコソと動く黒い物体にはクラリと目眩を起こしそうになった。
有り得ない。 こんな部屋、今まで生きてきて一度も見たことがない。
本当にアイツはここで暮らしているというの?、……というか、ここは人間の住む所?!
信じらんない、信じらんない、信じらんないっ!!
「何んなのよーっ!! こんな所で、どうやって自由にしてろって言うのよっ!」
思い切り叫んで、肩で息をした。
ここまで落ちぶれたかと、悔しくて涙さえ滲む。
一瞬、この部屋に背を向けて去りたい衝動に駆られるが、美花はぐっ……と堪えた。
だって、他に行く所なんて……無い。
少し躊躇ったのち、ぐいっと袖口で涙を拭く。
「何踏むか分からないから、これくらい我慢しなさいよね」
ここには居ない男にそう呟くように言うと、美花は覚悟を決めて土足で部屋に入っていった。
◆◆◆◆◆◆
「うっわー……、すごいなぁ 」
いつの間にか戻って来ていた部屋の主は、玄関口で部屋を見渡すように額に手をあてた。
「久し振りに見たよ、綺麗なこの部屋」
何度も感嘆の声が漏らす浩峨を、奥のリビングの真ん中に疲れて直に寝ていた美花はぼうーっと見上げる。
「……お帰りなさい 」
いつの間に眠ってしまったのだろう。あまりに酷い部屋に、この男が行ってしまってからずっと片付けをしていた。
「ゴミも全部、捨ててくれたんだ 」
「……下にいた人に聞いたら、ゴミの保管場所を教えてくれたから 」
「あ…… 」
つかつかと側に寄ってきた浩峨がふっ……と笑みを浮かべて、傍らにしゃがみこみ、美花の少しだけウェーブの残る乱れた髪に手を伸ばして来る。
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