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「こんばんは、お疲れさん 」
眠っている美花を置いてそっと部屋を出ると、マンションのエレベーターを待つことなく階段を降りながら、浩峨は弟である 橘 浩輔 に電話を掛けた。
こんな時間になんだよ……と、迷惑そうな声を出す弟に、浩峨は笑いながら答える。
「そんな鬱陶しそうな声出すなよコウちゃん。 仕事は終わったんだろ? 」
『今、朔耶送って帰ってきたとこ。 で、何? もしかして妹が何かしでかしたか? 』
「アレアレ、【妹】なんて言っちゃって気が早いねぇ 」
くくく……と揶揄えば、「切るぞ 」と電話の向こうから凄まれた。
直ぐに反応して、可愛いったらない。
浩輔は今、捕まえて、閉じ込めて、宥めすかして、泣き付いて、やっと手に入れた子猫ちゃんと一緒に暮らしている。
少々気が強過ぎるのが難だが、毛並みも性格も血統も申し分のないコだ。
「そんなこと言っていいのかな? お前が薔薇色の新婚生活を送れるのは、誰のお陰だと思ってんの? 」
うまいこと言ったとほくそ笑めば、『……とっとと用を言え 』と露骨に嫌な声で言われた。
用ねぇ……。
聞きたいことは沢山有り過ぎて、何から話していいのか迷う。
「うーん……、悩むなぁ 」
『……あのなぁ、悩むんなら掛けてくる前に悩めよ 』
耳元で聞こえる、浩輔のため息。 流石に苛ついて、言い返した。
「コウちゃん、俺だって当直明けの通常勤務で疲れてんの。ため息吐きたいのは俺の方。自分がさっさと話を終わらせて可愛い子猫チャンといちゃいちゃしたいからって、オニイチャンのこと邪険にするのはやめてくれる?
第一、俺が困惑してるのは、お前から事前に聞いていたことと話が違うからだろう? 」
まるで儚い生き物のように、腕の中で小刻みに震える。
強く触れたら壊してしまいそうで、なのに滅茶苦茶にしてやりたい衝動にかられる。
《……耶さ……っ 》
「なぁ、あの子、……朔耶のこと好きだったのか? 」
何も分からなくなりながら、最後、助けを呼ぶように朔耶の名前を呼んでいた。
『はぁっ? そんな訳あるかよ、婚約披露の会場にまで乗り込んでナイフで刺すくらいだぞ? 殺したいくらいに憎んでるに決まってるだろうが 』
そうだ、普通ならそう思う。
いくら家族を滅茶苦茶にされたという本人の大義名分があっても、家と会社を乗っ取り、一族を離散させた朔耶は美花からすれば家の敵でしかない。
突然、誇りである七瀬家を潰し、裕福で安寧である生活を奪い壊した朔耶は、憎んでも憎み足りない存在の筈だ。
実際、自分もそう思っていた。だが、それなら?
本当に憎いだけなのなら、あんなに胸を抉るような切ない声を出すだろうか? 瞳いっぱいに涙を溢れさせるだろうか?
「本当に、そうかな…… 」
ポツリと呟いた言葉に、至極全うな返事が返ってくる。
『確かに親の方は朔耶と結婚させようと目論んでいたらしいが、それは有り得ないんじゃないか? 』
「……だといいんだけどな。 俺、あんな、目が合っただけで女を孕ませるとか言われてるヤツに勝てるとは思えないからなー 」
しかし、真面目に返してきた浩輔にハハハ……と冗談めかして答えたら、唖然としたように黙り込まれた。
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