溺れるカラダに愛を刻んで【完結】

山葵トロ

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 「……な、何か、変じゃない? 」


 浩峨にリビングへ運ばれた美花は、横抱きにされたままソファーに腰掛けられておずおずと聞いてみた。


 「変? どこが? 」

 「あの……、私、橘さんの膝から降りた方がいいと…… 」

 「どうして? 」

 堂々とした話し方に、まるでこっちがオカシイことを言っているような錯覚に陥りそうになる。

 「……! だって、このままじゃ話しづらいわよね? 」


 そうそう、これじゃあ話しづらいから。

 理由を見付けて離れようとすると、強い力で腰を抱かれた。

 「大丈夫。 全然、問題ない 」

 「いえ、あの…… 」

 にっこりと笑う笑顔が近くて、美花はドキドキとして顔を伏せる。

 そっちは大丈夫でも、こっちは困ってしまうのよ……!


 「そ、それで、何を話すっていうの? 」

 落ち着かなくて、視線を泳がせながら聞くと、浩峨は美花の想像外のことを口にした。


 「うん、あのね。 壱葉くん……、お兄さんが君にすごく会いたがってるんだ 」

 「え…… 」


 瞳をパチクリする美花の髪を、浩峨が指先で玩ぶ。

 「美花ちゃんは、どうかな? 」

 「どうして? 今更会って何をするっていうの? 」


 釈放された時、確かに初めは兄を頼ろうと思った。
 しかし、それ以外の理由で会いたいなんて思わない。壱葉兄さんの顔を見れば、思い出さなくてもいいものを、思い出したくもないことまで嫌でも掘り起こされてしまうだろうから。

 顔を強張らせた美花を見て、浩峨は苦笑する。


 「そんな顔しないで? 嫌ならいい、無理はしなくていいんだよ?」

 「だったら…… 」


 言い掛けた美花の口元に、浩峨がそっと立てた指を当てた。
 続きを制止されたことが分かって、美花は意味が分からずに浩峨を見つめる。

 すると浩峨は、柔らかく瞳を細めると、優しく美花を見つめ返してきた。


 「無理はしなくていい。 会いたくなければ会わなくてもいい。 だけど、少しだけ僕の話を聞いてくれる? 」

 大事な話をするのだと、美花は予感した。
 コクリ……と頷いた美花の頭を、浩峨がよしよしと撫でる。


 「美花ちゃんはいいコだね。そんな君が、誰からも愛されてない訳ないんだよ 」

 「そっ、そんなの要らないわよ……っ、子どもじゃないんだから! 」


 黙って話を聞くように言われたのに、心の奥のやんわりとした部分を暴かれた気がして、美花は大きな声を出した。
 けれど、浩峨は表情を微塵も変えずに別の方向から踏み込んで来る。

 「そうだね。じゃあ、これは? 美花ちゃんは好きな人が居るんだったよね、どうしてその人のことを好きになったの? 」

 唐突な質問に、ギョッとした。


 「そんなこと、あなたに…… 」

 「大好きだったんでしょう? 」

 関係無いという言葉を遮られて、美花は慌てて浩峨から視線を逸らす。





そう、大好き……だった。


朔耶さんを好きになったのは、些細なきっかけ。



『美花、お客様が来ているよ。 挨拶をして来なさい 』


行事ごとでもないのに家に呼んだ会社関係の人間に、わざわざ挨拶をさせようなんて嫌でも直ぐに気付く。


いつかは家の為の結婚をしなくてはいけないと分かっていたけれど、こんな時ばかり自分を利用しようとする親が許せなくて、あの日、家からこっそり逃げ出そうとした。



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