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久し振りに会った兄は、雰囲気が以前と随分変わっていて驚いた。
「壱葉兄さんが、家政婦をしてるなんてビックリよ」
「……っ! ハウスキーパーって言えよ! 」
今は美花の唯一人の兄となった壱葉は、浩峨の弟であり、朔耶の秘書をしている〈橘 浩輔〉と一緒に暮らしていると聞いていた。
話を聞いただけでは信じられなかったが、浩峨から教えてもらった橘浩輔所有のマンションを訪ねると、本当に壱葉が出てきたので目を円くする。
「下でインターフォンの声を聞いても、まだ嘘かと思ってたわ 」
「……お前、久し振りに会っての第一声がそれ? こっちは気ィ使って、どんな顔して迎えようかと思ってたのに 」
「そんなお気遣いは無用です。……それより早く中に入れてよ、いつまで玄関に置いておく気? 」
美花の高飛車な態度に、壱葉は自分の栗色の髪をくしゃくしゃとかき回すと大仰にため息を吐いた。
「ハイハイ、どうぞお入り下さいよ。でも、俺はここに居候中なんだからな 」
表札に掛かる《橘》の文字をチラリと見やる。
どうしてこういうことになっているのか、美花には皆目検討もつかない。
「……分かってるわよ、お邪魔します 」
大きく開け放たれた扉に、遠慮無く足を踏み入れる。
そして美花が靴を脱いで、中に上がろうとした時だった。
ガチャ……と閉まるドアの音と共に、後ろから手を掴まれる。
「美花…… 」
重なる手から直に伝わる、兄の手の温もり。
「な、に……? 」
「ごめんな。俺、兄貴なのに何もしてやれなくて 」
まさか、壱葉からそんなことを言われるなど思ってもいなくて、咄嗟に反応することが出来ず、美花は体を強張らせる。
恨んでいる筈の男に「助けてやってくれ 」と頭を下げたという壱葉。
それは、プライドを捨てての屈辱的な行為だったに違いない。
それでも、床に頭を付けてまで嘆願してくれたのは、誰の為でも無い美花の為。
「こ、こっちこそ、迷惑を掛けて悪かったわね 」
平然としたいのに、胸がキリキリと痛んで声が震える。
気付いたのか、振り向けない美花の手を握る壱葉の力が強くなった。
「……いいよ、だって美花は俺のたった一人の妹だから 」
自分のしでかしたことは、そんな簡単なことでは無いと思うのに、兄はあっさりと言いのける。
そして、それを素直に聞けている自分。
もっと希薄な家族関係だと思っていた。それならそれでいいとずっと思っていたつもりだったのに、どうやら自分が思うよりも渇望していたらしい。
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