溺れるカラダに愛を刻んで【完結】

山葵トロ

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 「何よ、それ? 」

 美花も、思わずクスリと笑う。
 それから、美花と壱葉は顔を見合わせて微笑い合うと、ポツポツととりとめのない話をした。

 昔の話、些細な日常の話。こうして自然に話せるのは、やっぱり兄妹だからなのかなと美花は思う。


 兄弟《きょうだい》って、根本的な所は似るのかな。

 ……誰の受け売りだかなんて、聞かなくても何となく分かるような気がした。




 「……なぁ、美花。 浩峨さんによくして貰ってるか? 」

 他愛の無い話の途中、突然出てきた名前に、美花は思いの外、動揺した。
 考えれば壱葉にとっても気になることだろうし、聞かれない訳がない。


 「し、して貰ってるわよ? 」

 しかし、そんな美花を見て壱葉は悪い意味でとったのか、眉間にシワを寄せた。


 「確かにあの人は、いつもニコニコしてて人当たりが良い人だけど、一緒に暮らすとなるとなぁ。もしかして、居心地悪いのか? 」

 顎に手を当てて思案する壱葉に、美花は慌てる。


 「壱葉兄さん! ちょっと、早とちりしないでよ! 」

 そのくらいで心が揺れてしまったのは、自分の中に疚しい気持ちがあるから。
 もう会えない愛しい人の名前は、耳にするだけでも切なく胸を鳴らす。


 「失礼なこと、言わないで。 橘さんには、とても優しくして貰ったの。 色々なことを教わったわ。 今まで、誰も教えてくれなかったことも……」


 どうしよう。 兄の前だというのに、泣けてきてしまう。

 ……私、こんなに弱かった?



 「……やっぱり一緒に暮らそうか、美花 」

 ズッ……と洟を啜った美花に、壱葉が語りかけるように言った。


 「え…… 」

 顔を上げた美花に、壱葉がため息を吐きながらトントンと拳で自らの額を叩く。


 「よくしてくれたことは分かった。 そのことについては感謝してる。それでも、他人じゃ無理が有るんだよ。
 俺と暮らしたら、家のことや事件のことを常に思い出して心が不安定になるって言われたから、美花の為にって仕方なく、医者やってて心理カウンセラーの資格も持ってる浩峨さんに預けたけど……」


 「……?! お医者さん? 心理カウンセラー? 」

 話の途中で思わず口を挟んでしまった美花を、逆に壱葉が驚いた顔で見た。
 そして、その表情はみるみると同情的なものへと変わる。


 「知らなかったのか? だから…… 」

 その言葉で美花は、既に壱葉に浩峨への想いを悟られていることが分かってしまった。

 チッ……と、吐き捨てるような舌打ちが聞こえる。


 「早く会わせてくれって言っても、もう少し落ち着くまで待ての一点張りで家族の俺には会わせてもくれないで、こうなることは予想の付いたことじゃないか。 人の心を扱う仕事をしてるなら尚更…… 」


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